第85話 問1・急に推しが目の前に来た時の女神(笑)の心境を答えなさい
頭部を水の槍でブチ抜かれた骸骨船長は、しかし何事もなかったかのように起き上がり、俺に反撃をしてきた。
無詠唱で放たれた、十発の『
はいジャストパリィ成功、からの『水霊歩法』で一瞬だけ体を水化して、敵をすり抜けるようにして移動し、背後を取る。
「一気にいくぞ!」
槍を甲板に突き立て、その反動を利用して跳躍しながら顎を蹴り上げ、更に間髪入れず脳天に強烈な踵落とし、そして右足に水を纏いながら急降下しての踏みつけに繋げる。
着地した後は氷の衝撃波を放ち、同時に至近距離での素手による攻撃で相手を吹き飛ばした後に、蹴りで水の竜巻を放ちつつ魔法で大量の水をぶっ放してやった。
昇竜脚→竜爪脚→滝落衝→
俺の本来の戦闘スタイルはコントロール系……慎重に立ち回って戦場全体を観察しつつ、状況に応じて攻撃と支援を切り替えるタイプの為、コンボはあまり重視していないのだが、明らかな隙があれば、そりゃ叩き込むわ。
ちなみにそんな俺の対極に位置するのが、あるてま先生のようなコンボ特化の鬼畜永パ中毒者共や、バルバロッサやスーサイド・ディアボロスといった一撃ぶっぱ系のガン攻めタイプである。
さて、そんな俺のコンボで派手に吹っ飛ばされた骸骨船長だが、結構なダメージを受けて甲板の床に膝を付いてはいるものの、まだまだ健在のようだ。流石はレイドボスであり、怨念の集合体であるアンデッドモンスターと言うべきか。驚くべきタフさだ。
しかし、巨大戦艦を相手にする程の絶望感は、はっきり言って無い。要はごく平凡なレイドボスモンスターに過ぎないレベルであり、LAO時代に散々戦って、倒してきた奴らと似たような物だ。
それとこの場に居る信者達も、俺から見ればまだまだではあるが、十分に戦力としてカウント出来る程度の力量は持っている。
つまりこの戦いは、甲板に乗り込む事ができた時点で、ほぼ勝ちが確定していた。
その、筈だった。
「成ル程……コレガ、女神ノ、チカラカ……。流石ダト言ウベキカ……コノママデハ勝テソウニナイナ……」
それは相手もよくわかっているようで、負けを認めるような発言をしてきた。
「ならばどうする? このまま負けを認めて成仏すると言うなら許してやるが?」
「……否! マダダッ! コノ俺ノ本当ノチカラヲ、今コソ見セテヤル!」
そう叫ぶと、骸骨船長は突然、空高く跳び上がった。
「亡霊達ヨ、我トヒトツニナレ! 今コソ最強ノチカラヲ手ニスル時ゾ!」
怨念を吸収し、骸骨船長が空中で更に巨大化する。そしてそのまま甲板に落下し、着地……するかと思われたが、その勢いのまま甲板に突き刺さった。
「ウオオオオオオオオッ! 見ロォッ! コレガ俺ノ、真ノ姿ダァッ!」
下半身が亡霊戦艦とドッキングして、合体した骸骨船長の上半身が雄叫びを上げた。
「戦艦と……合体した……だと!?」
まさかの事態だが、これには流石の俺もビックリ&ドン引きである。
「女神アルティリアヨ、ココカラガ本当ノ戦イダ!」
しかし、驚いてばかりもいられない。敵は戦艦と合体した事で、体の一部を船の大砲に変えて砲弾(闇属性の魔力弾だ)を撃ってきたり、甲板から生やした巨体を生かして巨大な腕で広範囲を薙ぎ払ってきたり、また甲板からいきなり手を生やしてきたり等、やりたい放題して来やがった。
そんな戦艦と合体した骸骨船長の攻撃に、苦戦を強いられる俺達だったが、それ以上に問題なのが、敵の耐久力だ。
何しろ奴は、戦艦と合体しているのだ。その為、亡霊戦艦のHPがそっくりそのまま、奴のHPに加算されていた。
これは大問題である。船の耐久力というのは当然だが、人間や生物と比較して非常に高い。あの巨大な超弩級亡霊戦艦に至っては、廃人海洋民が艦隊を組んで砲撃を繰り返す事でようやく倒せる、海洋レイドボス並の堅さである。
そんな物を生身で殴って倒す? 無理に決まってんだろふざけんな馬鹿。
そういった次第なので、俺が今考えるべきなのは、この状態の敵を倒す方法ではなく、どうやって骸骨船長を戦艦から分離させるのか、だ。
ダメージを与え続ければ引き剥がせるか? その場合、狙うのはダメージを与えやすい頭部か、それとも戦艦との結合部である腰か?
