第86話 PON☆とくれたぜ

 名乗りを上げた後に虚空に手をかざし、フェイトが取り出したのは……長い柄と三日月型の刃を持つ、死神が持つような巨大な処刑鎌デスサイズだった。命を刈り取る形をしている。


 フェイトは主人公でありながらメイン武器が処刑鎌、更に即死魔法が得意という珍しいタイプのキャラクターで、ステータスも主人公キャラにありがちなバランス型ではなく、攻撃力&魔法攻撃力が突出して高い。

 その特性上、フェイトは多数の雑魚を掃討する性能にかけては他の追随を許さない。しかも中盤以降はイベントで対ボス用の単体超火力攻撃技を習得する隙の無さで、終盤に専用神器……そう、まさに今取り出した、あの処刑鎌を入手してからは元々高かった火力に拍車がかかり、手の付けられない状態になる。


 そんなフェイトの周囲に多数の骸骨兵が出現し、彼に向かって襲いかかった。一人で相手をするには、あまりにも多い数。それも前から横から後ろから、包囲状態での一斉攻撃だ。

 しかもその骸骨兵はレイドボスの取り巻きだけあって、あれだけの数を一度に相手にするのは、俺でも出来れば避けたいところである。まあ勿論、勝てないとは言わないけどね。

 そのように質・量共に申し分のない骸骨兵の群れは、しかし。


「死は必定。生きとし生ける者、全てに訪れる。その運命さだめに逆らう者……」


 フェイトが処刑鎌の柄を強く握ると、その刃が白い炎に包まれた。それは、穢れた魂を浄化する聖火だった。


「冥戒騎士の名に於いて、裁きを下す!」


 聖火を纏う処刑鎌の刃が、フェイトを中心に円を描くように閃く。それによって彼を包囲していた骸骨兵たちが、まとめて薙ぎ払われ……消滅した。


「馬鹿ナッ! 何故再生シナイ!」


 骸骨船長が驚愕しているが、再生しないのは当然だ。骸骨兵たちは魂を直接攻撃され、強制的に成仏させられたのだから。

 ゲーム風に表現するなら、『それらは再生できない』ってやつだ。

 それにしても、あんなデカくて重い鎌を使っているというのに、フェイトの一閃は恐るべき速さと正確さだった。うちの信者達も驚いて目を見開いている。半分くらいは目で追う事も出来なかったんじゃなかろうか。


 そんな一撃で骸骨兵の群れを完全消滅させたフェイトが大鎌を消滅させ、こちらを向いた。近付いてくるフェイトと目が合った。

 ちょっと待ってくれ、推しキャラが目の前で戦ってるのを見てテンションが上がりっぱなしなので、会話するのはもうちょっと心の準備が!

 とか考えている内に、彼は俺の目の前にやってきて、そして跪いた。


「拝顔の栄に浴し、真に光栄でございます。私は冥戒騎士フェイトと申します。我が主、冥王プルートの命により推参致しました」


「頭をお上げ下さい、冥戒騎士殿。冥王様にはご助力のほど、大変感謝しているとお伝えください」


 何とかキリッとした顔を維持しつつ、そう返答する。並列思考により、内心ではーもうマジ無理てぇてぇと限界オタク化しながら、それを全く表に出さずに失礼のないように対応するくらいは造作もない事だ。


「エエイッ、貴様ラ、何ヲ呑気ニ話ヲシテイルッ! コッチヲ向ケイッ!」


 自分を無視して話を始めた俺達に苛立ったのか、骸骨船長がその巨体を震わせて怒りを露わにしつつ、その腕を大砲の形に変えて、俺達に向かって砲弾を放ってきた。

 あっ、てめえせっかく生フェイト君と話してるのに邪魔すんなこの野郎ボコすぞ。

 思わずノータイムで海神の裁きジャッジメント・オブ・ネプチューンをぶっ放しかけたが、その前に、


「今は大事な話をしている! 少し静かにしていろ!」


 フェイトが骸骨船長に向かって一喝した。その際に彼から放たれた圧力プレッシャーは、レイドボスも思わず黙り込む程の物だった。

 その余波でうちの信者達の中にも、思わずへたりこんで膝を付く者も出るくらいだ。


「ただ叫ぶだけで、あれほどの重圧感を……それにあの戦闘能力、あの少年はいったい何者だ……?」


「わからん。だが只者ではなさそうだ。アルティリア様も一目置く程の御方のようだが……」


 いかんな、フェイトの正体について疑問を持った者達がざわついている。気になって戦いの最中に集中を欠いてしまっては困るし、ここは俺が一肌脱ぐとしよう。


「皆の者、落ち着きなさい! 彼については、私から紹介しましょう」


 俺がそう声を上げると、彼らは落ち着きを取り戻して俺が話を続けるのを待った。


「コホン。この方は冥界を支配する大いなる神、冥王プルート様に仕える騎士……冥戒騎士団の筆頭騎士にして、かつて魔神将エリゴスを討伐した英雄です。最大限の敬意を持って接するように」


