第三章 都心襲撃編

第43話 休日は都心部へ

三日間あった体育祭は瞬く間に終わりを迎えてしまった。

そんな体育祭は凛たち二年生の部の他、入ってきたばかりの一年生や先輩である三年生の部でも熱い盛り上がりを見せ、何かと問題が起こりはしたものの体育祭は良い形で幕を得た。


そうして体育祭が終わると、次に生徒らを迎えるのは二日間の振り替え休日だ。


体育祭が終了したその翌日。

振り替え休日一日目である今日、平日ではあるものの桜京学園の生徒はそれぞれ休日を過ごしており、各々の生徒が貴重な休日を有意義に使っていた。


勿論、それは彼もまた同じである。


駅の改札を通り、強い日光の指す表へ出ると凛は腕を大きく広げて言った。


「四年ぶりの都心部だーーーーー!」


彼がやってきたのは彼の住む街から電車で数十分の場所に在する都市の中心部、都心部である。見渡す限りに広がるのは多くの高層ビルや都市部ならではの建物ばかり。久しく見ていなかったこの都心部の光景に、凛もどこか新鮮味を覚えテンションも上がっていた。


「凄い……ここが……」


改札の方から姿を現したアリス。彼女は見たことも想像したこともなかったその風景に、唖然としていた。


「り、凛。見たこともない建物ばかり……!!」

「あっちの世界にこんな建物なんてなかったからな。驚くのも無理はないな……よしじゃあ早速街を廻ってくか!!」

「ん……!!」


今日の天気は青空一面の雲一つない日本晴れ、行楽日和のいい日だ。加えて久々の都心部ともあって俄然、凛のテンションは上がる。

そんな彼の元気のいい言葉にアリスもまた強く頷いた。

どうやら彼女も早く都心部を探検したくてたまらないようだ。


「よーしそんじゃあまずはあっちから……!!」

「行かせないぞ」

「……って訳にもいかないのがこの厳しい現実世界」


改札の方から、街の中へと入っていこうとした凛とアリスを止める声が。その声は他でもない凛の父である紅蓮のそれだった。


「用事が済んだら後は自由なんだ。二人とも観光はそれまでは我慢してくれ」


実を言えば、今日この都心部に来たのは観光とはまた別の目的があったから。観光は二の次なのだ。


「はぁ……わかった…」


渋々ではあるものの凛は紅蓮の言葉に頷いた。

その一方アリスは凛に対して早口で、


「凛さっさと用事を終わらせて。私は早くこの場所を廻りたい。なるべく早く迅速に。廻る時間がなくなったら凛とは言えただじゃ済まさない」

「物凄い殺意だな!!そんなに脅迫しないでくれる!?」


今日は付き添いという形でついてきたアリスだが、彼女は今回の凛の用事とは一切の関りがないため都心部観光が第一目的。加えて想像を遥かに超える都市、彼女の興味心は強く増し早く回りたいと思う気持ちがより一層強くなっている。


