聖夜から生まれた恋

下等練入

第1話

 寮の外から讃美歌さんびか深々しんしんと雪の降り積もる後が聞こえてくる。

 それに先輩の鉛筆の音が加わり心地いいセッションをかなでていた。


「せ~んぱい、なんで寮生りょうせいってクリスマス中寮に監禁されるんですか? 街に出たいです」

 そう言いながらあたしは背後から思いっきり抱きついた。


「しょうがないじゃない、そういう決まりなんだから」

 そう言いながら先輩はあたしに目もくれず一心腐乱いっしんふらんに鉛筆を動かしている。

 どうやら冬期休暇の課題をやっているらしい。

 ご苦労なことだ。

 そんなもん冬休みが明けてから手をつければいいのに。


「そんなつれないこと言わずにちょっとは構ってくださいよ~」


 あたしは先輩の頬をまみながら冗談ぽく尋ねた。


「こんなに可愛い後輩を無視するほど宿題にお熱なんですか?」


「あーもう、うるさいっ!」

 彼女は手を止めいきなり立ち上がるとあたしを窓の外へ放り出そうとしてきた。


「ほら、外に行きなさい! 出たいんでしょ?」


「先輩なにするんですかっ! 危ないですよ!」

三階の窓から可愛い後輩を放り出そうなんて随分ひどい先輩だ。


「知ってるわよ! さっさと外に出なさい!」


「ちょっと待ってください。そう言うことじゃなくてですね、ほ、ほらクリスマスですし、恋人と聖夜を楽しみたいな~みたいな? 先輩も恋人いるじゃないですか、幼馴染でしたっけ?」

 あたしがそう言うと急に先輩はあたしを投げようとするのをやめた。


「別れたわよ……」

 先輩は力なくそう言う……。

へなへなとその場に座り込んでしまった。


「え?」

 予想外の反応に思わず聞き返す。


「だから別れたって言ってるの!」

 そう言うと先輩はあたしにLIMEの画面を見せてきた。


 そこにはこう書かれていた。


 ――ごめん、クリスマスに会えないとかもう無理。

 他に好きな人が出来たから二度と連絡しないで。――


 これは好都こうつご……。

 いやなんて酷い恋人なんだろう。


 LIME一本で振るなんて。

 きっと先輩は傷ついているはず。

 そして人肌が恋しいはずだ。

 そうでなければおかしい。


 あたしがなぐさめてあげよう。


「先輩、大変でしたね……」

 そう言いながらしっかりと先輩のことを抱きしめる。

先輩もすこし時間がたってから抱き返してくれた。


 これは受け入れてくれたということで良いのだろう。

 思わずいとおしくなってそっと頭をでてしまった。

 すると耳元ですすり泣くような音がし始める。


 だいぶ傷ついていたのだな~と思いながらあたしは先輩の頭をで続けた。


 ◇


「落ち着きましたか?」

 あたしがそう聞くと先輩は黙ってうなずいた。

 目の周りが真っ赤になっているので結構泣いたのだろう。


「まさか、先輩があんなに傷ついていたとは思いませんでした」


「……、私だってあんなに涙が止まらなくなるとは思わなかったわ……」


「先輩、クリスマスが終わるまででいいので恋人になってくれませんか?」

 そう言うと先輩は驚いたように顔を上げた。

 まあそうだろう、あたしでもこんなこと言われたら驚く。


「ずっと好きでした、あたしと付き合ってください」

 あたしは追い打ちをかけるように一歩距離を詰めてそう言った。


「え? え? うそ……」

 だいぶ混乱しているらしく何かしゃべろうとしているが言葉になっていない……。


「こんな状態で嘘なんかつかないですよ、そこまで最低な女じゃないんで。付き合ってくれますか?」


「……、……はい。……あたしなんかでよければ」


 俯きながら小さな声で先輩はそう言った。


「ありがとうございます」

 そう言うとあたしは花弁のように薄く綺麗な唇にあたしのを重ねた。


「ばかっ……」

 先輩が抵抗することは無かったが一言だけそう言うとそそくさと自分のベッドに言ってしまった。


 あれ?

 間違えたかな?


あたしもそんな先輩を追うようにして同じベッドに潜り込んだ。


 ◇


 カーテンを開けると朝日が照っており、小鳥がさえずっていた。


「先輩起きてください、朝ですよ」

 布団を剥ごうとするが、先輩が抵抗して全然がさせくれない……。


「ほら、遅れちゃいますよ。起きてください!」

 何度かそう言うとしぶしぶという感じだが布団から出てくれた。


「昨日のことは謝りますから機嫌直してくださいよ。ね、このとおり」

 あたしはそう言って頭を下げる。


「次したら許さないから」

あたしのことをにらみながらそう言うと逃げるように部屋の外に出てしまった。


大丈夫です。

一夜だけでも恋人同士になれたのでもうこれ以上は望みません。


そんなことを考えながらあたしは汗などの染みこんだシーツ類を片づけ始めた。


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