第112話 王都到着

 ボルカノとの決闘は終わった。結果はもちろん俺の完勝である。開始早々にワンパンで吹っ飛ばして関所の壁にめり込ませてやって、終わりだ。

 ちなみに決闘を行なう前に、俺が勝利した場合は質問に対して正直に答えるという条件を飲ませたので、俺はさっそく奴に回復魔法をかけた後に、尋問を開始した。


「では約束通り、質問に答えてもらいましょうか。6年前にロイドが軍を追放されたという件について、知っている事を全て話しなさい」


「し、知らん! あの男が勝手にやった事だ! 俺は悪くない!」


 俺の問いに対してボルカノは次々と、誰の目にも明らかに嘘と分かるような苦しい言い逃れをして、正直に答える事は無かった。

 決闘の取り決めを反故にするとなれば、これは首を刎ねられても仕方なかろうなぁ……

 正直そうしてやっても良かったのだが、その前に……真実を明らかにする必要がある。

 というわけで、キング直伝の点穴術によって、秘孔の一つを指でブスリと突き刺した。


「ぐえっ! なっ、何を……」


「経絡秘孔の一つを突いた。お前は自分の意志とは無関係に口を割る。では改めて質問だ。6年前にロイドが軍を追放された件について、知っている事を全て答えろ。はっきりと、大きな声でだ」


「はい! 若くして頭角を現しており、清廉で正義感が強い部下のロイド=アストレアが目障りになってきた為、自分のやっていた不正の罪をそのまま奴に着せて陥れました! 証人として何人もの同僚や上司、監査の役人にまで賄賂を贈って偽の証拠もしっかり捏造し、なかなか手痛い出費になりましたが手回しはバッチリです! また、奴の父であるジョシュア=ランチェスターには若い頃から演習や槍試合で一度も勝てた事がなく、奴は皆に慕われていたのに対して自分は嫌われ者で、いつも苦々しく思っていた為、奴の息子であるロイドの名誉を貶めて追放してやった事で、実にスッキリした気分になりました! ざまあみろ!」


 ボルカノがとても良い笑顔でそんな自白を終えたのと同時に、俺は秘孔から指を抜いた。すると、ボルカノが糸の切れた操り人形のように力を失い、地面に倒れ伏した。


「……ですってよ、兵士さん達?」


 俺が水を向けると、ボルカノのあまりの言い様に呆気に取られていた兵士達は我に返り……


「奴を拘束しろおおおお!」


 一人がそう叫ぶと、一斉に動き出してボルカノを縄で縛り上げた。

 また、周囲には騒ぎを聞きつけた人々が多く集まっていた。ここは北へと向かう交通の要所の為、通行人の数は多い。彼らもボルカノが大声で口にした自白の内容をばっちり聞いていた為、口々に噂話を始めていた。


「なんて野郎だ。あんなクソみてぇな奴が高い地位にあって、こんな要所の責任者をしているだなんて、軍の体制は一体どうなってるんだ」


「ボルカノの野郎、ざまあ見やがれ。あの野郎、いつも難癖を付けて俺達商人から賄賂を受け取ろうとしやがってたからな。いつかこうなると思ってたぜ」


「それにしても、あの方が北部に現れたという女神様か……なんという強さだろうか。あのボルカノがまるで子供扱いだったぞ」


「何にせよ女神様のおかげで不正は暴かれ、ボルカノは失脚したんだ。これからは、この関所も使いやすくなるだろう」


「ああ全くだ! 女神様万歳!」


「女神様万歳!」


 噂話はいつしか、俺を讃える声へと変わっていた。集まった人々や兵士達から、大量の信仰心が俺に向かって一気に集まってくる。

 あーっお客様! 困りますお客様! あーっ困りますお客様! 大量の信仰を一気に送るのはお止めくださいお客様! あーっお客様! ちょっと加減して下さいお客様! あーっ!



 そんなわけで俺達は、兵士さん達や通行人の皆さんを引き連れて、まるで大名行列みたいな状態になって王都へと向かったのだった。


 王都ローランディアは、ローランド王国の中央部にある大都市である。周辺の大部分が山や丘陵で囲まれた盆地に位置しており、四方にはついさっき通ってきた堅牢な関門が設けられている。

 その為、関所の内側である王都の領域内には侵入してくる外敵はおらず、王の直轄地だけあって豊かで、治安も悪くないため盗賊の類もあまり出る事がない。街の外に魔物は出現するものの、大して強くないものばかりのようだ。

 つまり、平和という事だ。実に羨ましい事である。俺が住んでるグランディーノなんか、週イチくらいのペースで陸と海から魔物の大群が押し寄せる危険地帯と化しているというのに。

 まあ俺が出るまでもなく殲滅されて、連中から採れた素材のおかげで街が潤い、冒険者や兵士達の装備が強化されているが。


 さて、そんな王都ローランディアに、ようやく到着した俺達は、街の入口で簡単な検査を受けた後に、王都に入る事を許された。

 関所の兵士達が口利きをしてくれたおかげで、時間が短縮できたのは有難い事だ。


「それでは女神様とお連れの皆様、我々はこれで失礼いたします」


 ボルカノを護送している兵士達が、俺の乗る馬車に向かって敬礼をした。俺は馬車の窓を開けて、彼らに顔を覗かせた。


「ご苦労様です。我々はしばらく王都に滞在する予定なので、何かあれば神殿に顔を出しなさい」


「ははっ! 必ずや、後日改めて礼拝に向かわせていただきます!」


 そう言って、兵士達は去っていった。

 そして、それと入れ替わるようにして、俺達の前に姿を現した一団があった。それは、揃いの白い鎧に身を包んだ騎士の集団だった。


 彼らは、王都の大神殿に勤める神殿騎士テンプルナイト達だった。どうやら迎えに来てくれたようなので、彼らに案内されて、俺達は王都に新しく建設されたという、俺の神殿へと向かったのだった。

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