第77話 緊急ミッションを発令する

 この沈没船ダンジョンのボスであろう、海賊船長の恰好をした巨大なスケルトンと対峙しているのは、我が海神騎士団の団員達だった。

 ルーシーとスカーレットの二人を壁役タンクにした2トップ編成で、リンを中心に他の団員達が魔法や射撃武器による遠距離攻撃で削る、強敵を相手にする時の守備重視の陣形だ。司祭兼軍師のクリストフは最後方に控え、壁役の二人に回復・支援魔法を飛ばしながら全体の指揮を行なっている。


「皆、待たせてすまない!」


 そこにロイドが合流し、前衛の二人に並び立った。


「来た! 団長来た!」


「これで勝つる!」


「アルティリア様もいらっしゃったぞ!」


「おおっ! これで我らの勝利間違い無しだ!」


 俺達の姿を見て、人間達が歓声を上げた。

 それを身て、俺は少しばかり良くない流れだと感じた。

 士気が上がったのは良い事なのだが、俺達が合流した事で彼らに油断……とまではいかないが、気の緩みのような物が生じたと感じたからだ。

 確かに俺さえ居れば大抵の敵には勝てるし、あのボス骸骨も、ダンジョンボスだけあってそれなりの強さだし、大人数で突入したから補正がかかっているのか、本来のレベルよりもHPを中心に、あらゆるステータスがだいぶ強化されている感はある。しかし、それでも俺から見れば格下だ。ぶっちゃけソロでも倒せる相手だろう。

 だが、俺に頼りすぎる事で彼らの心に甘えが生じ、成長が阻害される事になってしまっては、それこそ彼ら連れて来た意味が無い。

 そう考えた俺は、心を鬼にして突き放すべきかと思ったのだが、


「皆、気を抜くな! まだ勝っても、戦いが終わってもいないんだぞ!」


 穂先が大型で鎌状の刃が付いた槍を振り回し、骸骨を数匹纏めて吹き飛ばしながらそう叫び、仲間を叱咤する者が居た。海上警備隊の制服に金属製の部分鎧を身に付けた銀髪の青年、警備隊のクロード=ミュラーだ。


「クロードの言う通りだ。お前達、この程度の相手にいちいちアルティリア様の手を煩わせるつもりか?」


 刀を鞘から抜きながら、ロイドもそれに続き、


「そうじゃないだろう。ここはアルティリア様に我らの戦いを見守っていただける事に奮起し、恥ずかしい戦はお見せできぬと気合を入れ直すべき場面だ。この時点でまだアルティリア様に助けてほしいと思っている者は、今すぐ帰還の魔石を使って町に帰れ」


 そう言い放つと、周りの者達の表情と身に纏う空気が明らかに変わった。


「フゥー……すまんなロイド、よく言ってくれた」


「ああ、どうやら寝惚けていたようだが目が覚めたぞ」


「よく考えれば、アルティリア様に恰好いい所を見ていただく大チャンスというわけだ。逃がす手は無いな」


 気合十分で、冗談を言えるくらいに余裕もある。良い状態だ。これなら心配はいらないだろう。


「と、いうわけですアルティリア様。ここは我らにお任せ下さい」


 ロイドが背中越しに顔をこちらに向けてそう言った事で、俺は一瞬で玉座のようなデザインの氷の椅子を作って、それに腰を下ろした。

 手出しはしない、というポーズだ。


「そこまで言うのなら任せましょう。ただし大口を叩いておいて、みっともない戦いをしたら罰を与えますよ」


「はっ! 必ずや、完璧な勝利をアルティリア様に捧げます!」


「いいでしょう。では……」


 俺はEX職業クラス大神グレーター・ゴッド』の技能アビリティの一つを発動させた。

 その技能の名は、『神の特命ゴッズ・ミッション』。その名の通り、信者達に対して課題を出し、それを達成出来れば報酬を与え、出来なければペナルティを課すという物だ。


「女神アルティリアの名に於いて命ずる! 各自、己の役割を果たし、誰一人欠ける事なく速やかにこの魔物達を殲滅せよ!」


 というわけで、緊急ミッション発生である。

 達成条件は5分以内にボスを含めた室内の全モンスターの殲滅。

 失敗条件は制限時間の経過または参加メンバーの誰かが戦闘不能になる事。

 クリア報酬は経験値やスキル熟練度、失敗時のペナルティはダンジョンクリア時の報酬を一部没収としておこうか。


「「「「「了解ッ!!!」」」」」


 ついでに、手は出さないが神の常時発動型技能パッシブ・アビリティである『神聖なる指揮ディヴァイン・コマンド』……自身の命令に従っている際、信者の全ステータスを上昇させる技能による支援を行なっておく。これくらいなら構わないだろう。

 さて、後は座ってのんびりと、彼らの戦いぶりを見せて貰うとしようか。

 俺は懐中時計を取り出し、彼らがモンスターを全滅させるまでの時間を計測し始めたのだった。

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