第105話 女神の家庭訪問
隙間から薄明かりが漏れる家のドアをロイドが2回叩くと、向こう側からこちらに近付いてくる足音がして、次いで女の声がした。
「どちら様ですか……?」
こんな遅い時間の来訪だ。高い声には警戒の色が含まれているのも無理はないだろう。
「メアリか? 俺だ、ロイドだ。母さんとウィルはまだ起きているか? 急で悪いが大事な用があるんだ」
「えっ、ロイド兄さん!?」
だがその警戒も、ロイドが声をかけた事ですぐに解かれ、すぐに鍵が開く音がして、ドアが開かれた。
「うわっ、本当にロイド兄さんだ……。しかもなんか立派な鎧着てるし、神殿騎士になったのって本当だったんだ……」
「おいおい、疑ってたのか?」
ロイドの姿を見て、大きくぱっちりした目を見開いて驚いた様子の若い女性……彼女がロイドの妹なのだろう。
妹さんは兄と同じで茶髪に赤みがかった瞳の、美人というより可愛い系の顔立ちだ。ロイドの話によれば年齢は20歳らしいが、やや小柄な体格な事もあって、実年齢よりも幼く見える。しかしお胸はなかなか立派な物をお持ちでスタイルも良い。いわゆるトランジスタグラマーというやつだ。
そんな感じにロイド妹を観察していたら、こちらに目をやった彼女とバッチリ目が合った。そしてまず顔を見て驚かれ、次に胸を凝視されて「えっ、これ本物? ヤバない?」みたいな顔をされた。まあ気持ちはわかる。
「メアリ、この方が俺が仕えている女神、アルティリア様だ。失礼のないように頼む」
ロイドがそのように俺を紹介したが、彼はそのまま妹に腕を掴まれると、そのまま家の中へと引きずり込まれた。鎧を着た長身で屈強な男であるロイドを掴んで引きずるとは、彼女は見た目によらず、なかなかのパワーの持ち主のようだ。
そしてドアが閉じて、俺は家の外で放置される形になった。
「お、おいメアリ、急にどうした」
「どうしたじゃない! 数年ぶりにいきなり帰ってきたと思ったら女神様も一緒とか、一体どういう事よ!? 驚きすぎて心臓止まるかと思ったわ!」
「そ、それは本当にすまん。だがさっきも言った通り、大事な用があるんだ」
閉じられたドア越しに小声で話しており、常人には聞き取れないだろうが一級廃人エルフの俺には丸聞こえである。エルフイヤーは地獄耳。エルフビームは水光線。
「しかも何ですかあの凄い巨乳。私も胸のサイズにはそこそこ自信あったけど、あれと比べたら全然貧乳だったわ」
「お前それご本人の前では絶対言うなよ……」
別に構わんしバッチリ聞こえてるんだよなぁ……。あと比べる相手が悪いだけで十分大きいし、低身長巨乳は好きな男が多いから自信持っていいぞ。
※
それからすぐにロイドだけが外に出てきて、準備のために少しお待ちいただきたいと告げられた。そして待つこと数分後、俺はロイドの実家のリビングにて、彼の家族と対面していた。
「お初にお目にかかります、アルティリア様。ロイドの母、エレナ=アストレアと申します」
そう言って頭を下げたのは、緩くウェーブした長い銀髪の、妙齢の女性だった。年齢は40代との事だが、それよりもだいぶ若く見える。スタイルも崩れておらず、かなりの美人だ。
「兄がお世話になっております。弟のウィリアム=アストレアです」
「同じく妹のメアリ=アストレアです」
彼女の両脇には母親と同じで銀髪の青年と、ロイドと同じ茶髪の女性が座り、同時に頭を下げた。ロイドの弟妹だ。
そしてテーブルを挟んで彼らの対面に、俺とロイドが並んで座っている形である。
ロイドの母であるエレナさんは小柄な女性であり、弟と妹も母親同様に背が低めだった。対して俺の隣に座ってるロイドは180センチを超える長身であり、ゴドリック子爵が見間違えたように父親に似たのだろう。
俺の身長も177センチと女性としてはかなり高めである為、テーブルのこちら側と向こう側で体格差が凄い事になっている。
「アルティリアと申します。こちらこそ、ロイドにはいつも助けられています」
そう告げると、エレナさんは露骨に安心した様子を見せた。ロイドが何か問題を起こして訪問したとでも思われていたのだろうか。だとしたら申し訳ない。
誤解を解く為にも、俺はさっそく用件を切り出す事にした。
「さて……こんな夜分遅くの訪問になってしまい、大変申し訳ないのですが……大事な用があってお邪魔させていただきました。まずは
俺は彼らに、王都に向かう途中に立ち寄ったイルスターの街で、ゴドリック子爵邸に招かれた事、そこで出会った子爵がロイドを、彼の父であるジョシュアと見間違えた事でロイドの出自が判明した事、そしてゴドリック子爵が老いと病によって倒れ、先があまり長くなさそうだという事を伝えた。それからゴドリック子爵が、エレナさん達一家を救えなかった事をずっと後悔していた事や、もう一度会いたいと思っている事もだ。
「そう、でしたか……。父がそのような事を……」
エレナさんが目を伏せる。色々と複雑な思いがあるのだろう。対して彼女の子供達は、初めて聞く情報の多さに目を白黒させていた。
「そこで皆さんがよろしければ、イルスターの街までお連れしたいと思いますが」
俺がそう提案すると、エレナさんとメアリは明日にでもすぐに出発できると返事をしたが、難色を示したのはロイドの弟、ウィリアムだった。
彼はこの街の自警団に所属しており、とある理由から今は街を離れるのが難しいとの事だった。その理由とは……
「ここ最近、南の森から凶暴な魔物が多く現れるようになり、街の安全が脅かされているのです。多くの団員が苦戦している中で、私だけが街を離れる訳には……」
という事らしい。ウィリアムは自警団の中でも特に実力が高く、目覚ましい活躍をしているエースであり、そんな彼が不在になれば自警団の士気に悪影響が出て、最悪戦線が崩壊しかねなかった。
「よろしい。ではロイド、少しお手伝いをしてさしあげなさい」
「ははっ、故郷と弟を助ける機会をいただき、ありがとうございます。アルティリア様」
そんな訳で、俺達はロイドの実家で一泊する事になった。技能『信者との交信』を使い、帰りは明日になる旨を騎士団員達に伝え、明日は一日、イルスターにて自由行動をする事、俺とロイドが不在の間はルーシーとクリストフが騎士団の指揮を執る事、それからアレックスとニーナの世話をよろしく頼むと伝えた。
そして、次の日の早朝。
俺とロイドは、ウィリアムと共に自警団の詰所を訪れていた。
「なあ、あれってロイドだよな……?」
「おお……あの悪ガキが、すっかり立派な騎士様になって……」
「隣に居る、とんでもない別嬪さんは誰だ?」
「どうやらロイドが仕えている神様らしいぞ」
現れた俺達を見て、自警団員たちがざわついている。そんな彼らを前に、ロイドが声を張り上げた。
「見知った顔ばかりだが、一応名乗らせていただこう。海神騎士団団長、神殿騎士ロイド=アストレアだ。此度は故郷の危機とあって、皆様と共に戦わせていただく事になった。何卒よろしく頼む。そしてこの方が、私が仕える女神アルティリア様だ」
「アルティリアです。ロイド共々よろしくお願いします」
そんなふうに俺達が自警団員達と顔合わせをしていた、その時だった。
「魔物の大群だー!」
外から半鐘の音と共に、そんな声が響き渡ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます