第53話 火山調査開始!

 翌日、俺達はレンハイムの町を出立した。向かう先は、町の南にある火山である。

 同行者はロイド以下、海神騎士団の正規団員全員だ。

 普段、こういった戦闘や調査に関しては騎士団に任せている俺だが、今回の件に関しては以前から続いていた、モンスターの活性化や異常な暑さの原因となる何かが存在するであろう事から、危険度・重要度が段違いと思われる為、自ら出向く事にした。

 そんなわけで危険なので、アレックスとニーナは置いてきた。この戦いにはついて来れそうにない。

 いや、実を言えばあの子達も大概強くなってるし普通に戦えそうではあるんだが……流石にボス級の敵が居る所に連れていくには心配なんだよな。まだ小さいし。

 なので領主に預けて、俺が留守の間は彼の手伝いをするように言っておいた。仕事を与えれば、勝手について来るような真似はしないだろうと踏んでの事だ。


 火山に向かった俺達は、さっそく大量のモンスターから手荒い歓迎を受けた。食人鬼オーガ岩の巨人ロック・ゴーレム亡霊甲冑リビングアーマーといった人型のモンスターが多い印象だ。

 山の麓にはそれらの大群が陣形を組んで、俺達を迎え撃とうと身構えていた。


「はい、『激流衝アクア・ストリーム』!」


 だが、もう居なくなったので先を急ごう。

 騎士達が背後で「流石アルティリア様!」とか言ってるのが聞こえるが、あの程度の雑魚をワンパンで一網打尽にするのは一級廃人なら誰でも出来る事なので、お前らもさっさと出来るようになれ。


 そうやってモンスターを雑に蹴散らしながら、俺達は山を登る。日本みたいに登山道が整備されていたりはしないので、岩肌が露出している荒れた山を強引に踏破する必要がある。

 だが、何事も工夫すれば何とかなるものだ。例えば道中、垂直に切り立った断崖絶壁を登るような場面があった。


「アルティリア様、どうやらここを登る以外に道は無さそうです。まずは私が登ってみます」


 そう言って岩盤に手をかけ、登攀しようとするロイドを俺は止めた。


「お待ちなさいロイド。こういった障害に対して馬鹿正直に挑んで、無駄に体力を消耗するのは得策ではありません。頭を使いなさい」


 ロイドを下がらせて崖の前に立った俺は、自分の足下を対象に『氷の柱アイス・ピラー』の魔法を発動させた。それにより、俺の足元に氷の柱が生み出され、それが俺の体を押し上げる。

 それによって崖の上までショートカットした俺は、水を操ってロープの形にして、人数分のそれを崖下に向けて垂らした。


「それを体に巻き付けて、しっかり掴むように。準備が出来たら引き上げます」


 後は水のロープをゆっくり縮めていけば、全員を崖上まで引き上げる事が出来るというわけだ。

 水は決まった形を持たず、どんな形にもなれるという特性を活かしたテクニックだな。

 他にも足場を作ったり、水の流れを利用して高速で移動したり、氷の塊でスイッチを押したり等、ショートカットやギミック解除に役立つ小技が沢山ある。

 それらを駆使して山道を進み、俺達は順調に登山をしていった。

 山頂に近付く程に、周囲の気温はますます高くなっているようだ。俺は装備効果で完全にシャットアウト出来ているし、騎士達は俺が水で薄い膜を作って熱波を防ぎ、高温から守っているが、そうしなければ途中で倒れる事は間違いない。


 やがて俺達は山の頂へと辿り着いたのだが、そこには予想だにしていなかった物があった。

 それは空間にぽっかりと空いた大きな穴のような物で、穴の向こう側は真っ黒な渦巻き状になっており、見通す事はできない。

 俺はその存在に見覚えがあった。一人のプレイヤーとしてLAOをやっていた時には、飽きるくらいに見たものだ。


「こんなところにダンジョンゲートだと……?」


「アルティリア様、この奇妙な穴が何なのかご存知なのですか?」


 すぐ後ろに立っていたロイドが、俺の呟きに反応して尋ねてきた。


「ええ。これはダンジョンゲートと言います。その名の通り、異界の迷宮へと通じる入口です」


 ダンジョンとは何らかの原因によって自然界の魔力が異常をきたした結果、歪んで異界化した空間が発生する事で生まれるものだ。

 その内部は複数の階層からなる広大な迷宮と化しており、中には外より強力なモンスターや凶悪な罠、そして数々の財宝が冒険者達を待ち受けており、ダンジョンの中にしか現れないモンスターや、そこでしか得られないレアアイテムも存在する。

 俺はそういった、ダンジョンに関する基礎知識を騎士達に伝えた。


「どうやら、このダンジョンの奥にある何かが猛暑の原因のようですね。かなり強力な存在が居ると思われます。何が起きてもおかしくないので、警戒を怠らないように」


 俺は騎士達にそう言い含めて、ダンジョンゲートへと足を踏み入れた。

 そうすると次の瞬間、俺達は高温の蒸気が噴き出し、溶岩が流れる灼熱の洞窟へと移動していた。


「ここがダンジョン……それにしても何という暑さだ」


 温度も外とは比べ物にならず、俺が居なければ入った瞬間に全滅していてもおかしくない程の異常な高温だ。俺は騎士達を守っている水壁の出力を少し上げた。


「床や壁から噴き出す蒸気には気を付けて。それと、あそこを流れている溶岩に落ちたら助からないので、くれぐれも足元には注意するように」


 ダンジョンの中は広い洞窟になっており、周りを見れば真っ赤な溶岩の川や、その先に溶岩溜まりが見える。

 普通の人間が落ちたら当然死ぬし、俺でも多少のダメージは免れない為、細心の注意を払う必要があるだろう。

 俺達は周囲を警戒しながら、洞窟の奥へと進むのだった。

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