第11話 ローサーンの扇動者
マークイの服装は軍服を思わせる堅苦しい物である、おそらくはローサーン軍の制服だろう。
何故、彼がローサーンの軍服を着ているのか、他の皆はどうなったのか問いたいことはあったが、私がまず問いかけたのはそれらについてではなかった。
「君が仕組んだのかい? それとも、コーディが?」
「口車に乗せた事が仕組んだと言うならば、俺の細工だ。コーディは多少変わったがあんたが知るコーディと大きなズレはないから、そんな小細工は出来ない」
「……コーディについては安心した。そう思うのは私の勝手な思い込みに過ぎないのだろうが……」
そう告げながら私はマークイを見据えて問いかけた。
「何故だ?」
「この時代にいる理由か?」
「違う、何故にローサーンを巻き込んだ? 確かに彼らとて当事者かも知れない。だが、口車に乗せた以上は君が彼らの命に責任を持たねばならないんだぞ?」
私の問いかけに記憶よりは幾分年を食ったマークイがにやりと笑いながら言葉を返した。
「ああ、そうなるな。だが、その責任はすぐにでもアンタの両肩にのしかかる。重しをしておかねぇと何処に行くか分からないからな、アンタは」
「何だって?」
責任がのしかかって来ることも問題だが、マークイの随分と含みのある物言いに眉根を寄せる。
「……何、気にするな。感謝こそすれども恨みに思うようなことは何も無いんだ」
その言葉はまるで自身に言い聞かせているかのようにも思える。
私がギザイアと消えた後、彼らはどの様な立場に追いやられたのだろうか。
ある意味野盗討伐と変わりない作戦で私が消えたと言う事実が諸国に与えた影響は大きかったのは想像に難くない。
その作戦に共に従事し、私をみすみす消失させたとなれば、勇者たちに対する風当たりも強かったかもしれない。
この場合は覇王と呼ばれるような立場にいながらほいほいと前線に出向いた私が呆れられるべきなんだが……どうも事態はそうはならなかった事がマークイの表情や含む言葉から察せられた。
私は彼らの命を守ろうと足掻き、結果としてあの時代より消え失せた訳だが残された者達の気持ちまでは思いやれなかった。
まあ、あの時はそれどころでは無かったと言うのが本音だが。
ともあれ、三勇者とその仲間たちは私と言う存在が消えた混乱を抑え込み、そして状況が落ち着くと見れば表舞台から去った。
その挙句が今の時代に居るのだと思うと文句の一つも言いたくなるのは分からなくもない。
「すまない、苦労を掛けた様だな」
「俺に謝られても困るぜ、その謝罪はコーディに会う時まで取っておいてくれ」
苦笑しながらそう告げたマークイだったが表情を改めて私を見据える。
「さて、本題だ。ローサーン陸軍第二軍団はベルシス・ロガの傘下に入りたい。だが、第二軍を抱え込むと言う事はローサーン第一軍団とは敵対関係になると思ってくれ」
「……第一軍団はタナザになびいているのか?」
「第二軍団がカナギシュにつくのならば」
「仲が悪いのか……」
この情勢下で仲違いしている場合でもないだろうに。
とは言えセオドル殿も言っていたっけなぁ、ローサーンのある勢力と結びつくと敵対する者達もでてくると。
面倒だなぁ……。
とは言え、こちらが選ぶ間もなくマークイが扇動して第二軍団が此方についてしまった。
少なくともそう言う動きに出てしまった以上、第一軍団はタナザへ協力を要請するだろう。
或いはこれこそがタナザの策だったのかもしれない。
協力など要請されてしまえばタナザの軍団はローサーン国に堂々と足を踏み入れることができる。
そして、そのままカナギシュに攻撃を加える事も可能だろう。
「早まったのでは?」
「俺たちもこの時代に来て数年。世情の流れは理解できているつもりだ。タナザの侵攻はローサーンにも必ず飛び火する。そして、燃え移った炎は国ごと焼き滅ぼすだろうさ。だったら、延焼を食い止める手立てを取る必要がある」
マークイのその物言いに私は微かに眉根を寄せた。
それがある種の人間……弁舌をもって人を動かす者、つまりは扇動者を思い起こさせたからだ。
「不服そうだな?」
私の表情をそう受け取ったのかマークイは苦く笑う。
「君の言葉で数多の血が流れる。かつてはそれを良しとはしていなかった筈だが」
「時代は変わったのさ。どうにも俺には愛を捧げる詩よりも聞いている者をある種の方向性に向かわせる方が得意だったらしい」
「愛の詩を歌う詩人からそんな言葉が出てくるとはね」
私の抱いた印象を当人も抱いているようだった。
ヘボ詩人とは言われていたが、かつてのマークイは明るさとふてぶてしさが入り混じった頼もしい性格だった。
今は大分、厭世家に毒されている様な気がする。
扇動なんてことを繰り返し、なおかつ自分の言葉に酔えない者はそんな道をたどりがちだ。
「無理はするなよ」
「あの時一番無理をした奴に言われたくねぇな」
思わず告げた言葉に肩を竦めてマークイは返し、そしてようやく見知った笑顔を向けて告げた。
「あとはアンタに丸投げするしな」
「……お前なぁ」
ため息をついてから、私は漸く気になって仕方が無かった事を問いかける。
「で、コーディはどこに?」
その言葉を聞いて、マークイはやはり馴染みのあるにやりとした笑顔を私に向けた。
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