戦いながら考えを巡らせていた時だった。突然、骸骨船長の腹部が変形し、そこに骨が集まって出来た、巨大な大砲が生成された。
「全員、射線から離れなさい!」
あれはヤバい。見るからに威力がとんでもない奴だ。俺は敵の正面で戦っていた者達に対して、逃げるように指示をするが……
「死ヌガイイ!」
彼らが退避する前に、巨砲から黒色の光線が発射された。真っ直ぐに発射されたそれが、射線上に居た者達を飲み込もうとする。
だが、その時だった。
突然、何者かが上空から甲板上に降り立ち、敵が放った闇属性ビームの間に立ち塞がった。
そして、その人物は直後にその身へと命中しようとする光線に向かって、左手を突き出した。すると、光線がその者の左手へと、吸い込まれるようにして消えていった。
突然現れて敵の強力な攻撃を防いだ人物は、黒いフード付きのローブを着ており、顔も体型も判別しにくい状態だ。しかし、俺はその正体不明の人物に見覚えがあった。
「あの黒いローブは、まさか……!」
「アルティリア様、お知り合いですか!?」
俺の反応と、彼が敵の攻撃を事も無げに防いだ事からそう判断したのであろう、ロイドがそう訊ねてくる。
「直接の面識はありません。しかし、私の勘が正しければあの者は……」
俺の言葉の途中で、件の人物はその頭部を覆うフードを脱ぎ、顔を露わにした。まず最初に銀色の髪が、そして次に、少女と見間違うような美しい顔が現れる。
やはり間違いない、あの人物は……
「我が名は冥戒騎士フェイト! 主命により、女神アルティリア様にご助力致す!」
やはりフェイトだ。ロストアルカディアⅥの主人公、冥戒騎士フェイトに間違いない。
冥戒騎士フェイト……彼について簡単に紹介すると、フェイトは元々、リオール王国という国の王子として生を受けた。
リオール王国は、世界地図で見ると北東に位置するハルモニア大陸に存在する大国だ。そんな豊かな国の王子様というだけでも凄いが、彼の場合はそれだけでなく、彼が生まれる前……フェイトの母が彼を妊娠した際に、彼女のところに天使が訪れ、受胎告知をした上で、こう予言した。
「その子はやがて、この世界を救う光、救世主となるでしょう。どうか大切に育てるように」
これには王城中がひっくり返るような騒ぎになり、国王も生まれてくるその子供を、救世主として立派に育てる事を決意した。
天使によって予言された救世主の誕生に、国中が喜び沸く中で、しかしその誕生を忌々しく思う者達がいた。王太子である第一王子とその母親である王妃、およびその一派であった。
フェイトの母は第二妃、すなわち側室である。正室である第一王子の母は、側室の第二妃が救世主を生むという予言を聞き、焦りと憎しみを抱いた。
また、第一王子とその母親に与する派閥の者達もまた、これを機に第二妃の派閥が巨大化する事を恐れ、寝返りを考える者も現れた。大国といえど一枚岩ではなく、貴族社会にはこういった派閥抗争が付き物である。
そんな状況に目を付けたのが、魔神将とその配下の魔物達である。なにしろ彼らにとっても、救世主の誕生というのは他人事ではない。救世主とはすなわち、世界の敵である彼らを滅ぼす者に他ならないのだから。
ゆえに彼らは人間に姿を変え、第一王妃の一派へと潜り込んで、とある貴族に目を付けた。功名心と
悪魔の囁きによって、その男は第二妃を殺害するという凶行に走った。魔物に唆された愚かな男の手で王妃と、そして彼女の胎内にいた、もうすぐ生まれるはずだった王子が殺害され……世界を救う筈だった光は、生まれる前に消え去った。
深い悲しみに包まれたリオール王国はその数年後、魔物の大群による攻撃と国内の貴族派閥同士の内紛、民の反乱などが重なって、あっさりと滅んでしまった。
こうして、世界は闇に包まれ……る事は無かった。
生まれる前に死んでしまったフェイトだったが、彼の魂は冥界を治める王、冥王プルートの下を訪れ……冥王の手によって新たな命を授かり、冥王夫妻の子として直々に育てられる事になった。
こうして冥界にて新たな生を受け、冥王の養子兼直臣としてエリート教育を施されたフェイトはすくすくと立派に育ち、冥王直属の騎士団である冥戒騎士の団長にまで出世し、彼らを率いて魔神将の軍団と戦い、見事勝利して魔神将を討ち滅ぼした救世主となり、予言は果たされたのであった。
というのがロストアルカディアⅥのざっくりとしたあらすじなのだが、その主人公であるフェイトという少年はシリーズを通してもかなりの人気キャラであり、そして俺の推しキャラの一人である。
銀髪に赤い瞳、黒いローブに闇属性でメイン武器が大鎌という中二心を擽りまくる設定に加えて、本人がクールで無表情、騎士道精神と冥王への忠誠心に篤いストイックな男の娘というのも、刺さる人にはブッ刺さる部分だろう。
あと普段は騎士として振る舞ってるから堅物に見えるけど、プライベートでは冥王夫妻の前では年相応に子供らしいところを見せたり、魔術の師匠であるヘカテー(通称ヘカ様。魔術の女神であり魔女達の長。そして俺に匹敵するレベルの爆乳とむちむちボディを持つセクシーなお姉さんキャラであり、こちらも言うまでもなく俺の推しキャラの一人である)との、おねショタめいた絡みが多い所も人気がある。
そんな推しキャラがすぐ目の前に居るんだが、俺はどうしたらいいのだろうか。
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