第28話 これは教育ですわ

 ロイド=アストレアは、俺がこの世界に来て、アルティリアとなってから最初に出会った人物であり、俺の最初の信者である。

 出会った当初に見た彼の職業構成は、以下のようなものだった。


 名前:ロイド=アストレア

 レベル:35


 【メインクラス】

 海賊 Lv15(Max)

 船長 Lv5


 【サブクラス・下級】

 剣士 Lv8

 兵士 Lv4

 指揮官 Lv3


 LAO基準では、ようやく初心者マークが外れるかといった程度の強さだが、この国ではそれなりの強者として扱われるようだ。


 それから紆余曲折を経て再会した彼の、現在の職業構成を以下に記そう。


 名前:ロイド=アストレア

 レベル:58


 【メインクラス】

 神官戦士 Lv15(Max)


 【サブクラス・下級】

 海賊 Lv10(Max)

 剣士 Lv10(Max)

 兵士 Lv6

 指揮官 Lv8


 【サブクラス・上級】

 船長 Lv5

 侍 Lv4


 まず注目するべき点は、メインクラスが海賊系から神官戦士に変わっている点だ。

 これについては、生き方を変えた事でメインクラスが変更されたのだろう。LAOでもレベルダウンはするが、メインクラスを変更する事は可能だった。

 (ちなみに、レベルダウンのペナルティ無しに職業を変える事の出来る課金アイテムも存在する)

 元々メインクラスだった海賊系はサブクラスになり、それに伴ってLv15だった海賊がLv10まで落ちている。

 また、剣士のレベルがカンストして、新たに上級職の侍を取得している。これは刀をメインウェポンにした影響だろう。

 指揮官のレベルも順調に成長しているが、こちらはまだ極めるには至っていないようだ。

 兵士の職業を持っているのは、海賊になる前は軍人だった名残だろう。こちらは成長していないようだ。


 総じて、以前会った時より23もレベルが上がっており、他の冒険者や軍人と見比べても、頭一つか二つほど抜きん出ている。よく努力したと褒めてやりたい。


 しかし気になる点が一つある。

 何故こいつは、メインクラスの神官戦士をカンストしているのに、上級職を取っていないのだろうか。

 メインより先にサブクラスを上げて、戦略の幅を広げるのも育成方針としては大いに有りではあるが、メインクラスの上級は早めにとっておくべきだと思うんだが。


「ロイドは神殿騎士テンプルナイトにはならないのですか?」


 そんなわけである日、その日も神殿に顔を出しに来たロイドに、上級職の取得をする気がないのか聞いてみた。

 神官戦士の上級職は神殿騎士テンプルナイト退魔師エクソシスト武闘僧モンクの三種類だ。

 神殿騎士テンプルナイトは神官戦士をそのままパワーアップした感じの回復・補助魔法も使える物理職、退魔師エクソシストは対悪魔・アンデッド性能に特化した魔法寄りの職業だ。こっちは神官クレリックを極めても取得できる。

 武闘僧モンクは素手で戦う職業で、刀使いのロイドには不向きのため選択肢から除外する。神官戦士以外にも格闘家グラップラーから取得するルートもある……というかむしろ、そっちが主流である。

 以上の三種類から選ぶなら、ロイドの職業構成や能力値の傾向は、どう見ても神殿騎士に向いている為、そちらを薦めてみた。


 いきなりクラスチェンジを薦められてロイドはたいそう驚いた様子だったが、隣に居た神官のクリストフのほうはとても乗り気で、ロイドに是非就任するべきだと強く薦めていた。他の仲間達も同様だ。


 LAOでは神殿騎士になるには、まず神官戦士のレベルを最大まで上げる事と、各地の町にある神殿から受注できるクエストをこなし、神殿からの信頼度をある程度得た上で転職クエストをクリアする必要がある。

 そうすると司祭長から神殿騎士に任命され、資格を得る事ができるのだ。幸い神殿はここにあるので、後は神殿騎士に任命するだけでいいのだが。


「クリストフ、ロイドが神殿騎士になるにあたり、必要な手続きは?」


「はっ、お答えいたします。神殿騎士の就任には本来、司祭長以上の位を持つ神官が審査・試験を行なった上で、王都の大神殿の許可を得る必要があります。しかしこの場合は神殿の主にして女神たるアルティリア様が直々に指名されましたので、大神殿への報告のみで構わないと考えます。そちらは私が行ないましょう」


「たいへん結構。ああ、それとクリストフ。貴方もさっさと司祭になりなさいな」


 クリストフのメインクラスは神官クレリックで、レベルは最大の15に到達している。だというのにコイツもメインクラスは下級職のままだ。

 聞いてみればコイツはまだ若くて実績も少ないので、まだヒラ神官のままで、司祭に上がる為にはもっと何年も神殿に勤めて、実績を積む必要があるとの事だが、才能や実力がある人間をいつまでも平社員のまま遊ばせておくのは実に勿体ない。


 なので、クリストフを司祭にするように推薦状を書いておいた。

 ついでにクリストフは立場上は中央の大神殿に所属しており、こちらに出向している形になっている為、正式にうちに所属させるように要望も出しておこう。

 それを伝えると、クリストフは滝のような涙を流しながら俺に感謝を伝えてきた。

 そんなに大神殿で働くのが嫌だったのだろうか。まさか大神殿はブラック企業ならぬブラック神殿なのか……?


