第15話 現世に帰還 5

 俺はスキル『俊足』(意識して発動するスキル)を使い、『飛行』と同じくらいの速さになった足で、夜風を切り裂きながら自宅へと向かっていた。


 俺の家は十分と言えるぐらい古くて、震度6くらいの地震で崩れてしまいそうな家だ。そんな家がさっきの揺れで無事なわけが無い。


『落ち着いてください! スキルのコツは落ち着くことです! 意識して発動するスキルは、焦ったり緊張していると効力は低くなります!』


 俺は走っている足は止めずに、「ふぅ」と息を吐いた。

 そうだな、いま焦ったところで古いアパートが治るわけでは無いし。

 俺の頭が落ち着くと、より一層、足の回りが良くなるのが分かった。



 ◇



 俺はアパートを見て愕然としていた。


 これをアパートと呼べるのか、古いアパートは瓦礫の山と化していた。


『──感知──というスキルを使えば、瓦礫の下に人が生きているかいないか、確認することは出来ますよ』


 俺は『感知』を直ぐに使った。

 このアパートに住んでいるのは俺たち家族だけであり、その上、母親は夜遅くに帰ってくるため、このアパートに居るのはおそらく17歳の姉・鷺谷彩華さぎたにさやかと13歳の妹・鷺谷夢さぎたにめあだけだろう。

 だが、瓦礫の下に人の気配は無かった。

 俺は、それでもどうにか気配を感知しようと、瓦礫と化したアパートの方へ向かい、瓦礫を一つ一つどかしながら気配を感知しようとした。

 瓦礫をどかし続けても全く傷つかず、疲れもしない手。その手で、全く瓦礫をどかしているという感覚がないまま、ずっと瓦礫をどかし続けた。


 やがて、地面が見えるくらいまで瓦礫は全部どかし尽くした。


 どかし尽くした。だが、遺体どころか、体の一部分も残っては居なかった。


 すると、俺の肩がトントンと指で叩かれたのがわかった。


 俺は、その肩の叩き方に覚えがあった。

 妹のメアの叩き方だ。


「おにい何やってるの?」


 俺が振り向く前に、そう言った。

 この声はメアの声だ、そう思いながら振り向くと予想通り、腰の辺りまで伸びた黒く綺麗な髪に、中1のかなりの童顔が特徴のメアと、肩の辺りまで伸びた髪を頭の後ろでポニーテールにし、クールな顔つきをしているサヤカだった。


「お、シュウ無事だったか。……で、今日の夜はどうするの? 私は友達の家に泊めてもらうんだけど……メアなら一緒に止めて貰えるかもしれないけどシュウは男だからな」


 なら俺は最近できた友達(?)の皇大郎の所に泊めてもらおう。


「大丈夫、泊めてもらえるところはある」

「そう、じゃあ……あ、あとこれプレゼント」


 そう言って、サヤカは俺にスマートフォンを投げ渡して来た。


「え? なにこれ? いいの?」

「うん、誕生日プレゼント15。年分のね。お姉ちゃんの連絡先は入れてあるから、何かあったら連絡してね」


 サヤカはそっぽを向きながら言った。

 表情が見えないので、どんな顔をしているのか分からないが、プレゼントをあげるのが恥ずかしくて赤くなっているのだろう。


「ありがとう」

「お、おう。だ、大事に使えよ?」


 俺が「分かった」と返事をすると、サヤカは、口にはしないものの「いいな」というキラキラとした目で俺の事を見つめるメアの手を引っ張りながら夜の暗闇に歩き去っていった。


 と、それと入れ替わるように、バイクが今は瓦礫と化したアパートの前に泊まり、一人の女性が降りてきた。


「ん、あ、シュウ……他の人達は?」


 そう言ったのは、19歳の一人暮らしをしている鷺谷優香さぎたにゆうかだった。

 ユウカは、スーツをビシッと決め、こちらへ歩いてきた。


「あ、メアとサヤカは無事だよ」

「そっか、良かった……」


 ユウカはほっと胸を撫で下ろした。


「地震の影響で携帯使えなくなってるから、こうやって直接来るしかなかったんだよ」

「そうなんだ」

「うん、2日くらいはかかるかもって」


 そう言いながら、肩くらいまで伸びた髪の毛の上からバイクのヘルメットを被ると、バイクに乗り、


「じゃあ、私はお母さんの所にいって無事か確認してくるから」


 そう言ってバイクを発進させ、俺はそれが夜の暗闇の中に消えていくのを見送った。

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二度も死んで、チート能力を貰いすぎた俺が現世に帰ってきたら、一緒に異世界も現世へと侵略しに来たようです。(仮) 時雨 しふ @shiou0503

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