第54話 ハック&スラッシュ!

 洞窟の奥を目指して進む俺達の進む道を、多数のモンスター達が阻む。

 通路を抜けて巨大な広間に入るなり、突然襲いかかってきたのは火炎蜥蜴フレイムリザード溶岩巨人ボルケーノゴーレムといった、火属性の中~大型モンスター達だった。

 いきなり溶岩の中から飛び出して来たので少々面食らったが、落ち着いて対処すれば大して苦戦するような相手ではない。

 俺は火炎蜥蜴が放ってきた炎の吐息を、槍を回転させてかき消した。そしてそのまま槍を回しながら手を放し、その柄を蹴り上げた。


「ほいっと」


 まるで車輪のように高速で縦回転しながら、槍が敵群に向かって飛んでいく。『大車輪』という、槍の遠距離攻撃技だ。使うと槍が一時的に手元から離れるデメリットはあるが、その分射程距離・威力共に優秀な技である。更にそのデメリットも、コンボ用の技を使えば解消可能どころかメリットと化す。

 俺は残像を残しながら、一瞬で蹴り放った槍の元まで移動した。そこはモンスターの群れの丁度真ん中あたりで、周りには大量の敵が居る。

 そこで再び槍を掴んだ俺は、それを大きく振り回して周囲の敵を薙ぎ払うと再び瞬間移動をして、今度は敵群の真上へと移動する。


「瞬速回収からのブランディッシュスピア、短距離転移ショートテレポート、そして流星槍っと」


 真下に向かって一気に加速し、溶岩巨人を頭から串刺しにして粉砕しながら、地面へと槍を突き立てて……


「はい、『トルネードスピン』! 終わり!」


 突き立てた槍を両手で掴んでポール代わりにして、俺は横方向に自らの体を高速で回転させ、周囲に竜巻を発生させて、周りの敵を纏めて消し飛ばした。

 これで粗方の敵は倒した。一方、同行している神殿騎士達に目をやると、彼らもそれぞれ自分の武器でモンスターを切り伏せたり、叩き潰したりしている。ロイドは飛びかかってきた火炎蜥蜴や吸血蝙蝠ドレインバットを一太刀で纏めて切り伏せてるし、ルーシーは溶岩巨人が投げてきた高温の岩の塊を、右手のメイスで他の敵が固まっている所に打ち返しながら、左手に持った盾で近付いてきた別の敵を殴り倒すといった器用な真似をしている。やはりあの二人は頭一つ抜けているな。

 勿論他の者達もしっかり活躍し、ものの数分で視界を埋め尽くしていた敵は全滅した。


 そうして、その場に居たモンスターが全員居なくなると、突然俺達の近くの床に、豪華な装飾がされた大きな宝箱が姿を現した。


「ダンジョンの中には、今のように大量のモンスターが現れる部屋や空間が存在します。所謂いわゆるモンスターハウスといって、多数のモンスターに囲まれるので非常に危険ではありますが……代わりにそこに居る敵を全滅させる事が出来れば、貴重な財宝を入手する事ができるのです」


 いきなり目の前に宝箱が出てきて、ぎょっとしている騎士達に向けて俺はそう説明した。

 ダンジョンは時間や空間の流れが歪んでいる為、遥か昔に失われた筈の物や、異なる世界から流れてきた品が紛れ込む事がよくあるらしい。ロストアルカディアシリーズの設定上ではダンジョンで拾える財宝とは、そういった存在らしい。


「ただしダンジョンで宝箱を開ける時は、罠に気を付けるように。宝箱そのものではなく、近くの床や壁に仕掛けられている事もあるから油断は禁物です。それと罠が無くても鍵がかかっている場合もあるので、メンバーに盗賊系の職に就いている者が一人でも居れば、探索がぐっと楽になりますよ。今回は罠・鍵どちらも無いようなので、このまま開けてしまいましょう」


