第1話 いきなり上田月
スマホのアラームで目を覚ますと、時刻は7時20分。
大体いつも通りの時間に起床し、自分の部屋から出て、朝飯の匂いにつられて階段をトボトボと降りていく。
今日は朝からカレーかぁ。
なんて目をこすりながら、稼働しきれていない頭で、それでも敏感に反応する嗅覚を頼りに朝飯のメニューのことを考えていると、キッチンの方から声がかかる。
「おはよー、薫。降りて来てもらったとこ悪いけど、先に着替えてきなさーい」
目を向けると、母さんがこちらに一瞥をくれることもなく料理をしていた。
俺の弁当でも作ってんのかな?
「……朝飯、カレーだろ?制服にこぼしたら大変じゃん」
「パジャマにこぼされても私は大変だし。だったら、こぼさないように注意するよう制服で食べてもらった方がいいんだけど?」
……反論はできる。
だけど、ここで反論したところで母さんも反論し返してくるだろうし?
俺は朝の時間を無駄にしたくないだけだし?
まぁ?ここは大人の対応で?退いてやろうじゃないか。
絶対に俺は負けてない。
「突っ立って変顔してないで、さっさと行動を起こせや。時間は有限だぞボケナス」
口が悪すぎるよぅ、マミー。
などとやってるうちに、登校しなきゃいけない時間が迫ってきたので、さっさと着替えて、急いでカレーを食らい、身だしなみを整えている最中に母さんが「タイムオーバー」と言って、俺を無理やり家から追い出した。
……男のアホ毛って需要あるかなぁ。
若干急ぎ目に自転車を走らせて、登校したら案外と余裕で間に合った。
強風にさらされて、俺の髪はよりひどくなってしまっただろう。
まぁ?素材がいいから髪型など些細な問題だろう。
なんてアホなこと考えながら教室に入り、自分の席に着くと後ろから声がかかる。
「薫、おはよっ!寝ぐせかわいいね!」
「おふぁよー。お前は元気よさそうでいいな」
「まぁねー。そういう薫は眠そうで、元気なさそうだけど、どしたん?」
こいつは
月とは色々と波長が合って、1年生の時はゲーセンとかバッティングセンターとか、インドア、アウトドア問わず色んなことしに遊びに行っていた。
最近は美化委員会のせいで遊びに行けていないが……
あの頃は、月がツッコミ役で俺がボケだったのになぁ。
今じゃ、あの魔境でツッコミ担当させられて、挙句の果てには変人扱いされるし……もう、疲れたぁ。
「おーい!もしもーし!薫?ボーっとしてどーしたのー?」
ああ、しまった。
月を放置して思考に耽ってしまった。
月が俺の顔を少し心配そうに見つめている。
思えば月には美化委員会のことあんまり話してなかったな。
もしかしたら、俺が話さなかったから気を遣って聞いてこなかっただけで、遊びに行けなくなったこと寂しがってくれてるのかもしれない。
そんな表情はおくびにも出さないが。
……恥ずかしいのだろう。
よし、ここは何か安心させられることを言ってやらねば。
「なぁ、月……」
「ん?なんぞや?」
「俺さ、美化委員会のこと、あんまり話してこなかっただろ?」
「んー、まぁたしかに。え、なんかあったん?」
「いや、なんかあったわけではないんだが……」
「もー!なんだよー!もじもじしてないではっきりしろよ!話すなら話す!話さないなら話さない!」
「ああ、ちゃんと言うから」
「よし!で、なにごと?」
「俺には月が必要だって気づいたんだ」
「んにゃ⁉な、なにをいって……⁉」
「美化委員会の奴らじゃダメなんだ。お前じゃないと……」
「あ、あ、あたしじゃないと⁉そ、それって、あの美化委員会の天才美少女たちよりも、あ、あたしの方がいいってこと……?」
「ああ……」
「ふ、ふーん?そ、そうなんだ?じゃ、じゃあ、その、あたしと、えっとその、あたしと……!」
「やっぱり俺にはツッコミ役は荷が重いんだ!」
「あたしと……!……?え、今なんて?」
「だから、俺はツッコミよりも、ボケが性に合ってると思うんだ!そんで、俺のボケをきれいに捌けるのは月、お前しかいないんだ!」
「……」
「月?どうした?」
「……薫のばかぁーーーーっ!」
ばちーーん!
「いたい!」
「薫が変なこと言うのがいけないんだから!」
「え?俺なんか変なこと言った?てか、いたい!」
「もう知らない!」
「えぇー……」
そう言うと月はぷりぷりしながら自分の席についた。
どうしたんだろう?
まさか!月も本当はツッコミが嫌だったんじゃ⁉
十分にあり得るな……なんせ俺が身をもってツッコミの大変さを実感してるんだし……
よし、今度からちょっとだけ月にもボケを回そう。
そんな決意をひっそりとしていると、何やら廊下の方が騒がしい。
一体何だ、と目を向けると教室の後ろのドアに朝に会うにはカロリー高めのポニーテール高身長美少女が……
「おーい薫!今日の放課後のことで話があるからこっち来い!」
やだなぁ、美少女なら乱暴な口調しても結局美少女っていう所に落ち着いちゃうこの世の中……やだなぁ。
その美少女は当然のことながら芥崎敦美だった。
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