第87話 意外な決め手

 とてもタダで貰って良いような物ではないので、こちらも相応の返礼をする必要があるのだが、それは後で考えるとして。

 俺自身との相性は水属性超強化などのオプションが付いた『海神の三叉槍』の方が良いが、この相手との戦いでは対不死超特効付きの『冥王の二叉槍』の方が有利に戦えるだろう。

 さて、どっちを使おうか悩むぜ。

 二槍流で両方使う? あれは正直付け焼き刃なので、レイドボスとの実戦でいきなりやるのは正直、不安がある。冥王槍の方は初めて使う武器で、まだ手に馴染んでいないしな。

 女神形態ゴッデス・フォームに変身すればやれるとは思うが、あれは魔神将クラスの敵との戦いなど、いざという時の為にとっておきたい。信仰の力フェイスポイントを大量に消費する上に、俺の体への負担も大きい切り札だからな。


 どうすっかなー、いっそ合体して一本の槍にならねーかな。


 なんとなく、そんな事を考えた瞬間。不思議な事が起こった。

 左右の手に握ったそれぞれの槍が、共鳴するように震えると、それぞれ青色と漆黒の光と化して、俺の手から離れた。

 そして二色の光は螺旋を描くようにして、空へと昇っていき……やがて上空でぶつかり合い、紫紺色の大きな光が爆発を起こした。

 そして直後、その場所から俺に向かって何かが飛来してきて、俺の目の前に突き刺さったのだった。

 その正体は、一本の槍だ。海神の三叉槍と酷似しているが、柄が金の装飾がされた紫紺色の物になっており、穂先がより鋭利で大型の物へと変わっていた。


 マジで合体した……!? え、これ性能はどうなってるんだ……?

 俺は鑑定技能を発動させ、その槍を観察し……目を見開いた。

 え、何だこれ……水・闇属性超強化、物理攻撃ヒット時に水・闇属性追加ダメージに加えて一定確率で凍結&即死付与、魚介系・不死系超特効、水・闇属性&状態異常耐性貫通、水中またはダンジョン内で全ステータス上昇、等々……二つの槍が持つ特殊効果を良いトコ取りした、強い事しか書いてないヤケクソじみた特殊能力の数々に加えて、武器としての素の性能がエクスカリバーやブリューナクのような、最上級神器クラスにまで底上げされている。

 そして肝心の使い心地だが、軽く振り回してみた感じ……扱いなれた三叉槍をベースにしているためか、びっくりするくらいに手に馴染む。

 うむ、何故こうなったのかよくわからんが、とにかくヨシ! これは良い物だ。


「さて……待たせたな。続きといこうか!」


 俺は新たな武器を手に、骸骨船長に向かって突撃した。超弩級亡霊戦艦と融合したその恐るべき巨体は、以前戦った魔神将フラウロスを彷彿とさせる。


「構ワヌ……コチラモ十分ニ準備ヲサセテ貰ッタカラナ!」


 骸骨船長の巨体から、幾つもの銃口が生えてきて、俺へと向けられた。それだけではなく甲板の上にも機銃が生えて、無数の銃口から銃弾がばら撒かれた。

 俺だけではなく、甲板上を薙ぎ払い、そこに居る全ての人間を対象にした無差別攻撃だ。


「抜け目の無い奴! だがその程度ではな!」


 俺は足を止めずに自分に向かってきた物を含めた、届く範囲の物を水の壁で迎撃した。信者達に向かった分は完全に撃ち落とせたわけではないが、後は各自でどうにか対処してくれるだろう。

 俺はそのままの勢いで、骸骨船長の胴体に槍を突き刺した。元の攻撃力が上昇している上に、不死者アンデッドへの特効もあって、相当効いている様子だ。明らかにダメージの通り方が違う。


「よし、このまま……!」


「サセルカァッ!」


 骸骨船長の巨体を壁登りの要領で駆け上がって、頭部に直接攻撃しようと試みるが、敵はそれを阻止する為に、俺の目の前に大砲を形成して、ノータイムで零距離砲撃、さらにその直後に大砲を自爆させるというコンボをかましてきやがった。

