語り手の「私」は祖父が死んだことをきっかけに、山で世捨て人のような生活をしている母方の伯父と出会います。
何の世話もしなかったくせに祖父の遺産を多くもらったことから伯父は親族と断絶状態となりますが、何故か「私」は伯父に惹かれ、母親に隠れて伯父の元に通うようになりました。
伯父は「私」に山での生活のいろは、山の危険性を教えるとともに、奇妙な猿の存在を示唆します。
その後も伯父の元に通う「私」でしたが、ある日とうとう両親にバレて、二度と会いに行くなと言われてしまいます。さらに、当の伯父にももう来るな、と拒絶されるのです。
絶望した「私」は山に入り、そこで伯父の言っていた奇妙な猿に出会うのでした。
この物語は老人になった「私」の回想という形の文章なのですが、幼少期から今に至るまで、「私」はずっと欲望のままに行動しており、そこに他者が口を挟む余地はありません。
どう考えても不便、どう考えても汚い、どう考えても危険ーー常軌を逸した環境に、何故か「私」は進んで身を置きます。
特筆すべきは、「私」は決して欲望に振り回されているのではないということです。
「私」が行動した結果には悲惨な結末が用意されていますが、最後まで「私」は満足げです。
恐ろしいのに、なぜか少し羨ましいような、そんな読後感の、他にはない小説です。
(「主人公が我が道をゆく小説」4選/文=芦花公園)