ハズレスキル『ケツダイナマイト』がファンタジー世界を崩壊させるレベルで強すぎたんだが

下垣

ハズレスキル『ケツダイナマイト』がファンタジー世界を崩壊させるレベルで強すぎたんだが

「はぁはぁ……もうダメだ。俺たちはここで死ぬんだ」


 誰かがそう口に零した。その瞬間、全員の顔から血の気が引いていく。戦争中は弱気な発言は許されない。軍人なら特にだ。だが、彼の発した一言が事実であると誰もが感じ取っていたであろう。


「我が国はもう終わりだ。このまま俺らは敵国に蹂躙され殺されていく運命なんだ」


「い、いやだ! 俺は奴らに殺されたくない! 奴らに殺されるくらいならいっそ……」


 軍人の一人がダイナマイトを手に取り、自身のケツに突っ込んだ。


「こうしてケツにダイナマイトぶちこんで爆発させた方がマシだ」


 ケツのダイナマイトが着火する。この導火線が燃え尽きた時、彼の命も燃え尽きるだろう。


 仲間たちはその行動を見てニヤリと笑った。


「お前を一人にはさせねえよ」


 ブス! ケツにダイナマイトが刺さる。


「死ぬときは一緒だぜ」


 ずぼぼ。ケツの中にダイナマイトが突っ込まれる。


「みんな……」


 莫大な爆音と共に、この世から五人の命が消えた。祖国のため、勇敢に戦った五人の英雄たち。彼らのことはいずれ記録にも消されてしまうだろう。それが敗戦国の運命だ。けれども、この地球上に彼らは確かに存在したのだ。そのことをどうか忘れないで欲しい。それが彼らへのせめての手向けになるのだから。



 軍人の一人、ジュンイチが目を覚ました。ジュンイチは自分は確かにケツにダイナマイトを入れて爆発させたと思っていた。しかし、こうして生きている。なぜだ。人はケツの中でダイナマイトを爆発させても生きていられるものなのか? と心の中で問うた。しかし、答えは出てこない。


 周囲には仲間の軍人、タカカズ、マサキ、ゲンゴロウ、カズヒトの四人が横たわっていた。彼らもケツにダイナマイトを入れて死んだはずだった。


「おい! 大丈夫か!」


 ジュンイチは慌てて、四人のズボンを脱がせてケツの状態を確認する。良かった。縦に割れていること以外は何の変哲もないケツだった。全く損傷していない。これなら人工肛門の心配もないなと一安心するジュンイチ。