 ちなみにロイド以外の者達も軒並みメインクラスが神官戦士になっており、レベルが上限に達していた為、全員まとめて神殿騎士に任命しておいた。

 例外はリンという名前の少女で、その子はメインクラスが魔術師の、典型的な後衛魔法アタッカーの構成をしている。


 クリストフは俺が書いた全員分の任命状や推薦状と、大神殿のお偉いさんへのお手紙を持って王都に向かった。

 最初は馬で行こうとしていたが、馬だとどれだけ急いでも往復に数日はかかってしまうので、水精霊を一体貸し出した。

 それも普通の水精霊ではない。この水精霊王アクアロードをカンストして水属性魔法関連のスキルを全部MAXまで上げたこの俺でさえ、二体までしか同時に召喚できない最上位水精霊アーク・ウンディーネだ。


 普通の水精霊の外見年齢は小~中学生、上位水精霊グレーター・ウンディーネは女子高生くらいの容姿をしているが、それらに対して最上位水精霊は大人のお姉さんといった感じのクールビューティーだ。俺ほどじゃないが背が高く、おっぱいもデカい。

 当然だが最上位水精霊もノーマル水精霊と同じように、姿形を自由自在に変化させられるという特徴を持ち合わせている。

 俺の命令を受け、天馬形態ペガサスフォームに変化した最上位水精霊は、その背にクリストフを乗せて飛び立った。ちなみに最上位水精霊の天馬形態は、通常の水精霊と比較して、およそ1.5倍ほどの速度を誇る。


 ちなみに神殿の敷地内に建築した竜舎から先日手懐けたドラゴンが顔を出し、


「えっ、空飛んで行くなら自分の出番じゃないんですか?」


 とでも言いたそうな表情でこっちを見ていたが、人を乗せての飛行訓練はまだ行なっていないし、王都にドラゴンで凸すると確実に騒ぎになるので却下である。


 そんなわけで朝に出立したクリストフと最上位水精霊は、夜には手紙のお返事を持って戻ってきた。

 手紙の返事をくれたのは、王都大神殿のトップである大司教だ。

 一番上は教皇ではないのか?と疑問に思ったので聞いてみたら、教皇はこのローランド王国ではなく、南西に位置する法国に居るそうで、大司教はこの国における神殿勢力のトップという事らしい。

 大司教がくれた、やたらと長い手紙の内容を要約すると、


 ①やけに丁寧な挨拶の言葉。最上位精霊を遣わした事に感激してるっぽい


 ②ロイド達の神殿騎士就任については、が直々に実力・人格を認めた為、許可する。また、それにあたって大神殿から指導員として神殿騎士を派遣する


 ③併せて、うちの神殿に騎士団を設立する事になるので、結成し次第、大神殿への届出をお願いしたい


 ④クリストフの司祭昇進および、うちの神殿への異動は済ませた。引き続き大神殿や各地の他の神殿との連絡窓口を任せたい


 ⑤魔神将および魔物に対抗する為の体制作りには、大神殿や王家も協力する意志がある為、連携して事に当たりたい


 ⑥王都の一等地に俺の神殿を建築するので、完成したら是非直接こっちに来てほしい。詳しい話はその時にしたい


 ⑦つまらないものですが貢ぎ物です。お納めください


 ……といった感じだ。

 贈り物は白金プラチナやミスリルのような貴重な金属や上質な布生地、薬草に香辛料といった各種素材だった。


「助言を求められたので、我が主は実用的な物や、物作りをする為の素材を好むと伝えておきました」


 それらを俺に手渡しながら、最上位水精霊が淡々と言う。

 ファインプレーだ、よくやった。高価なアクセサリーとか服を贈られるより、こういうのの方がずっと嬉しい。丁度、装備製作をする為の素材が欲しかったところだしな。

 何故かというと、それはロイド達の装備を整えるためだ。


 少し時間を戻して、クリストフを待っている間にロイド達と話をしたのだが……こいつら、レベルはしっかり上がってる癖に、装備をろくに更新していないのだ。

 これは問題だ。強くなる為には自分自身のレベルを上げ、成長する事は勿論大事だが、それに合わせて強力な装備品を購入、あるいは製作して入手する事も、同じくらい重要なのは当たり前の事だ。

 いくらレベルが上がっても、装備がヘボいままではその力を十分に発揮する事は難しい。

 幸いロイドの武器に関しては俺があげた村雨があるが、それ以外の装備はほぼ初心者が使うような物だ。


 何故そんな有様なのかと言うと、あいつら、稼いだ金の大半を俺に寄付していたからだ。残りは生活費や装備の手入れ代、消耗品代やいざという時の為の貯蓄となっており、装備を更新するほどの余裕が無かったそうだ。


 これは教育ですわ。

 装備が充実する→狩りの効率が上がる→レベリングや金策が捗る→更に強くなって効率が上がる正のループ→そして一級廃人へ

 装備を更新しない→効率が上がらない→戦闘がきついし稼げない負のループ→いつまで経ってもうだつの上がらない雑魚のまま→いくえ不明

 ほらこんなもん。わかったら装備には常に注意を払え。


 だがしかし、こいつらが俺に寄付した先はこの俺なので、その金を使って俺がこいつらに最適な装備を見繕ってやればいいか。

 というわけで俺は早速、神殿内に作った工房で武器や防具を作るのだった。


 あと、大司教には協力やプレゼントへのお礼の手紙と一緒に、俺が打った剣(ミスリル合金製)を贈った。喜んでくれるといいのだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る