第108話 アルティリア、人生最大の窮地に陥る
街を襲撃してきた魔物の群れを掃討し、それを召喚・使役していた悪魔をロイドが斬り殺した後、俺達は森の中を探索し、残敵の掃討と安全の確認を行ない、その後にザクソンの街へと戻った。
街に戻った後は、改めてロイドの家族をイルスターに連れていく事を、なぜか集まっていた街の住人達へと伝えた。
それと、この街はあんまり豊かではないようで、俺達が粗方掃討したとはいえ近くに魔物の巣窟があるのに防備も貧弱だった為、少しお手伝いをする事にした。
という訳で、ロイド達が出立の準備をしてる間に街の南と北にそれぞれ
あと、街にお金があんまり無さそうなので、防衛設備に投資する為のお金を俺のポケットマネーから少し出しておく。
そんな事をしている間に、ロイドの家族は出発の準備を終えたようなので、俺達は街の全住民に見送られながら、『
イルスターの街に戻った俺達は、すぐに領主官邸へと向かった。
「私は席を外そう。家族だけでしっかり話をするといい」
俺はアストレア一家が揃って領主の寝室へと入っていったのを見送って、その場を後にした。
その後、倒れた領主に代わって政務を代行していたケッヘル伯爵と合流し、領地の状況などの報告を受けた。
この街の内政状況は、当主が老齢で体調を崩しがちな上に、人手不足のために仕事が滞っていたが、伯爵が徹夜して、一晩で仕事の大半を片付けてくれたらしい。
「大した仕事ぶりだと褒めてあげるべきか、他人の領地の為に随分と無理をしたものだと呆れるべきか……ま、これでも飲んで一息入れなさいな」
俺は伯爵に自作の栄養ドリンク(HPとスタミナが500回復するやつ)を手渡し、休憩を取るように伝えた。
それから領主官邸を出ると、ちょうど海神騎士団のメンバーも一仕事を終えて戻ってきたようだった。
「アルティリア様、お帰りなさいませ。団長はまだ中に?」
「ええ。今は家族と話をしています。貴方達は仕事を終えてきたようですね」
「はっ。早速ですが、本日の任務についてご報告いたします」
ルーシーが彼らを代表して、本日の仕事内容を報告する。彼らは山賊団を捕縛し、賞金をかけられていた巨大な魔物を討伐し、街周辺の治安向上に貢献したようだ。
捕縛された山賊達はどのような経緯があったかは不明だが改心し、人々から奪った物を可能な限り返上した上で自首をしてきた為、罪をある程度免除され、懲罰金あるいは一定期間の懲役を科されるようだ。
本来ならば奪った物を全て返したので金は残っていない為、懲役刑になるだろうという話だったが……
「そういう事ならグランディーノの為に役立って貰いましょう。今は人手がいくらあっても足りないですからね」
グランディーノの街は現在もバリバリ発展中であり、常に人材を求めている。更に想定している敵が魔神将およびその配下達なので、戦える人間は誰でもウェルカム。初心者や新人でも優しい先輩達がきっちり安全マージンを確保した上で指導・育成しているので安心だ。
「ではクリストフ、幾ら必要ですか?」
「全員分の懲罰金と、彼らの身支度や装備を整えてグランディーノに送り出すのに必要な支度金を合わせて、金貨10万枚ほどあれば十分かと」
俺の質問に、既に計算を終えていたのであろうクリストフがすらすらと答える。俺は満足そうに頷き、彼に金貨の入った袋を手渡した。
「では、そのように手配なさい」
「かしこまりました、アルティリア様」
よし、これで後はロイド達が領主との話を終えたら、この街でやる事は全て終了だな。
色々あったが、一段落して何よりである。さて、俺も一旦宿に戻るとするか……と、そう考えていた時だった。
「ところでアルティリア様、一つ問題が……」
クリストフがそんな事を口にした。え、まだ何かあったのか?
見れば、クリストフは何だか言いにくい事を口に出す時のような態度で、他の団員達も気まずそうに目を逸らしている。
一体何があったと言うんだ……!? 俺は急いで続きを促した。
「では、報告いたします……。実は、アレックス君とニーナちゃんが、部屋に立て篭もって出てきません。どうやらアルティリア様が相談も無しに外泊した事に対してお怒りのようで……」
彼の報告を最後まで聞く事なく、俺は宿に向かって全力ダッシュした。
流石に領主官邸から宿屋まで、一切休まずに全力で駆け抜けたせいで疲れたが、俺はそのまま階段を駆け上がって最上階まで辿り着いた。
そして、俺が泊まっていた客室へと向かうと……ドアの前には手作り感満載のバリケードが張られており、その手前で数人の従業員がおろおろしている。彼らと目が合うと、すがるような目でこっちを見てきた。
「うちの子供達が申し訳ない。後は私に任せてください」
彼らに謝罪をして、俺はバリケードを片付け……意を決して、客室のドアをノックした。
「この部屋はわれわれが占領した」
「われわれは脅しにはくっしない」
すると、部屋の中にいる二人から、そんな返事が返ってきた。まるでテロリストのような言いぶりである。
「あー……二人共、ただいま。帰りが遅くなってごめんな。中に入れてもらっていいかな?」
俺はドア越しに、アレックスとニーナにそう伝えた。するとドアが半開きになって、二人が隙間から顔を覗かせた。
「おかえり。ずいぶんと遅いお帰りだな母上」
「すぐ帰るって言ったのにね」
ご機嫌斜めな表情で、二人は俺を責める言葉を口にした。
「それに関しては本当にすまない。ちょっと急ぎの用事が出来てだな……」
それに対して、俺が思わずそう言うと……
「言い訳をする人間に進歩はないぞ」
「反省するように」
そう言い残して、バタンと音を立ててドアが閉められた。
俺は膝から崩れ落ちた。
その後、平謝りして何とか許して貰った後、子供達の機嫌を取るために丸一日、付きっきりで一緒に遊ぶ事になり、イルスターの街での滞在期間が更に伸びる事になったのだった。
畜生、これじゃあまるで俺が、子供達を放っておいて男と一緒に外泊して子供達に怒られるダメな母親みたいじゃないか。
事実だけ切り取ると全くもってその通りなので反論のしようが無かった。深く反省して、今後はこのような事がないように努めたいと思う。
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