第14話 現世に帰還 4

 雨が止み、日もすっかり落ち満月が空に登る夜。

 俺は一人ベンチに座っていた。


『では話すとしましょう』


 秋の虫が鳴いているのをバックに、俺の脳に神様の声が響く。


『まず、戦争ってなんで起きるか分かりますか?』


 これは去年習ったか、確か簡単な話、意見の違いや自分の国が貧乏だと起こすらしいな。


『そうです。貧乏な国は戦争を起こすのです。では、食べ物も尽きて、土地もほぼ無くなり、他の国と相談しても聞いて貰えない国はどうするでしょうか』


 戦争を起こす。


『その通りです。淡々と進んでいますが、他にも選択肢はあると思います。ですが、その国が戦争を選んだとして、もちろん、小さな国が大きな国に勝負を挑んだところで勝てません。でも、中くらいの国に小さな国が挑んだとしたら、勝つ確率はあるかもしれません』


 それはそうだが、1パーセントが2パーセントになったくらいだろ。


『ですが、その小さな国に、秘密兵器があるとしたら、どうなるでしょうか?』


 確率は関係無くなるな。

 でも貧乏な国だし、そんな秘密兵器ある訳ないだろ。


『この話は1度置いておきましょう。……では、ここからが本題です。あなたにこのチートスキルを渡したのは、この国をあなたの居た異世界から守って欲しいからです。どうしてこうなったのか、それは──』


 神様は少し間を置いた。


『ゲームで例えるなら、バグが起きたのです。あなたは二度死に、二度転移した初めての人。私はあなたをこの世界に戻す時に、失敗してしまう可能性がある、と言いましたね? その失敗の最悪の場合はあなたの死──だと思っていたのです。ですがあなたを転移させた時に、それ以上の失敗──バグが起きてしまったんです』


 それで、異世界が来てしまったと……?

 いや異世界が来ている気配なんてないが?


『いや、あの世界の人数、あの世界の大陸が転移するにはおそらく時間がかかりますから。……話を戻しますね。それで、そのバグに気づいたのが丁度、あなたを現世に戻し始めた時でした。もちろん、そのままでもあなたはものすごく強いです。ですが、あなたがあの異世界の敵全てを相手にするとなると、それ以上の強さを持っていないといけないので、ありったけのチートスキルを渡したということです』


 じゃあ俺がその異世界からこの世界を一人で守れと言うことか?


『……はい。……簡単に言うとそういう事です…………荷が重いのは分かります。私も無責任でした。なので、あなたのサポートはこれからも続けさせていただきます。ですが、私にも分からないことや世界均衡ワールドバランス上、教えることが出来ないものがありますので……例えば、異世界がどんな形で、いつ、どこに来るのかなど、初めてのことは全く分かりません』


 それで、異世界が来たからと言って戦いになるとは限らないだろ。


『戦いにならない可能性もありますが、この世界にやってくるのは、あなたが居たあの世界です。食料は既に尽き、民間人の不満が沢山溜まっている世界が、もしかしたら魔王も来るかもしれませんし。そうなったら戦いが起こる可能性は高いかと思います。そしたら戦争になるということです』


 なるほどな、こっちの世界には魔法も無いし、俺がいなかったら負けるということか。


『そういう事です。最初にした話に戻りますが、あなたが居なければ、確実にこの世界は異世界が完全に侵略してしまうでしょう。ですが、あなたという秘密兵器がこの世界を守って欲しいのです』


 なるほどな。

 なんとなくは分かった。

 俺は、この世界を守るためにスキルを渡されたというわけか。

 そういう理由でスキルを渡されたのなら納得だ。

 しかし、引っかかることがある。

 俺がこの世界を守る。守り続け、結果はどうなる?


『それは──』



 ──その時。



 雷が落ちるようなものすごい音が鳴ったと共に地震──というレベルじゃない揺れが起きた。俺はベンチに座っているが、この揺れはどんなに体幹が良い人でも立っていられないだろう。


『異世界が来ました』


 神様は言った。


『おそらく大陸ごと、しかも二つに分かれて来ましたっ。北海道の札幌に空から突き刺さるように1つ、これは……王国です、あなたの召喚された国です。……もう1つは、魔王城!? 魔王城が大阪に突き刺さりましたっ』


 深刻そうに喋る神様に対し、俺は全く実感が湧いていなかった。

 北海道と大阪と言ったか、ここは東京だ。

 2つとも遠いし、今向かったって俺に何か出来るという訳では無いし。

 向かったって意味無いか。


 違うのか?


 俺は怯えているのか?


 異世界で見た──に。


 俺は魔王軍あいつらに殺された訳ではなく、『失命結合ロスト・チェーン』を使ったから死んだのだ。

 だが、を思い出すと、どうしても足がすくんでしまう。


『大丈夫です。今から向かう必要はありません。こっちがこの状況を受け入れられないのと同じに、相手もこの状況を受け入れるのには時間がかかります。少なくとも私とあなたよりは』


 そうか。そうだな。

 別に倒すという訳では無い。守ればいいだけなんだ。


『とりあえず、もう私の話したいことは一通り話しました。スキルについては、私があなたのサポートをしますので安心してください』


 何も怯えることは無い。怖がることは無い。

 神様が着いてくれているんだ。


 やはり落ち着くと頭が働く。


 ──。


 ──家が。


 ──家は今どんな状況なんだ。


 俺は最近知った、『恐怖』と言う感情を抑えながら、自宅へと急ぎ足で向かった。

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