第31話 うちの神殿ではブラック勤務は許さんぞ
装備が完成した。
俺のではない。数日前から製作を開始していた、ロイド達神殿騎士の為の装備だ。
神殿のプライベートエリア内にある工房で、少し前から俺は騎士達の為の武器や防具を毎日少しずつ、せっせと作り上げていたのだが、それが今日になってようやく全て完成したのだった。
召喚した
ちなみに俺は水属性に特化しているのは確かだが、他の属性でも下級の精霊を召喚・使役するくらいなら問題無くこなせるのだ。中級以上となると水専門だがな。
「ありがとう。お前達のおかげだ」
俺がそう言うと、火精霊と土精霊は恭しく礼をした。火精霊は全体的に赤い色で、火の粉を纏った、竜のような角や尻尾を持つ少年の姿をしており、土精霊は緑色の、だぼっとした全身を覆い隠す服や帽子を身に着けた少女だ。どちらも身長は140~150cm程度である。
「お役に立てて光栄でございます、女神様」
「またいつでもお呼び下さいませ」
彼らを召喚・使役するにあたって、俺が差し出す対価は魔力である。
魔法に長けたエルフであり、精霊術師を極めた俺の魔力は精霊にとっては極上のご馳走のような物であるらしく、彼らはいつも俺に召喚されている水精霊達を羨ましがっていた。
その水精霊達は、今は俺の神殿に留まっている。
精霊とは、大自然の持つ魔力が形と意志を持ち、生物の姿を取った存在だ。
その為、特にやる事がなく、召喚もされていない時は実体を持たず、自然界に揺蕩っている。いわゆる省エネモードというやつだ。
しかし、俺の神殿は祀られている神様である俺が住み着いている地上で唯一の神殿というパワースポットであり、しかもその神が自分を召喚・使役している神である為、水精霊達にとっては最高に居心地が良い場所のようだ。
その為、俺が召喚した水精霊達は今、帰還せずに神殿に滞在している。
折角なので彼女らには、俺の身の回りの世話や周辺の見回り、参拝者やお客さんの応対、お遣いなどをお願いしている。
信者達も、水精霊達の事は俺の部下であり、なんかありがたい存在だと思っているようで、敬意を持って接している。
このあたりではどうか知らんけど、ルグニカ大陸――ロストアルカディアⅢ以降の舞台であり、LAOでもプレイヤー達がメインで冒険する場所だった。ちなみに設定上はアルティリアの故郷でもある、エルフの住む森もこの大陸に存在する――にも精霊信仰はあったし、神秘的な見た目をしているので信仰したくなる気持ちもわからなくはない。
余談だが、クリストフと一緒に王都に行った
話を戻すが、作った装備は神殿騎士という職業の
基本的には防御力重視の金属鎧だが、複数のバージョンを用意しており、一発の攻撃力や耐久力を重視し、正面から殴り合うタイプの者には重装甲バージョンを、スピードを重視する者や遠距離攻撃を主体にする者には、重装甲バージョンよりも防御力は下がるが、軽くて動きやすい軽装甲バージョンを与える。
後衛のリンとクリストフは、軽装甲バージョンであっても鎧を装備して戦うのは難しそうなので、それぞれローブと法衣を作った。どちらも布製でありながら、半端な鎧よりも防御力・耐久力に優れた逸品だ。
また、指揮官のロイドと教官のルーシーにはそれぞれ、本人に合わせた特別仕様の物を作成した。
ロイドは武器が刀の為、盾を使わない。そこで防御面を強化する為に、左腕にギザギザした傾斜を付けて、防御……特に防刃性能を高めた
彼らの鎧は神殿騎士らしく白と、俺のシンボルカラーである青を基調にしており、淡い青白色に輝く鎧に鮮やかな赤いマントはよく映えるだろう。
ルーシーの場合は元から神殿騎士だっただけあり、ロイド達に比べればかなり良い装備を持っていた為、それらを改良するに留まったが、少なからず戦力の底上げは出来たと自負している。
「と、いうわけで……これが貴方達の新しい装備です」
「「「うおおおおおっ……!!」」」
俺が並べた装備を見たロイド達が、どよめきと歓声を上げた。
「アルティリア様……! よろしいのですか、これほどの物を……」
「当然でしょう。貴方達の為に用意した物です。役立てるように」
遠慮せずに受け取ってもらいたい。
むしろ受け取り拒否とかされても困るんだが。ロイド達のレベルならかなりの高級装備ではあるが、俺のような一級廃人から見ればオモチャのような物である。残されたところで使い道が無い。
「かしこまりました……では、有難く……!」
ロイド達は恭しく頭を下げて、装備を受け取った。彼らはさっそく、受け取った装備を身に着けて、着心地を確かめている。
