第44話 昔の心
「あ、ちょっと待った」
「いや、なんでだよ。人がせっかくカッコつけてみた時に」
武蔵の一言に対して凛は待ったをかける。
そして彼は紅蓮の方へと顔を向けた。
「親父」
「なんだ?」
「さっきオレに
「ああ、そう言えばそうだったな」
紅蓮はごほんと咳を立てるとその理由について話し始めた。
「ここ最近俺達“アルヴァン”は“エセルス”という敵犯罪組織を警戒しているんだが、そのエセルスの活動が最近かなり激しくなっているんだ。しかもそのエセルスは予想していた以上の大きな団体らしく、実力の底が知れなくなっている」
元々エセルスというのは若い者が中心となっている、という情報だった。しかしどうやらそうではないらしく、多くの成人も組織に組しているらしいのだ。
「そんなエセルスがいつ何を起こすかわからない。もしかすると凛たちの学園に襲撃をしてくる可能性もあるんだ」
「まあ実際エセルスの組員が学園に潜んでたしな」
「それでだ。もしも今言ったように学園に襲撃したときや、その他凛の身の周りでエセルスに関わる何か事件が起こった時、きっと凛は自ら動くだろ?」
「言わずもがな」
「だから、もしその時のためにと思ったんだ。相手がもしかなりの強者だったりした時のために、お前の異能を最大限生かせるように。そう思って
凛の異能は何かしらの武器を持つことでより力を発揮できる異能、武器を持っておくということは彼の異能を強く生かすことができる。
紅蓮の理由に凛は強い納得を得た。
話を聞き少しばかり心情の変わった凛は改めて武蔵の方へと顔を向けると、彼はもう一度笑みを浮かべた。
「よし、それじゃあ今度こそ
「ああ、よろしく頼む」
武蔵は最初に部屋の中にあった武器庫へと案内する。
そこには多くの武器がずらりと綺麗に並んでおり、大剣、短剣、金槌や斧と言った多くの武器が勢ぞろいしていた。
しかしその武器は異世界で見たそれとは別で機械で作られた現代的なものだ。
「へえ…色々あるもんだな……」
「この中から好きなものを選んでくれ」
凛は頷くと今一度武器庫の中を大雑把に見回す。見る限り向こうの世界でも使っていた武器も多いが見たこともない武器も多くある。興味心のそそられてしまうものの、凛は最も馴染みのある武器を選んだ。
「それでいいのか?」
「ああ」
彼の選んだ武器は黒色ごく普通の剣であった。
直径は一メートルほどで剣の刀身には水色のライトが流れる様に光っている。
「じゃあ俺も」
武蔵も同様にその剣を手に取った。
「よしじゃあ凛は向こうの線の引かれた場所に立ってくれ」
部屋に戻ると武蔵はそう指示する。
言われた通り彼の指を指した場所にまで凛は足を進め線の引かれた場所にたつと、武蔵も同様に反対側で線の引かれた場所に立っていた。
「この
「了解」
「それじゃあ……」
伝える事を全て伝え終えると、武蔵は剣を頭まで上げそして剣先を凛の方へと向け構えの姿勢を取った。
それを見た凛は同様に凛も剣を横に向け構えを取った。
静けさが広がる中、そんな二人を見守る紅蓮とアリス。
そんな中、武蔵は開始の合図を発した。
「はじめっ!」
「………っ!」
免許取得試験が始まる。
だがしかし、
―――決着はあまりにも早かった。
否、早すぎた。
一瞬にして距離を詰めた二人。
間合いが狭まり両者が目の前で対峙をし静止する中、凛の持つ剣は武蔵の首元に添えられ、その武蔵の手元にはあったはずの剣がなかった。
それはすでに宙を舞っていた。
しばらくするとその剣は地面へと落下、鳴った金属音が余韻を残すように室内に響き渡った。
始まりから決着までおよそ三秒。
刹那のこの戦闘を凛を見守っていたアリスは一部始終しっかりと目で捉えていた。
凛と武蔵、共に足を踏み出し一気に距離を詰め、そして武蔵は目前の凛に剣を振り下ろした。
その瞬間の事、間合いを詰めた際に低い姿勢を取っていた凛は剣を下から振り上げる。それにより武蔵の剣を受け止めると剣を器用に使いこなし上へと剣を上げ、武蔵の手から離して見せた。
