第129話 全てを見通す者※
「むっ……! 誰かが俺の戦術を求めている気がする……!」
「お前は何を言ってるんだ」
ロストアルカディアオンラインにて、機械系の巨大レイドボス、古代兵器ガルガンチュアの巨体の上で、何かを受信した様子で呟いたのは青い衣服を身に纏った人間族の男性だ。名をあるてまと言う。
彼は現在、脚部への蓄積ダメージによってダウンしたガルガンチュアの胴体を駆け上がって、頭部への攻撃を試みている最中である。折角の大ダメージを狙えるチャンスタイムがやってきたという時に、エースアタッカーであり指揮官でもある彼が突然わけのわからない事を言い出したとなれば、近くに居るプレイヤーが思わずツッコミを入れたくなる気持ちも分かるだろう。
「となれば、こうしてはいられないな。さっさとこいつを片付けるとしよう」
「えぇ……」
腰のホルスターから二挺拳銃を取り出し、空中で回転しながら銃弾を連射しつつ、同時に複数の魔法を並列詠唱して一瞬で大量のヒット数を稼ぐあるてま。
「よーしお前らヒット数が500超えたら順次バースト入れろー。シールド割れたら俺がEXブレイク入れるから、その後に各自全力攻撃で、はいよろしく」
「もう何なのこの人、こわい」
ちょっとした作業でもするような気軽さでレイドボスをあっさりと追い込み、そのままトドメを刺したあるてまはレイドボス討伐の報酬を受け取ると、挨拶もそこそこにパーティーを脱退し、そのままとある場所へと魔法で
彼が向かったのは、ギルド『兎工房』の本拠地であった。兎耳が生えたドーム状の建築物に入ると、ギルドマスター自らが彼を出迎えた。
「やあ、あるてま君。先輩に用かな」
「ああ。わざわざ出迎えて貰って済まないな、兎先輩」
「構わないとも。後輩を気遣うのもまた、先輩の務めだからね」
二足歩行する兎の着ぐるみを着た、正体不明の人物。着ぐるみの頭の横には二つの、黒い球状の機械が浮遊しており、それぞれ「先」「輩」のホログラム文字が浮かんでいる。兎先輩である。
「では用件を聞こうじゃあないか」
「うむ。実はこれこれこういう物を作って、届けてほしいのだ。届け先は……恐らくアルティリアに送れば目的の人物の所へと届くと俺の勘が言っている」
「ふむふむ、なるほど。承ったよ。しかし先輩の技術力をもってしても、なかなか難易度の高い依頼だね、それは。出来ないとは言わないが、そう簡単には……」
「報酬に取れたてホヤホヤの、ガルガンチュア産のエレメンタルコアとAIチップを渡そう。その他の機械部品もだ」
「先輩に任せたまえ。明日には完成させて届けてみせよう」
着ぐるみのつぶらな瞳がギラリと輝く。エレメンタルコアは、機械系のボス級モンスターからのみ入手できる希少素材であり、兎先輩のようなメカニックにとっては垂涎の品だ。特にレイドボスであるガルガンチュアがドロップした物は、その中でも最高品質の物だ。AIチップも高度な機械を作るには欠かせない、エレメンタルコア程ではないが貴重で高額なアイテムである。
「よろしく頼む」
そう言って各種機械パーツを兎先輩に渡し、あるてまはその場を後にした。
「うーむ、それにしてもあの子は相変わらずよくわからないね。しかし向こうの神々特有の気配は全くしないし、本当にただの人間? この兎先輩の目をもってしても底が見通せないとは」
ただの地球人であるにも関わらず、あの男は物が見えすぎている。しかも世界による改変の影響を受けた様子も無く、アルティリアの事や向こうの世界の事もしっかりと把握している等、とにかく謎が多い。
「このゲームの開発者と同じタイプの、突然変異の天才……なのかな? あんなのがそう簡単にポンポン出てくるとも思えないのだが……ううむ、やはり人は可能性に満ちている。これだから人間というのは興味深く、そして愛おしい」
うんうん、と満足そうに頷いた後に、兎先輩は我に返り、
「おっと。豪語した以上、しっかりと仕事はやらないといけないね。先輩たるもの、納期は厳守しなければ」
そう言って、軽やかなスキップで工房の奥へと消えていったのだった。
そして、次の日……
「配達です。受け取りのサインをお願いします」
頭に兎耳の生えた、メイド服を着た女性……段ボール箱を持った兎メイドがアルティリアの元を訪れ、荷物を渡してサインを求めてきたのだった。
「兎先輩の使者か……? わざわざご苦労様だ」
段ボール箱に兎工房のエンブレムが描かれている事から、荷物は兎先輩からで間違い無いだろう。そう考えたアルティリアは、特に疑う事もなく伝票にサインをして、荷物を受け取った。
そして兎メイドが立ち去ってから、中身は何かなと段ボール箱を開封したところ、中からは兎耳付きのVRヘッドギアのような物と、手紙の入った封筒が入っていた。
封筒を開き、中身を拝見してみると、そこに書いてあったのは以下のような文章であった。
アルティリアへ。
久しぶりだな、あるてまだ。
早速だが本題に入ろう。今回用意したのは、兎先輩に注文して作って貰った訓練用の装置だ。
お前の所に、己の進む道に迷い、俺の戦術を必要とする者が居ると感じたので、その者の助けになればと思って発注した。
また、お前や他の仲間の修行の手助けにもなるだろう。ぜひ役立ててくれ。
それとお前は頭は良いが想定外の事に弱かったり、一人で抱え込みがちな所があるので、もっと周りの者に頼る事を意識するといい。
異郷の地で大変な事も多いだろうが、体に気を付けて、これからも頑張れ。
「何で俺の事を覚えてて、こっちの事情を把握してるのかとかはまあ、あるてま先生だし仕方ないで片づけるとして、だ。あんたは俺の親か何かか……?」
アルティリアは手紙を読んで困惑した。地球に居た頃は実の両親との関係が冷え切って絶縁状態であった為、これまでの人生でかけられた事のない言葉が最後に付け足されていた事も、それに拍車をかけていた。
「……しかし、この装置は一体……訓練用の装置だと……?」
アルティリアは段ボール箱から取り出したヘッドギア型の装置を、目を細めて不審そうに眺めるのだった。
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