 俺がそう告げると、信者達は心底驚いた様子を見せた。


「ご存知でしたか。流石はアルティリア様」


 ついでにフェイトも感服した様子で俺を見てくる。いや、原作ゲームをやった人間なら皆知ってる事なので、そんな目で見るのはやめてほしい。酷くむず痒い。


「さて……たった今アルティリア様に紹介されたように、冥王様に仕えている冥戒騎士、フェイトだ。英雄扱いされるのは苦手なので、気軽に接してくれると嬉しい。今回は冥王様からアルティリア様への使者兼援軍として出向いた為、微力ながら助太刀させて貰う。よろしく頼む」


「冥界の神様の……筆頭騎士……!」


「魔神将を討伐した……!?」


「なんと心強い……!」


 続けてフェイトが自己紹介をすると、次々と上がる賞賛の声。それを受けてフェイトは困った顔で、指で頬を掻いた。だがすぐに気を取り直して俺に向き直った彼は、ローブの下に着ている服の、腰のベルトに吊るした道具袋から何かを取り出して、それを両手で持って俺に差し出した。


「アルティリア様、こちらは我が主からの贈り物です」


「ありがとう。冥王様に私が感謝していたと伝えて欲しい。それと後ほど返礼の品を渡したいので、戦いが終わったら是非、グランディーノまで同行して貰いたい」


 フェイトが差し出した物を受け取る。それは上質な布に包まれており、細長い形をしていた。手に取ると、ずっしりとした重さを感じる。

 この形や手応えは……間違いない。これは槍だ。長らく槍を振るい続けた、アルティリアの肉体が持つ記憶がそうだと言っている。


 しかし槍かぁ……いや確かに俺は槍使いであり、その点だけ見れば槍をプレゼントするというのは正しい選択なのだろうが、しかし俺には既に愛用している槍が存在する。

 それもただの槍ではなく、海神ネプチューンが持つ『海神の三叉槍』の複製品だ。複製品とはいってもオリジナルのそれに劣らない性能を持つ、正真正銘の神器武器である。

 なので、今更新しい槍とかプレゼントされても、正直使いどころに困る感じだ。両手にそれぞれ槍を持って二槍流というのも出来なくはないし、実際にフラウロスと戦った時は左手にクロノから借りたブリューナクを持ってそれをやっていたが……ただそれも、ブリューナクという神器の中でも最上級に位置する武器の性能があっての事だ。

 また、バルバロッサから借りたメギンギョルズという神器による補助も大きい。あれは装着者の筋力を大幅に強化しつつ、更に最大所持重量および装備可能重量を大きく上昇させるという、非常に珍しい特性を持っている。その為、重装備のタンク職や大型武器使いに愛されている神器だ。俺が二本の槍を自在に操って戦う事ができたのも、その性能に拠るところが大きい。

 ……まあ、バルバロッサ本人はその性能を、ダブルガトリングキャノン&大口径グレネードランチャーとかいう実に頭の悪い構成のために使ってるわけだが。


 そんなわけで、プレゼントしてくれるのは嬉しいんだけど、今更槍なんか贈られても正直なぁ……俺の使ってる三叉槍みたいな神器とかなら話は別だが、そんな物をポンとくれるなんて、そんな事がある訳ないしなぁ。


 俺は布を解き、贈られた槍をその目で確認した。同時に鑑定の技能が自動的に発動し、その装備の名称と性能が俺の目に入ってくる。


 ……それは、通常の槍よりも大きな、二又に分かれた穂先が特徴的な、神々しい槍であった。

 名称は『冥王の二叉槍バイデント・オブ・プルート』。

 闇属性大幅強化や対不死型アンデッド超特効、死亡時にHP全快で自動復活(当然だが長めのCTクールタイムあり)等の様々な特殊効果が盛り盛りの、紛う事なき……神器であった。


 神器武器、ポンとくれたぜ。

 あの、冥王様、期待してくれてるのは十分過ぎる程に伝わりましたけど、流石に太っ腹すぎやしませんかね……?

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