「すごい……! 堅い金属の鎧なのに、ほとんど重さを感じないぞ!」
「武器もだ。見ろ、この曇り一つ無い刃を! とんでもない名剣だぞ、これは!」
喜んでいるようだが、一つ釘を刺しておかなければならない事がある。
「一つ言っておきますが、そこはまだスタート地点に過ぎません。現状に満足せず、更なる高みを目指すように。さしあたっては……これくらいを目標にするといいでしょう」
そう言って俺は、ロイドから預かっていた刀『村雨』を彼に返した。
ロイドの成長に合わせた調整と共に、武器自体の強化や、エンチャント――装備に特殊な効果を付与する技術の事だ――を行なった物だ。
ロイドの奴、せっかく良い装備をあげたというのに未強化のままで使っていたからな。
どういう事かと聞いてみれば、装備強化やエンチャといった技術は一応存在しているものの、高度な技術を持った職人や高価な触媒が必要であり、下級の冒険者にはとても手が出せるような物ではないとの事だ。
グランディーノは大きな港町とはいえども、王都から遠く離れた僻地だ。そのような高度な技術を持った職人などおらず、どいつもこいつも武器は買った時のままの未強化状態で使っているようだ。これは由々しき事態である。
仕方がないので、当面の間は装備の製作や強化、エンチャ等は俺が代行する事にした。
ただし次からは金と素材を持ってくるように伝える。あまり甘やかしてもこいつらの為にならんしな。自分の装備くらいは自分で面倒を見てもらわんと。
「こっ、これは凄い……! 強化によってここまで変わるとは……」
受け取った村雨を鞘から抜いて見たロイドの表情が、驚愕に彩られる。
「それでようやく半分程度です。ここから先は貴方自身が、武器を成長させてあげられるように頑張りなさい」
ロイドに言ったように、村雨の強化値は最大の半分程度で抑えておいた。それでも攻撃力や魔法攻撃力が約1.5倍くらいまで上がっている為、これまでより狩りの効率が大きく上がることだろう。
「ははぁっ! では早速、この装備を試してまいります! クリストフ、冒険者組合からの依頼は来ているか!?」
「いえ、今のところ我々への指名依頼はありませんね……」
「ならば組合のほうで適当な依頼を見繕ってみるか……よし、行くぞ!」
そう言って冒険に行こうとするロイド達を、俺は止めた。
「お待ちなさい。貴方達、明日が就任式だという事を忘れていませんか?」
そう、ロイド達が神殿騎士に就任する日は、明日に迫っていた。
「明日はその鎧で式に出席するのですよ。その前に戦いで汚してどうするのですか」
『あっ……』
どうやら新しい装備にテンションが上がりすぎて、すっかり忘れていたらしい。元大神殿所属のクリストフやルーシーまでもが、だ。
まあ新しい装備を手に入れて嬉しい気持ちはわかるけど、少し落ち着こうか。俺は別に鎧が多少汚れてたり傷ついてたりしようが気にしないが、領主さんや大神殿のお偉いさんも出席するんだからさ。
「明日は忙しくなりますし、今日は休みなさい。そもそも貴方達、ここのところ毎日神殿に顔を出していますが、ちゃんと休みは取っているのですか?」
問い詰めると、こいつら休み無しで早朝から訓練して、昼間は冒険者組合の仕事して、夕方からまた訓練して……とかやっていたらしい。
休憩はちゃんと取ってる?夜はちゃんと寝てる?だからなんじゃい!
せめて週に最低1日、できれば2日は完全にオフの日を作って、心と体をリフレッシュさせないといかんでしょ。
頑張るのは良いが、適度な休息を入れなければ、いつかは疲れて倒れてしまうものだ。そうならない為にも、お休みは大切である。
これはロイド達のような神殿関係者以外にも、町の住人達にも徹底させよう。俺の目の届く範囲で、日本のブラック労働者のような真似はさせんぞ……!
「今日はお休みです。私がそう決めました。貴方達も今日は仕事や訓練はせずに、自由に過ごすように。はい、解散!」
俺はそう言って号令をかけるが、ロイド達はどうすればいいのかと、顔を見合わせて困惑している。
この反応……まるで急に休みを言い渡されても、常に仕事をしているのが当たり前の状態になってしまった為に、何をしたらいいのか分からない社畜のような……
「仕方ありませんね……では動きやすい恰好に着替えて、三十分後に神殿に集合するように」
俺は彼らにそう命じた。
遊びを忘れた大人達よ、覚悟するがいい。俺がお前達に童心という物を思い出させてくれるわ。
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