ラフレス王朝

 贅の限りをつくした宮殿。その前の広場には多数の国民が集まっていた。ラフレス王朝が百年を迎えたのだ。そしてこの日、ネフティスによって国内の魔族は全て一掃され、完全な平和が訪れた。

 三人が宮殿に着くと、王はすでに広場に面した宮殿のバルコニーに立ち、演説をしていた。そのうしろに並ぶ王族や貴族の隅にネフティスは影のように佇む。

 王はひとりずつ王族や貴族を前に呼んで労をねぎらっていた。

「百年の栄華の影の功労者にして、最強の至福冥還師ネフティスに感謝する」

 最後にネフティスが呼ばれた。広場を埋め尽くす群衆は熱狂した。ネフティスは静かに王の横に立つと広場に目を向けた。

「そちがいなければ祟りに悩まされるところだった。魔族を冥府に送ってくれた礼を言う」

 王は満面の笑みを浮かべていた。王だけではない。その場に集った群衆もみな、「幸福」な笑みを浮かべていた。ハッピーエンドにはよい頃合いだ、とネフティスは判断した。

「ほんとに祟りはやっかいなもの。幸福に終わっていただくのが一番です」

 ネフティスの言葉と同時に一陣の風が国中に吹き、全ての国民は石と化した。

「魔族に比べると人間のハッピーエンドは楽なものだ」

 ネフティスはつぶやくと、ふわりと宙を飛んで国境に向かった。


「依頼通りの祟りのない王国だ。受けとれ。国民は石から戻すことも殺すことも自由だ」

 国境の森には、ネフティスの依頼者が手勢を引き連れて待っていた。ここからはるかに離れた国の王子だ。

「十年待った甲斐があった」

 見るからに邪悪な面構えの若造だった。

「無垢な王国を欲しいなどと贅沢を言うからだ」

「まあな」

「では、これで失礼します」

「どこへ行くんだ?」

「誰かがあたしを召喚しようとしているのですよ。これでも忙しいんでね」

 ネフティスはそう言うと、再びふわりと宙に舞い上がった。瞬く間に雲間に姿が消える。

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