一人で廻ることは出来るが、やはりアリスからすれば凛と一緒に都市部を廻りたい。そのため早く用事を終わらせて欲しいという一心なのだ。


「大丈夫だアリス、午前中には用事も終わる予定だ。午後にはいくらでも観光できるぞ」

「それならいい、お義父とうさん」

「ん?」


どこか違和感を感じた凛だったが、気のせいだと彼は気にしなかった。


ひとまず紅蓮は腕時計を確認し現在時刻を確認する。


「よしじゃあ早速目的地に向かうか」

「その前に親父……」

「なんだ?」

「その変装、流石にばれる気がするんだけど……?」

「私も思ってた。その変装はあまりにも不自然」


紅蓮は組織“アルヴァン”の最高指揮官を務めている男、その顔は国中の皆が知っており、そして皆から讃えられ人気もある。

つまり、変装もなしに歩いていると街で人盛りができてしまう可能性があり、街の十人に迷惑をかけてしまうかもしれないのだ。


そのためアイドルがバレないように変装するのと同じ様に、紅蓮もまた変装をする。


しかしそんな変装も、金色の長髪のウィックにサングラスのみ。凛やアリスが心配してしまうのも無理はなかった。


「大丈夫だ。現に電車に乗っていてもバレなかっただろう。問題ない」

「……ならいいけど」

「うん……」


アリスも凛もどこか心配であった。


「それより、行くぞ。早く都心部を廻りたいんだろ?」


凛たちを急かすように言った紅蓮は都心部へと歩みを進め、それに続いて二人追っていくように向かって行った。


それから三人並んで歩きながら、都心部の街を進んでいく。

そんな中、凛は知っていたその風景とはまた別の風景に見惚れ、アリスもまた異世界では見ることもなかった道の光景に見惚れながら歩みを進めていた。


そこで、街の風景から一度目を離した凛は紅蓮の方へと目を向けた。


「なあ親父、いい加減何しにどこに向かってるのか教えてくれよ」


実を言えば、凛たちはその目的が何なのか紅蓮から言われていなかった。

となればその目的もそろそろ知りたくもなる。


「あー、そう言えばまだ言ってなかったな」

「そう言えばって…」

「……とりあえず今は話せる限り話そう」


どこか緊張味のある顔となった紅蓮は話を始めた。


「凛、武器免許ライセンスって知ってるか?」

「いや、全く。聞いたこともない」

武器免許ライセンスって言うのは、武器免許と書いてライセンスって読むんだが、まあ名前の通り武器を所持し使用することが許諾される免許の事なんだが、凛には今日それを取ってほしいんだ」

武器免許ライセンスをか?というかその免許って一日で取れるものなのかよ?」

「いや、本来なら武器を扱えるようにするために訓練を数か月行って最後に試験を行えば手に入れられるものだ。ただ、凛の場合は武器の扱いに慣れているから話は別。試験をクリアできればあとは武器を扱う上でのルールさえ知ればいいだけだからな」

「ふむ、それで一日で取れるという訳か」


凛はその説明に納得し頷いた。しかし、そんな中まだ彼の中に疑問は残る。


「でも、なんだって急にオレにその武器免許ライセンスを取らせようと思ったんだ?」

「単純に持っていた方が武器が必要となる異能のお前には丁度いいと思ったっていうのもあるが、一番の理由はまた別だ。だがそれはこの場では言えない。目的地に着いたらちゃんと説明するよ」

「わかった」


ひとまず目的が分かったので凛もそこまで深く訊こうとはしなかった。


それから十数分ほど経ったか、都市部内の街の端に立つ大きなビルへとたどり着いた。銀色に輝き万丈なこの建物が、目的地の場所である。


「ここだ」

「「………」」


今まで都心部で見てきた建物の中で最も高いそのビルに、凛もアリスも思わず呆然としてしまっていた。


「さあ、行くぞ」


二人に声をかけた紅蓮はビルの中へと進み、二人もまたその後を追う。中に入るとやはりとても広いく、その室内を三人は進んでいく。そしてエレベーターへとやってくるとそれに乗って更に上へと昇っていった。


エレベーターがふと止まりドアが開かれると、とある人物が三人を出迎えた。


「待ってたぞ、凛」

「お、武蔵!」


アルヴァンで序列19位と高い序列の実力者でありまた凛の同級生でもあった男、箕輪武蔵みのわむさしがそこに立っていた。


「と、紅蓮さん。ようこそここへ」

「悪い。待たせたな」

「いえ、問題ないですよ……と、その後ろにいるのは?」


武蔵の視線の先にはアリス。

彼は凛と紅蓮の二人が来るとしか聞いていなかったため、アリスが来ることは知らなかった。


「ああ、ちょっとした付き添い人だ。気にしなくて大丈夫」

「ん、そうか」


凛の言葉に頷いた彼は複数あるドアの内の一つを開いた。


「とりあえずここで話すのもあれだから、中に入ってくれ」


ドアの向こうへと凛たちは足を進めた。細い廊下を進んでいくと正面にまた扉が。扉を開け中に入ると、そこは置物の一つもなく高い天井に一面が壁の殺風景な部屋だった。


「なんだ?ここ」

「ここは戦闘訓練専用の部屋、大きく動きやすくするために一切の物もおいてないし天井も高いから寂しい部屋だろ?」


武蔵はそう言いながら扉を閉めると、凛の前へと歩んでいった。


「さて、それじゃあ早速だが、武器免許ライセンスの取得試験を始めるぞ」


その時の彼にはなぜか笑みが浮かばれていた。











本当に長らくおまたせしてしまいました。

かなりプライベートなことなので深くは話は出来ませんが、更新再開できるようになりました。

これからも話を更新していくので、何卒よろしくお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る