 水の壁での防御が間に合った為、ダメージそのものは大した事はなかったが、大きく吹き飛ばされてしまった為、そのまま甲板に着地する。

 フェイトも同じように、敵の妨害によって上に行く事が出来ないでいるようだ。


「仕方がない、今は地道に下から削るしかないか……」


「どうやらそのようです。敵は上から好き勝手に撃ち放題なのは気に入りませんが」


「全くだ。とはいえ下から魔法で狙うにも、少々遠すぎるか」


 メテオ系の地面指定で物を落下させる魔法で、直接頭にブチ当てるという手も無くはないが、甲板上に多数の味方が居る状態でそれをやるのは結構危険そうなので、リスクを考えて取り下げる。

 その間にも敵は上からこちらを撃ちまくり、甲板上にも取り巻きの骸骨兵や機銃に大砲、トラップ等を生成し続けている理不尽っぷりである。


 わかってはいたが、敵がとにかく頑丈でしぶとすぎる。これだからアンデッド系ボスの相手をするのは嫌なんだよなぁ。

 これはもう女神形態ゴッデス・フォームになるしかないかと考えた時だった。

 視界の隅で、何か、赤い物が揺らめいた。

 それは、炎だった。何かが燃えている。しかもそれは甲板上ではなく、もっと上の方でだった。

 視線を上に向け、その正体を確かめようとすると、すぐに判明した。

 燃えていたのは……亡霊戦艦のメインマストに掲げられていた、髑髏マークが描かれた帆……すなわち海賊旗であった。

 あっという間に、海賊旗が燃え尽きて灰燼に帰した。

 そして次の瞬間、海賊旗があった場所には、新しい帆が張られた。それには頭に王冠を乗せた、デフォルメされたサメの絵が描かれていた。

 そしてマストの上には、アレックスとニーナ、そして町の子供達の姿があった。彼らはこの場にいた全員の目を盗んで海賊旗を燃やし、自分達の紋章エンブレムを掲げて見せたのだ。


「その手があったか……ッ」


 そんな俺の小さな呟きは、同時にマストの上から放たれた大声にかき消された。


「この船は、おれたちグランディーノ少年冒険団が制圧した! おとなしく武器を捨てて投降しろ!」


「そうだそうだー!」


「この船は僕達の物だ!」


 アレックスの宣言に続き、子供達がそう囃し立てた。しかして、その効果は劇的であった。

 カラーン、と音を立てて、骸骨兵が手に持ったサーベルを甲板に落とす。骨だけの顔は燃え尽きた海賊旗を見上げ、呆然としているようにも見える。

 そして武器を落とした骸骨兵たちが、次々とその体を自壊させていった。更には、彼らのボスである骸骨船長までも、


「オ、俺ノッ、俺ノ船ガアアアアアアアアアア!! ウワアアアアアアアアアッ!!」


 頭を抱え、絶叫する骸骨船長の体が、ボロボロと崩壊してゆく。


「どういう事だ……? なぜ奴等は急に……」


 その様子を見て、フェイトが訝しむ。まあ、知らなければ疑問に思うのも無理はないだろう。

 フェイトの呟きを聞き、ロイドが彼に話しかけた。


「フェイト殿。海賊にとって海賊旗というのは自分達が何者かを示すシンボルであり、拠り所……誇りと言っていい物なんですわ。船に乗り込まれてそれを燃やされるって事は、ただの負けじゃない。二度と海賊を続けられなくなる程の決定的な敗北であり、最大の不名誉なんです」


 流石に元海賊だけあって、ロイドには奴等がそうなった理由がよく分かっているようだ。


「成る程……つまり、敵国の兵に城に忍びこまれて国旗を焼かれたような物という事か。それは確かに、ああなってもおかしくはないか……」


「ええ、しかもそれをやったのが、ただの子供じゃないとは言え、あんな小さい子達です。奴が負った精神的なダメージは測り知れないでしょうな。まったく末恐ろしい」


「そうだな。船と合体しているせいで強化されているなら、船のほうを落とせば良いという発想も素晴らしい」


 うちの子供達はすごいなぁ。もっと褒めてくれ。

 しかし、本体が倒せないなら船を制圧すればいい、か……。俺とした事が、それを思いつけなかったとは情けない。

 いや……自省よりも先に、真っ先にそれを思いついて実行に移した子供達を褒めてやるべきだろうな。本当によくやってくれた。


 後は……大きく弱体化した骸骨船長を倒すだけだな。俺は槍を構えて、仲間達と共にボスに向かって突撃するのだった。

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