第2話 塵芥
「おい敦美、お前のせいで月にビンタされたぞ。どうしてくれるんだ!」
「いや、チラッと見てたけど100お前が悪いじゃん……アタシ関係ないし、いきなり叫ぶなよ、朝だぞ」
「正論効くわ~」
さて、教室で敦美に呼び出された俺は、隣りのクラスの有名人敦美ちゃんの登場に俺たちのクラスがざわざわし始め、「ここじゃ目立つ」と敦美が言うこともあって、落ち着いて話せる美化委員会室に向かっていた。
何故かぷりぷり怒ってしまった月のことを宥めるという使命があるのだが、美化委員会の仕事についての話とあれば無下には出来ない……というか、敦美を無視したら俺は物理的に終わりを迎える。
まぁ、月には後でジュースでも奢ってやればすぐに機嫌を直すだろう。
チョロQだな。
そんなこんなで美化委員会室に着くと、敦美が鍵を開けて中に入ったので俺も後に続く。
「失礼しまーす」
「おう」
お前の部屋じゃないけどな。
「それで、話ってなんだよ?朝だし、あんま時間ねーぞ」
「いや、大した話じゃない、すぐ終わる」
「ならいいけど……で?」
「男子トイレって便器いくつあるんだ?」
「マジで大したことないな!……え、まさかそれ聞くためだけに呼び出したのか?」
「ああ、暇だったし」
「時間返せよ……」
「間が悪かったのは認める。けど、お前が教室で痴話喧嘩してるなんて予想できると思うか?……あれがなければ、あんなに注目されずに済んだというのに……」
「それは、まぁ、ごめん。だけど、お前が来たらフツーに注目されるわ」
「え?あれはお前が二股してるクソ野郎だからみんな注目してたんじゃないのか?」
「そう見えなくもないけど!してないから!二股なんて!てか、お前が二股クソ野郎呼びするのは違うだろ!」
「でも実際、勘違いしている奴もいるんじゃねーか?」
「……最悪だぁ」
「まぁまぁ、元気出せって!そもそも、お前友達少ないんだし大した損失になんねーだろ?」
「損得だけで物事を捉えてはなりません」
「急になんだこいつ……」
「……まぁ、いいや。これで話終わったんだろ?だったら、早く教室戻ろうぜ。間に合わんくなる」
「え……あ、ああ。そうだな、戻るか」
「とりあえず、放課後にここ集合ってことでいいか?」
「おーけー、遅れるなよ」
「へいへい」
あ~、朝からこんな調子で今日を乗り切れるだろうか。
若干、憂鬱な気分になりながら教室へと急いだ。
放課後。
憂鬱な気分で始まったと思ったら、意外なほど早く授業が終わったように感じる。
あれから月にジュース奢ったら、案の定ご機嫌は回復した。
マジでチョロQ。
今度、遊びに行く約束もしたし、今日は楽しい気分で終われそうだ。
まぁ、今からもうひと仕事あるんだけど……
美化委員会室に着くと、もう既に敦美が来ていた。
「遅いぞ」
「お前が早いんだよ……」
「まぁ、いい。ほら、いくぞ!」
「ほーい」
そして俺たちは”美化活動”をしに男子トイレに向かって歩き出した。
ふつう、美化活動といったら学校全体で取り組むものだし、この学校でも帰りの
しかし、ここ玖梨院学園では美化委員会という組織が一般的な美化活動とは異なる”美化活動”を行っている。
この活動の歴史は数十年前から存在し、この学校を”美化”という面から文字通り磨き上げてきた。
そして、この”美化”は学園内外で驚異的なプラスの効果を及ぼした。
結果、美化委員会の権力は誰も文句を言えないほど高まり、現在に至るという。
なぜこの学校に美化委員会に適した優秀な人材が数十年もの間、絶えず在籍しているのかは疑問だけど。
まぁ、そんなミステリーについて考えていても、結局今から行うような”美化活動”を何度も見せられている俺としては、「現実は小説より奇なり」としか言えない。
「よし、始めるぞっ!」
「何で楽しそうなんだよ……」
「久しぶりだからな!」
「そーですね……というか、やっぱり俺必要ないよな?」
「何を言う!細かくて面倒くさいことは全部任せたぞっ!薫!」
「面倒くさいって言っちゃったよ、この人」
男子トイレに着くなり、テンションが上がり出した敦美。
本来、男子トイレなど好んで掃除したくないと思うだろうが、やはり敦美も美化委員ということか……
まぁ、こいつは”美化活動”をしたいというより、したいことが”美化活動”になっていると言った方が正しいだろう。
「それじゃあ、アタシからいくぞっ」
シュバッ!!!
「ふーーっ!スッキリしたぁーー!」
……えー、ということである。
いや、どういうこと?
「ん?どうした、薫。アタシは終わったから、後はお前の仕事だぞ」
「……ホントに終わったのかよ」
「もう、お前は毎回そればっかりだな、しつこい男はキモがられて嫌われるぞ?」
「キモがられては余計だ」
「ったく、ちゃんと粉々に切り刻んだっつーの。てか、見ればわかるだろ?新品より綺麗になってるって」
「そりゃあ、まぁ、そーだけど……」
「あ、もしかして臭い残ってるか?臭いは見えないからな……」
「いや、完璧に消えてるよ」
そう、美化委員会の特攻隊長にして、剣術において異次元の才能を誇る芥崎敦美は一瞬で物質を分子レベルにまで分解することが出来る。
この才能を買われ、美化委員会にスカウトされた彼女はこれまで、不用品の粗大ゴミから埃などの小さな汚れまでありとあらゆるものを切り刻んできた。
彼女によって切り刻まれたものは、きれいに消えてなくなる。
今回の男子トイレで言えば、便器や床についた汚れはもちろん、漂う臭いすら敦美は切り刻んでいる。
……恐ろしい才能だ。
「……人外を見る目してるけど、アタシに言わせてみれば、薫も十分にこっち側の人間だけどねぇ」
「俺のは……滅多に役立たないから」
「能力なんてベクトルは様々だと思うぞ、アタシは」
「……たまにいいこと言うよな、お前は」
「だろ?よし、さっさと残りの面倒くさい仕事終わらせろ!ジュース奢らせてやる!」
「すーぐ調子乗る」
天才たちの御業はいつになっても慣れないが、彼女たちは何だかんだ俺のことも買ってくれているみたいだ。
いつも頭おかしいことして振り回されてるけど、これも彼女たちの俺が自分を卑下しないようにするための気遣いなのかも……
月には、「ツッコミはやだ!」って言っちゃったけど、俺も結構楽しめてるし、みんなには感謝しないとな。
「おい、財布。早くしろよ、喉乾いた」
素だった。
美化委員ガチ勢のラブコメ ヒゲメガネ @higemeganenovel
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