第116話 終わり良ければ総てヨシ!
「おい、兜が落ちたぞ!」
「レオニダスの突きは兜を掠めていたみたいだな。しかし掠めただけであれほどの威力とは、敗れたとはいえやはり、レオニダスの腕も大したものだ」
「そんな事より見ろ、とんでもない美女だぞ!」
「待て、よく見ると耳の形が違うが、もしや人間ではないのか?」
「あの美貌と青い髪に長い耳……間違いない、あの方は北部からいらした女神、アルティリア様に相違あるまい!」
「おおっ、あの方が!」
「なるほど、神とあらば、あれほどの強さも納得がいくと言うものだ」
「しかし、何故女神様が槍試合に参加を……?」
観客席から次々と起こるそんな声を、俺の鋭敏な聴覚は全て正確に聞き取っていた。
さて、どうやら正体がばれてしまったようだし、どう対応したものかと思案していると、レオニダスが立ち上がり、こちらに近付いてきた。
レオニダスは俺の突きを直撃して落馬していながら、多少ふらついてはいるものの二本の足でしっかりと立っており、意識もはっきりしている様子だ。流石はメインクラスがタンク系の最上級職なだけあって、呆れるほどのタフさである。
「やはり女神様でしたか」
ほう? この男、俺の正体に勘付いていたか。
ま、近日中に王城を訪ねる予定もある事だし、近衛騎士なら、俺が王都に入った事は知っているだろう。その上で、こいつに勝てるレベルの槍使いともなれば……俺が第一候補に上がるだろう。
「本当に良い経験が出来ました。女神様と戦えた事は身に余る光栄です」
「うむ……良い試合だった。特に最後の突きは見事だったぞ。一つ間違えれば私が敗れていただろう」
俺はレオニダスに右手を差し出し、彼はそれをしっかりと握り返した。
熱戦を繰り広げた両者が握手を交わす様を見た観客から、惜しみない歓声と万雷の拍手が発せられる。
……何とか良い感じに話を持っていけたな! ヨシッ!
その後は表彰式を行ない、優勝トロフィーと賞金を受け取った後に、俺は司会者から優勝者へのインタビューを受けた。
「アルティリア様、優勝おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「ところで、どうして正体を隠してご参加を?」
「騒ぎにしたくないので甲冑を着て正体を隠していた。最初は観るだけのつもりだったが、参加者の一部……名前は出さんが、彼らが目に余る言動をしていたのが目についてな。少々思い上がりが過ぎるようなので、これは性根を叩き直してやらねばと思ってな」
「な、なるほど……」
「あえて言わせてもらうが、決勝で戦ったレオニダス以外の者は未熟もいいところであった。その程度の実力しかない初心者が、他より多少強い程度で他者を見下し、不遜な態度を取るのは滑稽極まりない。そのような事をしている暇があったら、高みを目指して愚直に修練に励むべきであると、私は声を大にして言いたい。その為に手本を見せてやろうと思い、私はこの大会に参加し、優勝する事を決めたのだ」
俺の言い様に絶句し、冷や汗を流す司会者に背を向け、最後に一言、
「ではな。驕る事なく精進せよ」
そう言い残して、俺は会場を後にした。
そうして通路へと戻ると、ケイ少年が駆け寄ってきた。
「アルティリア様!」
「やあ。約束通り勝ってきたぞ。言っただろう? 私に勝てる者などそうは居ないと」
「は、はい……! 凄かったです! 僕もいつか、あんな風に戦いたい……!」
「なら、頑張りなさい。誰だって……私とて最初は弱かった。そこから強くなれるかは君次第だ」
ケイ少年にそう告げて彼と別れると、次に俺の前に現れたのは、一回戦で戦った大柄な少年、イザークとその取り巻きの二人だった。
青ざめた顔で、彼らは俺の前で膝を付き、深々と頭を下げた。
「女神様とは知らず数々の無礼、大変申し訳ありませんでしたぁっ!」
「頭を上げなさい。今後は心を入れ替え、慢心を捨てて立派な騎士になれるように、修行に励むのですよ」
声を揃えて謝罪を伝える彼らを、俺は許した。
元より子供のした事だし、特に俺が迷惑をかけられた訳でもないしな。先述した通り、多少目に余る言動があったのでお仕置きをしただけで、それはもう済んだので怒りも収まっている。
「ははーっ! 今後は騎士として恥ずかしくない行いをする事を誓います!」
「よろしい。では、貴方達のこれからを信じて見守るとしましょう」
これにて一件落着である。
俺は満足して、意気揚々と
そして一夜明けて、次の日……
「アルティリア様、何故か早朝から海神騎士団への入団を願い出る者が大勢、騎士団の詰所に来ているのですが……。しかもその中に現役の王国騎士や騎士見習いの者が多数おりますし、近衛騎士の方まで居るのですが……。もしかしてアルティリア様、また何かやらかしましたか? アルティリア様? なぜ目を逸らすのですかアルティリア様!?」
俺は起きて早々にロイドの追及を受けていた。
まあ、結果的に戦力増強に繋がるし、大変だろうけど選別や訓練のほうを頑張ってもらいたい(丸投げ)。
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