第13話 現世に帰還 3

 俺はメイドについて行くと、風呂に入れと言われたため、風呂に入ると、メイドさんも着いてきて髪を切ってくれたのだが。……さすが、できるメイドと自称しているだけあり、髪の有様は散々だった。


「い、良い髪型ですね。すごく似合ってますよ?」

「ありがとう」


 俺はメイドさん──俺の髪を切った張本人に肩をトントンと叩かれ励まされた。

 励ますなら、俺から顔を逸らして笑わないで欲しいのだがな。

 すると、玄関の扉が開く音が聞こえ、その音を聞いたメイドさんは足早に玄関へと向かって行った。執事の服に着替えた俺も、それについて行った。

 ちなみに下の下着の変えは生憎無かったので、着替える前と同じものを履いた。



 ◇



「あ、え、ええっと? 色々ツッコミたい所はあるけど、まずはシュウくんがでよかったよ!」


 玄関に俺が向かうと、そこには皇大郎が立っており、皇大郎の横には先程まで俺の隣に居たメイドが立っていて、メイドは頬を薄く赤に染めていた。

 というのは、このメイドに何もされなかったかって事か? そんなの見ればわかるだろうに。髪が無事ではない。


「下校しようと思ったけど、シュウくんがヤンキーに絡まれて首を切られたとかいう噂が入ってきて探したんだけど、居なかったから家に帰ってきたんだけど。……良かったよ無事で……本当に……」


 皇大郎は目尻に涙を浮かべた。

 俺はそれを不意にも可愛いと思ってしまった。

 しかし、そっちのの確認のことだったのか。


「…………あの……あとさっきから気になってるんだけど、そのボサボサの髪どうしたの? あとなんでカチューシャなんて付けてるの?」

「そこのメイドの仕業だ」

「なっ!?」


 皇大郎は驚きながらも、ポコッと隣にいたメイドを軽く叩くと、俺の方へと向き直った。

 メイドはなんだが嬉しそうに見えた。


「ごめん。僕が明日切るよ。その長さなら僕でも整えられるし」

「わかった頼む」


 俺がそう言うと、皇大郎は「うん」と頷き、どこかへ去っていき、俺とメイドが玄関に残された。


「誰だっけ、男子が猫耳カチューシャ付けるのは可笑しく無いって言った人」

「すいません。でもマ…………コ、コウタロウさんは猫好きですよ?」


 また名前間違えそうになったし、人面猫が好きなわけあるか。



 ◇



 夜8時頃。

 俺は、執事の仕事を早めに上がらせてもらい、執事の服のまま自宅への帰り道を歩いていた。

 そして、体、心が共に落ち着くと、色々な事を思い出した。

 退学届をまだ学校に出せていないこと。学校の廊下にカバンを落としたまま置きっぱなしのこと。

 それはまだ良いのだ。

 が、大事な事を忘れていた。

 遺書だ。

 俺は昨日の朝、遺書を書き置きして家を出た。


 しかし、昨日の夜から今まで遺書のことを忘れていたのだが、昨日の夜、家に帰ると遺書は置いてあった場所から消えていたのは確かだ。

 ということは、誰かが遺書を見た。あるいは持っているということ。

 妹や姉が見たならまだ良い。だが、母親には絶対に見られたくない。

 心配をかけたくないからだ。

 遺書のことを確認すべく、急いで家に帰ろうと思ったが……


『あなたの気持ちは分かりますが、ちょっと待ってください』


 そう呼び止めたのは神様だった。

 落ち着いた声だ。


『早く帰りたいのは分かります。ですが、私には分かるのです。今この時しか一人で落ち着ける時間──私・神様と落ち着いて話せる時間がないということを』


 豪雨はすっかり止み、雨の匂いがほんのりする。

 道にところどころに設置してある街灯の何個かが、接触不良なのか、東京では珍しいが着いたり消えたりしている。


『今、ここで話してもいいですか?』


 いや、場所変えたい。


『分かりました』


 俺は、落ち着くことが出来る、小学生の時に友達と沢山遊んだ公園へと行き、街灯に照らされているベンチへと座った。


『なんか、雰囲気出してますけど、そんなにこの雰囲気に合うような話では無いかもしれないですよ?』


 なんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る