第13話(最終話)表日本での結末
ふぶきと
彼らが神樹の洞に発生した空間の
「ここが……表日本?」
「フン、あの小僧、『とうきょう』とやらは一億もの人間が住む大都会などとほざいていたが、やはり田舎ではないか」
『東京』という大都市から裏日本へ転移してしまったという無属性の人間の青年の言葉を思い出し、烈火は鼻を鳴らす。
「――烈火様、草原の向こうに何か大きなものが見えまする」
「……なんだこれは。緑色の大きな……なんだ、これは?」
烈火は巨大な、そして奇妙な姿をした何かを見上げる。
「鋼鉄で出来ているようですが、
「裏日本の外の国に住んでいるという象を模した機動兵では?」
「たしかに鼻のようなものは長いが……そもそもこれは機動兵なのか? どうやって起動させるのだ?」
「持ち帰って調べたいところですが、どうやら裏日本への道は閉ざされてしまった様子。この場で解体するしか無さそうですな」
人狼族の研究者たちが口々に騒ぎ出す。
しかし、耳の良い人狼たちは、何かの音を察知して一斉に音のするほうを向く。
「! 何かがこちらに向かってくるぞ!」
――それは、先ほどまで議論していた緑色の象の群れだった。横一列に並んでこちらに進撃してくる。
「襲撃だ! 総員応戦せよ!」
人狼族の兵士たちは各々炎や氷、雷などの属性攻撃で、まだ遠くに見える鋼鉄の象たちに遠距離攻撃を仕掛ける。
しかし、硬い鋼鉄はすべての属性攻撃を弾き返し、効いている様子はない。
「馬鹿な! 表日本の奴らは全員無属性のはず……!」
「なぜ我らの攻撃が効かないのだ!?」
「氷属性部隊! 地面を凍らせて象をひっくり返す!」
ふぶきを含む氷属性の攻撃を得意とする部隊が、地面に手を当て一面を凍らせていく。
そして、象の足元から氷の棘を創り出し、象をひっくり返そうとする、が。
象の奇妙な足は、棘を乗り越えて悠々とこちらに進んでくるではないか。
「なっ……!?」
ふぶきは自分の攻撃が効かないことに愕然とする。
そうしている間にも、象たちの歩みはこちらに粛々と迫ってきていた。
「クソッ、こうなったらヤケだ! 皆の衆、象の群れに斬りかかれ!」
「うおーっ!」
人狼たちは刀を抜いて象たちへ向かって駆けていく。
「待て! 属性攻撃が効かない鋼鉄に、刃が届くわけが――」
制止しようとする烈火の言葉を遮るように、轟音が響き渡った。
象の真っ直ぐに伸びた鼻から、火花が散ったかと思うと、地面に炸裂し、爆発が起こったのだ。
考えなしに象の群れに立ち向かっていった人狼たちが吹っ飛ばされていく。
「ヒェッ……」
「も、もうダメだ、逃げろ!」
「まだだ! 狼に変身すればまだ勝ちの目はある!」
すっかり混乱した兵士たちの中には、まだ戦意を失っていない者たちがいた。彼らは巨大な狼に変身し、鋼鉄の象に食らいつこうとする。
しかし、狼の牙も象の肌には立たず、また鼻から出る砲撃に撃ち殺されていく。
「オオオオオオオッ!」
烈火も炎を纏った巨大な狼に変身し、鋼鉄を焦がさんと突進していく。
「烈火様――!」
烈火の高熱の
「そ、んな……烈火様!」
毛皮から炎が失われていく烈火に、ふぶきが駆け寄る。
「逃げろ……ふぶき……お前だけでも、生きろ……」
烈火の身体を覆う焔は、命の火。それがまさに今、消えかかろうとしている。
「嫌……嫌……どうして……」
ふぶきは烈火の毛皮に抱きつく。
「死なないで……烈火様……」
烈火たちの敗因は、表日本の人々は無属性のひ弱な人間だと侮ったことである。
そして、自分たちが戦っている相手が『戦車』という現代兵器だということも知らなかった、無知ゆえの敗北である。
2020年になっても未だ戦国時代という古い時代を生きていた彼らに、勝ち目は最初から無かったのだ。
そして、烈火への真の愛に気付いてしまったふぶきは、胸の内に広がる愛の炎でジワジワと溶けていった。
「――いやぁ、ビックリしたなあ。まさか訓練中に獣が敷地内に入ってくるなんて」
「しかしデッカイ野犬だなあ。まさか狼か?」
「バカ、ニホンオオカミなんてとっくに絶滅してるだろ」
「一応この獣の群れも解剖して調べてみるか」
自衛隊の隊員たちは戦車から降りて、動物の死骸の山を運び出していく。
「……ん?」
「どうした?」
「いや……いま一瞬、雪の結晶が飛んで行ったような……」
「今年も冷えそうだなぁ」
巨大な獣にすがりついていた雪女は、雪の結晶となって風に吹かれて飛んで行った。
やがては溶けて消えゆく
――かくして、日本の裏側にある異世界からの侵攻は、表日本の人間たちの気付かぬ間に食い止められていたのであった。
〈完〉
異世界戦国~雪女と人狼コンビの国盗り合戦~ 永久保セツナ @0922
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