 宝箱を開けると、中からは多くのアイテムが姿を現した。


「やはりダンジョンの性質と同じで、火属性のアイテムが多いようですね。武器はこの場所のモンスターには通じにくいでしょうが、他の場所では役立つでしょうし、売ってそのお金で装備を整えるのも勿論ありです」


 火属性の短剣『フレイムダガー』や、火属性魔法を強化する効果がある杖『ファイアワンド』といった武器や、火属性耐性付きのマント『火鼠の衣』や、腕防具『火精霊の手甲サラマンダーガントレット』のような防具類を入手した。

 俺には不要だが、ロイド達にとってはかなり有用なレアアイテムだろう。特に防具類は、この洞窟を進む上でかなり役に立つはずだ。


 その中でも一番の目玉は、『火吸ひすいの勾玉』というアクセサリだ。緑色の勾玉が付いた首飾りで、これはもしかして翡翠と火吸をかけたダジャレなのだろうか。

 そんな冗談みたいな名前だが、その効果はなかなか優秀だ。火属性耐性上昇、火属性の敵に対するダメージ上昇に加えて、火属性ダメージを受けた際に短時間だが全ステータスとHP・MPの自然回復力を上昇する強化効果バフを受ける事ができる。このダンジョンを攻略するのに使えと言っているような性能だ。


 そんな有用なレアアイテムを多数入手した神殿騎士達だったが、ここで問題となるのはアイテムの分配をどうするかだ。

 誰だってレアアイテムは欲しい。しかしその数には限りがあり、全員がそれを手に入れる事は出来ない。

 全部売って換金するには惜しい性能だし、誰がどのアイテムを手にするかを話し合いで決めるという手もあるが、生憎と悠長にそんな事をしている暇もない。

 しかし案ずるなかれ。そのような時に冒険者達が行なう、伝統的な儀式がある。俺はそれを彼らに伝授した。


 まず最初に、各人がそれぞれ自分の欲しいアイテムを宣言するのだ。

 その結果、もしもそれを欲しい者が自分以外におらず、被りがなかった場合は、何事もなく指定したアイテムを手に入れる事ができる。

 そして、それを欲しいという者が自分以外にも居た場合は……


「いくぞ! 運命のダイスロールッ!!」


 賽を振り、その出目に全てを託すのだ。2D6で一番高い目を出した奴が優勝だ。


「ッッシャアアア! 火精霊の手甲ゲットォォォォ!」


「ぐわああああ! 馬鹿な、何故そこでピンゾロ!?」


 ダイスの結果は絶対である。勝ってレアアイテムを手に入れる者も居れば、敗北して何も得られなかった者もいる。

 だが今回負けた奴は次回以降に入手したアイテムに対して優先権を与えられるので、次のチャンスに期待してほしい。

 ちなみに火吸の勾玉はロイドが入手した。驚く事に、それを指定した奴がロイド以外に居なかったからだ。一番レアで便利な装備は団長に使ってほしいという、騎士団員達の心配りの賜物であった。ロイドは部下達の気遣いに感謝しながら、それを自らの首に下げたのだった。


 なんてあったかいチームであろうか。少なくとも俺が所属していたギルド『OceanRoad』では見た事がない光景だ。奴らは俺も含めてハイエナのように一番高価なアイテムに飛びつき、ギルドマスターのキングは毎回ダイス競争でいつもの屑運を発揮してボロ負けし、ギルメン達に煽られていた。

 海神騎士団とOceanRoad、一体どこで差が付いたのか。慢心、環境の違い……


 それから俺達は幾つかの通路や大部屋を踏破して、遂にダンジョンの最奥へと辿り着いた。

 そこには巨大な金属の扉と、その両脇に鎮座する大きな悪魔像があり、いかにも「この先にボスが居ますよ。回復とセーブを忘れないように」といった雰囲気を漂わせていた。


「準備はいいですね。行きますよ」


 俺は扉に手をかけて押し開き、部屋の中へと足を進めるのだった。

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