game end.
「姉ぇ」
「うん?」
「おはなししながら、ゲームしたいです」
「いいんですか?」
「よろしくございます」
敬語おかしくないか。
「なんでそこまでして、世界が救いたいのですか?」
「え」
「やっぱり、ヒーローになりたい、とか?」
「あなたは。世界が救えなかったときのことを、分かっていないのですか?」
「いや、分かってますよ。最初の対戦では世界救えなかったですもんね」
「はい。あれは、本当に、ひどいことになった」
声明というか、なんというか。
いっしょにあそんでください。必要だったら、法令にふれない範囲で世界を賭けてもいいです。
そのメッセージが、世界中の機器という機器に送られていた。
そして、何人かが集められて。ゲームが始まった。普通のゲーム。
彼女は、そこで負けた。というか、賭けたものが大きすぎたらしい。世界そのもの。
緊張した彼女はぼろぼろに負け。
そして。
世界からコーヒーフラペチーノが消えた。
あのときの彼女のぼろぼろ具合は、凄かった。わたしの胸に飛び込んで、ごはんを求めるまでずっと、泣きながらわたしのトップを吸い続けていた。
「コーヒーフラペチーノですよ。わたしの世界そのものを」
「でも、そのあと取り戻したじゃない」
三日で、世界にコーヒーフラペチーノは戻ってきた。それに、カフェショップはその騒動でずいぶんと利益を得られたらしい。
しかし彼女は、もういちど世界を救うまで、コーヒーフラペチーノを飲みに行こうとしなかった。延々と私のトップを吸い、そして、あらためて戦いを挑んで勝利し、堂々とコーヒーフラペチーノを買ってきて飲んでた。
あれから何度か戦いは起こっているけど、勝ち負けは五分五分ぐらい。その都度世界は救われたり、救われなかったり。この前は手のひらで回す、なんだっけ。
「ハンドスピナー?」
「そうそれ」
あれが奪われた。彼女はそんなに悲しんだ風ではなかったけど、あらためて戦いを挑んで勝ち、堂々とハンドスピナーを買ってきて、私の胸の上で回して遊んでた。ハンドスピナーは再びブームになった。
「見てみて。あそこがね、敵の拠点」
「へえ」
青くて、白くて、綺麗。
「なんか」
「うん。今回はね、わたしたちのほうが敵役なの」
「そうなんだ」
「いつも戦いを挑まれるだけだと品がないかなと思って。今回はこっちから攻めるのです」
この、よく分からない、魔王みたいな見た目。
「これがわたし」
「わるそう」
「ね。わるそうだよね。おりゃ」
主人公側の拠点がどんどん壊されていく。
「あのね」
「はい」
「ひとつだけ、どうしても、伝えたいことが、あります」
「はい。どうぞ」
彼女。声にまだ、敬語のような響き。何を緊張しているのか。
「指輪は、その、かんべんしていただけると」
「え」
「ゲームするときに外したり、そういうのが、あの。あんまり、個人的に、なんか。あなたよりもゲーム優先してますみたいな、そういうふうに見えるので、ええと、ごめんなさい」
「そうですか」
そんなに気にしなくていいのに。ゲームするとき外しても、全然気にしないのに。
「ネックレスとか、イヤリングとか、あの。そういう、ゲームしてるときもつけられるようなのが」
「どっちがいいですか?」
「り、両方」
「両方かあ」
指輪は二つ作る予定だったので、その二つとも加工してもらおうか。
「あ、あの。これが終わったら、私からも。指輪を」
「わたしに?」
「あの。サイズもまだ。分からないので。一緒に来てくださるとございます」
「はいはい。ございますね。よろしくございます」
「敬語むずかしい」
魔王。こうやって話している間も、延々と主人公側拠点をぼこぼこにしている。
「あと。あとすこし」
彼女。目の下にくまをこさえながら、ひっしに世界を救おうと。
「ん?」
彼女のほうから攻めているということは、世界を救うんじゃなくて、世界に侵攻してるんじゃないのかな、これ。
「ねえ、あなた世界の何を」
「勝った。勝ったっ。やったっ。これで」
彼女。跳び跳ねようとして、それを自分の身体で抑え込む動き。
「あはは。ひとりでびくびくしてる」
「あぶねえ」
「さて」
「あっ待って。まだ。まだそのままで。おねがいいたします」
「はい」
彼女の胸を握ったまま。
彼女の。
胸。
「え?」
「来た。来ましたわ」
「うそでしょ」
胸が。
大きい。
手のひらからこぼれ、たゆたゆしてる。
「世界を救った」
「いや、胸って」
「これが私の世界。あなたの胸のなかに負けないぐらいの、大きいやつ」
「これが欲しくて、ゲームしてたの?」
「姉ぇ」
「あ、そっか。胸が大きくなったら姉ぇじゃないんだっけ?」
「ううん。ずっと姉ぇがいい」
「そうですか」
「さあ。姉ぇ。わたしの胸にとびこみなさい。この大きな胸に」
人差し指と中指を素早く閉じ、トップを挟んだ。
「んはあ」
「声」
「トップはかんべんして」
「そうですか」
わきのしたに、手をずらす。
「わきのしたっ。やっ。やめっ」
「神経通ってるものね」
あなたの胸が、私の世界 春嵐 @aiot3110
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