第113話 謎の女騎士フルアーマードエルフ
王都ローランディアに到着してから、一日が経った。
アレックスとニーナは兄妹揃って、朝食を終えてすぐに外へと遊びに行った。ちなみに今日の朝食は、ラピュタに出てきた異様に美味そうな目玉焼きを乗せたトーストとサラダ、それからコーンポタージュスープである。
季節は冬真っ盛りで、王都の気候はグランディーノに比べるとだいぶ寒いのだが、子供達は気にした様子もなく、元気に外へ駆けていった。俺が編んだニット帽(獣耳を外に出せるように、耳の部分は開けられるようにしてある)とマフラーを着用しているので、まあ心配はないだろう。
ケッヘル伯爵と彼が連れてきた兵士は、王都にある彼の邸宅に滞在している。まあ大貴族だし、当然首都に家くらい持ってるわな。
いつでも訪ねて来てくださいと言っていたので、そのうち遊びに行こうと思う。
うちの騎士達は、王都の神殿のすぐ隣に騎士団の詰所が建てられていたので、そちらに滞在中だ。彼らも朝食を終えた後に、俺のところに挨拶に来て、そのまま出かけていった。どうやら、王都の神殿騎士達との合同訓練を行なうらしい。
うちの連中も結成以来、何度も強敵と戦ってきて実力はかなり上がってきたと思うが、先輩騎士達に稽古をつけて貰う事で得られる物もあるだろう。
さて、そんなわけで俺は一人で神殿に取り残されていた。ぶっちゃけ暇である。
「というわけで遊びに行ってくるぜ。留守番は任せた」
俺は
「お待ちくださいアルティリア様。貴女様は今、王都のそこらじゅうで噂になっている有名人な上に、無駄に目立つ容姿をしています。そのまま外に出たら騒ぎになるのでは?」
「それについては良い考えがある。任せておけ」
俺はそう言って、道具袋からアイテムを取り出した。
『ホーリーナイトアーマー』『ホーリーナイトヘルム』『ホーリーナイトガントレット』『ホーリーナイトグリーブ』の四つがセットになった、ホーリーナイトアバター装備一式である。
これはその名の通りに、聖騎士をイメージした
そんな重装備の元々の色は白がベースになっているが、俺は自身のイメージカラーである青系の色に染色している。
ちなみに、衣装装備であるため厳つい外見に反して、この鎧自体の防御力は皆無である。あくまで見た目を変える為のアイテムなので、着用する際には注意が必要だ。
着用する際に、俺の身体に合わせてサイズが自動で調整される都合上、胸の部分が大きく突き出している為、女である事はばれそうだが、まあ顔は隠れているし、知らない人が見てもバレる心配は無いだろう。
「よし。それじゃあ王都見学に行くぞー!」
俺は金属鎧をガシャガシャと鳴らしながら、神殿の外へと足を踏み出した。
*
「うーん、なかなか賑わっているな」
俺の神殿は、広い王都のほぼド真ん中に建てられており、神殿を出ると中心に噴水のある、大きな広場があった。
元々、この広場は出店を出す人や、待ち合わせをする人で賑わっていたそうだが、最近になって俺の神殿が出来た事で、多くの見物客や礼拝に訪れる人でますます人が集まるようになったとか。
噴水の前には待ち合わせをしていたらしきカップルや、聴衆を前に楽器を演奏し、詩を唄う吟遊詩人の姿がある。おっと、向こうに居るのは大道芸人かな?
さすがに首都だけあって、グランディーノよりも通行人の数が多い。老若男女、様々な人が行き交う様は、この街の平和さと豊かさを表している。
そんな人々が、神殿から出てきた俺に向かって、一斉に視線を送ってきた。
「あれは……アルティリア様に仕える神殿騎士の方か?」
「おお、なんと立派な騎士様じゃあ……」
「あの鎧、なんと神々しいんだ。さぞ名のある騎士に違いあるまい」
「どうやら女性のようだが……立ち姿に全くと言っていいほど隙が見当たらない。あれほどの鎧を身に纏うだけあって、相当な強者なのだろうな」
「流石は女神様に仕える騎士という事か……」
うーむ、思った以上に注目を浴びているようだが、正体がばれるのに比べたらだいぶマシではあろう。
俺は彼らに向かって恭しく一礼すると、素早くその場を立ち去った。
そうして、あてもなくぶらつき始めてから十数分後。常人の数倍の聴力を誇る俺のエルフ耳が、遠くから聞こえる歓声をキャッチした。
それが聞こえる方向に足を向けてみれば、歓声に加えて金属や木材のような、硬い物がぶつかり合う音、馬の足音や嘶きの声も聞こえてくるではないか。
気になった俺は、足早にそれらの発生源へと近付いていった。そうしてしばらく歩いた後に、俺の両目は巨大な建造物を捉えたのだった。
「おっと。これは……闘技場か?」
そこにはローマのコロッセウムのような、円形の巨大建造物が存在していた。そして近くに来ると、その中から戦いの音や馬の足音、そして大勢の人の歓声がはっきりと聞こえてくる。
それに興味を惹かれた俺は、ちょっと覗いてみようかと建物の入口へと近付いた。入口の横には鎧を着て、右手に槍を持った男が二人立っており、そのうちの一人が俺に話しかけてきた。
「ん? あんたも参加者かい? だが、もう予選は始まってるぞ」
「参加者? いや、たまたま気になって訪れただけなのだが、ここでは一体何を?」
俺がそう返すと、その男は驚いた顔をした。
「おや、知らないのか? さてはあんた、王都に来たばかりだな。ま、そんな立派な鎧を着てる女騎士だっていうのに、初めて見るどころか噂にも聞いた事がないんだから当たり前か。……コホン、ここでは今、王都の騎士団が
ほう、槍試合か。懐かしいな、俺もLAOのプレイヤーだった頃は、アルティリアを操作して他の槍使いのプレイヤーとよくやっていたもんだ。
ちなみに、俺の生涯戦績は勝率約6割程度である。あまり高くないように見えるかもしれないが、対クロノの戦績を除けば勝率は9割を超える。対クロノの戦績? 聞くな。
「騎士団の人間以外にも、腕に覚えのある冒険者や遍歴騎士も参加する事が出来るから、てっきりあんたもそのクチかと思ったんだ。まだ予選試合は終わっていないし、今から受付に行けば参加できるかもしれないが……どうだい? あんたなら、かなり良いところまで行くと思うんだが。俺の見たところ、あんた相当な腕前の持ち主だろう?」
「ふむ……まあ、槍の腕前にはそれなりに自信があるがね。さて、どうするか」
「やっぱりそうか。俺は人を見る目には自信があるんだ。ついでに兜の下は相当な美人と見た。是非とも拝んでみたいもんだ」
「おい、仕事中だぞ。そこらへんにしておけ」
俺と話していた男に向かって、もう一人の男が注意をした。
「おっと、すまんすまん。まあ、もし参加しなくても見物する事も出来るから、よかったら中に入ってみたらどうだい? ちなみに入場両は銀貨3枚だ」
「では、折角だし中に入れてもらおうか」
俺は男に銀貨を手渡すと、闘技場の中へと入っていくのだった。
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