パスカルの名言
パスカルの名言
三崎伸太郎 12042024
中学生のころ、
“人間は考える葦である”と、フランスの思想家パスカルの言葉を習った
会社の裏手に広い河川敷を貨物列車が走る
近くに葦の藪がある
ある日、ホームレスが葦の茂みとコンクリート・ブロックの塀の間に
貨物用のパレットで小屋を作った
屋根は雨除けのためかビニールで覆い石で止めてある
今日は寒い北風が吹いて
葦の茂みはザザザ、ザザザと揺れている
小屋は葦の茂みで寒い北風を遮っている
きっとホームレスもあったかいだろう
人間は考える葦である
ホームレスは昼間は姿を現さない
葦の茂みのくぼ地に潜むようにして安らいでいる
人のいなくなった日没後
ホームレスは起き上がって河岸を散歩する
水鳥たちが頭を翼の中に埋めて眠っている
ホームレスは
対岸の美しい夜景を見て、ため息をついた
彼の背後には葦がザザザと揺れている
夜空には黄金の満月
金貨のように光る星々
手を差し出すと、星の金貨がジャラジャラと手の中にこぼれてくるようだ
ホームレスは両手の平を天空に挙げ、父と母の名前を、久しぶりに呼んでみた
いつ自分の運命は変わったのか
母は赤子の彼にミルクを飲まし、オムツを替え
父は家族のために働いた
ホームレスは親に感謝もせず当たり前のように時を過ごした
今、遅すぎた時間が彼に語り掛ける
ホームレスは奥深い星の泉を覗き込んだ
父と母の名前を呼んだ。
葦の茂みがザザザ・ザザザと揺れている
闇夜で彼の涙は見えない
ザザザと葦の揺れる音が聞こえてくる
星の泉に飛び込むにも天使のような翼がない。
ああ、大天使ガブリエル
私に翼をください
せめて、星の泉に飛び込むだけの勇気をください
今、すべてが分かりましたとホームレスは言った
何が分かったのか
対岸にいる私にはわからない
ホームレスは大天使ガブリエルに祈る
もう、数週間も祈っている
夜空が黒い雲に覆われ嵐が来そうな気配
ホームレスは天空に向けて手を合わせた
ふと、頭を下方に向けると満天の星を潜めた泉が見えた
彼はゆっくりと体を傾けると泉の中に落ちていった
空を追っていた暗雲の破れから黄金の星空の一部が大河の緩やかなよどみに映っている
ホームレスは突然といなくなった
私の会社の同僚は、彼は多分ホームレスのシェルターに移されたのだと言った
寒くなったのでシェルターほどぐっすり眠れるだろうね
私はうなずいた
葦の茂みのザザザと揺れる音が私の心に聞こえた
ザザザ、ザザザと聞こえてくる
人間は考える葦のはずだがすべてが公平ではない
間違った時間は
間違った方向に動くばかりだ
ザザザ、ザザザ、ザザザと葦の茂みは揺れている。
詩集 三崎伸太郎 @ss55
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