凛はすぐ姿勢を上げ、武蔵の首元へと剣を突き付けた。
そうして今の状態へと至る。
これは決して並大抵の人物には理解することすらままならず、そしてすることさえも不可能だ。
わかっていた結末が故にアリスは一切の表情は変わらない。
紅蓮も彼女同様に全てが見えており、結末も分かっていたのか同じく無表情のままだった。
「………おい、凛」
「…なんだ?」
静止していた二人だったが、武蔵の一言で場は動いた。
「おっっっっまえなんでこんなに早く終わらせてくれてんだよん馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
凛の胸倉をつかみ力強く揺らしながら怒って叫び出してしまった。それに思わずびくん!と驚いてしまう凛。彼は揺らされながらも武蔵を落ち着かせるように言う。
「武蔵が本気で頼むって言ったんだろうが。それに試験だから真面目に取り組もうとしたわけだしそんなにキレられる筋合いは……」
「んなことわかってるよ!!わかってるけどなぁぁ!!!」
「あーーーもうわかったから一回落ち着け!!吐いちゃう!吐いちゃうから!!」
あまりにも揺さぶられ過ぎてそろそろ朝食べたフレンチトーストを戻しそうになったので、一度彼を離させた。
すると落ち着かない様子のまま彼は説明をしだした。
「一つ言うと!!さっき戦闘始める前に、しっかりと見定めるからよろしくな、とか言ったけどあれは正直建前でしかない!!その気持ちはほんっっっの少し!!数ミリ程度しかなかった!!」
「それ結構問題発言だと思うんだけど…」
「それ以上にオレの中では本気のお前とたっぷり戦いたかったって言うのがあるんだよ!!久しぶりにお前に会った時、俺はお前には勝てる余地がないと思って戦いを挑まなかった。でも、あの後になってやっぱり凛と勝負したいとそう思ったんだよ、勝ち負け関係なしに。そんな中で紅蓮さんに今回のことで呼ばれて、それで久しぶりに凛と戦える!!!そうしていざ戦ったらこうなってよ!!!どうしてくれんだ!!」
「知らねえよ!!!」
あった当初は随分と大人になったなと思っていたがどうやらそうではないらしい。凛は変わらない武蔵の様子に溜息をついてしまうが、同時にどこか懐かしさを覚え笑みを浮かべていた。
「それで、合否は?」
「合格に決まってんだろ。これでむしろあんだけ武器を柔軟に使っといて不合格のほうがおかしいわ。そ・れ・よ・り!」
武蔵は自分の持っていた剣を地面から拾うと、その剣先を凛の方へと向ける。
「もう一回勝負だ。今度は
「ええ……」
困惑する彼は改めて溜息を一つつくと、地面に置いた剣を手に取って立ち上がった。
「しょうがないから付き合ってやるよ」
「付き合ってやるよじゃない」
「ぐふぅっ!!!」
凛がそう言った矢先、見守っていたアリスが突如凛にドロップキックを炸裂させた。そのまま彼は地面を引きずっていき撃沈した。
「もう試験も終わった、それならもう用事は済んだはず。早く私は街を廻りに行きたい」
「そ、そう言えばそうだったな……」
「おいおい、ちょっと待てよ。まだ凛とは戦い足り……」
武蔵が言いかけた瞬間アリスが彼にギラつかせた目を向け彼に圧をかけた。
「…どうぞごゆっくり………」
その強い圧力に思わず腰を低くしてしまった。
アリスはそのまま凛を引っ張って外へと出て行ってしまったのだった。
「はははっ!!残念だったな武蔵」
「笑いごとじゃないですよ。久しぶりに凛とたくさん戦えると思ってたのに……」
「時間さえ見つかればいつでも戦えるんだ、そう焦ることはない」
「……そうですね」
武蔵はそう言うと今一度苦笑しながらため息をついた。そして中学生の頃に戻ったようなこの感覚にどこか懐かしさを覚えた。
おかえり、四年後の世界へ 宇治宮抹茶 @uanuanuan
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