「ん……ああ。どこだここは……ってなんだ! ジュンイチ! どうして俺を脱がせたんだ!」


 タカカズはジュンイチの奇行に思わずツッコんでしまった。突っ込むとはケツに突っ込むという意味ではなく、ボケとツッコミの方である。


「いや、違うんだ。俺はホモじゃない! それだけは信じてくれ」


「わかった。信じよう。お前の目は嘘をついている目に見えないからな」


 なんとかタカカズの信用を得たジュンイチ。日頃の行いが良かったということか。


 マサキもゲンゴロウも起きて、全員生きていることになった。結局、ケツダイナマイトによる集団自決はなんだったのか。それは疑問に残るところだ。


「お前たちは……」


 五人の英雄の前に一人の金髪の男性が現れた。彼は背中に大剣を背負っている。


「この世界の人間ではないな。匂いでわかる」


「なんなんだお前は一体」


 マサキの問いかけに対して金髪の男性は笑い飛ばした。


「ははは。俺の名前はバリグザー。スキル鑑定人だ。お前たちのスキルを見てみよう。まずはお前からだ」


 そう言うとバリグザーはゲンゴロウの目をじっと見た。


「お前のスキルは、ミラーシールド。良かったな。あたりだ。魔法を跳ね返す盾を生成できるスキルだ。魔術師相手なら無敵のスキルだ」


 当たりと言われてもイマイチ、ピンと来ていないゲンゴロウ。だが、バリグザーは意に介さず次はマサキの目を見る。


「お前のスキルは、アルケミー。癖が強いが中々強力なスキルだぞ。金属を自由に生成できてそれを武器にできる」


「ほへー」


 次にバリグザーはカズヒトの目を見た。


「次はお前だ。お前は投擲スキルを持っている。物理アタッカーにしては珍しく、遠距離攻撃が得意なスキルで中々便利だぞ」


「物理アタッカーってなんだよ」


 カズヒトのツッコミも気にせず、今度はタカカズを見るバリグザー。


「むむ、ま、まさか! 時止めのスキルを持つものがいただなんて。当たりの中の大当たりじゃないか」


「そんなにすごいのか?」


「すごいなんてもんじゃない。このスキルが発現するには百年に一度と言われている。まさに幻のスキルだ。


 当たりのスキルが出て完全にテンションが上がっているバリグザー。最後にジュンイチの目を見た。


「お前……輝きがない。スキルがしょぼい。ケツダイナマイトってなんだ。初めて聞いたけど使い道なさそうだな」


「おい、俺のだけ酷くないか?」


 ジュンイチは抗議した。スキルが一体なんなのかそれすら全くわかってない状態だけれど、なんとなくハズレを引いた気がしたのだ。


「俺に付いてこい。しばらく生活の面倒を見てやる。転生者はこの世界の常識すらわかってないだろうからな」


 バリグザーはそう言うとすたすたと歩いていった。ジュンイチたちは彼に着いていくしかなかった。



 タカカズ、マサキ、ゲンゴロウ、カズヒトの四人はそれぞれスキルを極めていた。ゲンゴロウは魔術師キラーとして名を馳せ、マサキは錬金術師として活躍する。カズヒトは投擲スキルを活かしてプロ野球のチームに入団するが、ホモビに出たことが発覚して取り消さた。その一方でタカカズは時を止めることができる最強の冒険者として君臨していた。


 そんな中ジュンイチだけが浮いていた。ハズレスキルということで、誰もスキルの使い方を教えてくれない。完全にケツダイナマイト差別を受けていたのだ。


 所詮、文明レベルが低い異世界。スキルの価値によって生まれる偏見や差別は根強いものがあり、ジュンイチは他の四人と比べて冷遇されてしまっている。


「よぉ。へへ、転生者の兄ちゃんよぉ。今日も雑用かい?」


「へへ、ケツダイナマイトってなんだよ。お前のケツからスキルがでるってか? あははは」


 現地の冒険者たちがジュンイチをあざ笑った。その瞬間だった、冒険者たちは思いきり後方に吹き飛んで壁に激突してしまった。冒険者の体には無数の殴打の後が残されていた。


「へぶし!」


「あぎゃー!」


 情けない声をあげる冒険者たちを見下ろす一人の最強の冒険者がいた。


「俺の仲間を笑うんじゃねえよ」


 タカカズだ。彼が時を止めてその間に冒険者たちをボコボコに殴ったのだ。


「大丈夫か? ジュンイチ。あんな奴らの言うことなんて気にするな」


「ああ。ありがとうタカカズ」


 男同士の友情が高まった瞬間であった。


「大変だー。街にドラゴンが襲い掛かってきたぞー!」


 その言葉を受けて街中がパニックになった。ドラゴンはファンタジー世界でも最強の存在。実際、怖いのだ。


「ジュンイチ。お前は逃げろ。俺がドラゴンを倒す」


「おいおい。無茶だろ。いくら時止めのスキルが使えるタカカズでも、ドラゴンには勝てないだろ」


 時止めのスキルは無制限で時を止められる能力ではない。時止めには莫大な魔力を消費してしまうのだ。タカカズは先ほど一度時止めをしようしている。つまり、魔力が大幅に欠けている状態なのだ。そんな状態で戦うのは無謀すぎた。


「お前がいたら足手まといになるから言ってんだ! いいから尻尾撒いて逃げとけ変態チキン野郎!」


「チッ、んだよ! そこまで言わなくてもいいだろ! バーカ! お前なんかドラゴンの餌になっちまえ」


 そう捨て台詞を吐いてジュンイチは去っていった。一人取り残されたタカカズ。拳をぐっと握りしめる。


「すまないジュンイチ。お前だけでも生き延びてくれ」


 そう言って、タカカズはドラゴンがいる方向へと走っていった。



 緑色のウロコをした巨大な竜。それが街を破壊していた。地面をえぐり、建物を焼き尽くし、人を食らう。完全に地獄絵図だった。そこに現れたのは最強の冒険者タカカズ。彼は自身の持っている剣を抜いてドラゴンに立ち向かおうとする。


「さあ、来い! 爬虫類風情が! 霊長類最強のこの俺が相手だ!」


 タカカズはドラゴンに接近してから時を止めた。そして、ドラゴンの皮膚に何度も何度も剣を突き刺した。しかし、ドラゴンの皮膚は堅くて剣でのダメージが通らない。タカカズの所持している武器ではドラゴンに対抗できないのだ。


「皮膚がダメなら目を狙う!」


 タカカズはドラゴンの目を狙った。目を思いきり斬りつけようとする。だが、その時だった。


「しまった……時間切れか」


 タカカズの魔力が尽きて攻撃の瞬間に時止めが解除されてしまった。後少し、ほんの数秒時を止められていたら勝っていた。なのに……


 ドラゴンの眼前にいるタカカズ。ドラゴンは大きく口を開けてタカカズを食らおうとする。その時だった。


 大きな爆発音が聞こえた。それと同時にドラゴンは悲痛な叫び声をあげる。一体なにがあったというのだ。


「な……ド、ドラゴンのケツが破損している!?」


 タカカズはドラゴンの尻尾が部位破壊されているのを見て察した。なにものかがドラゴンのケツにダイナマイトを仕込んで爆破させたのだと。


「悪い。遅くなったタカカズ。やっとスキルの使い方がわかったんだ」


 タカカズは声がした方を振り返った。そこにいたのは、かつて共に戦場で戦った仲間のジュンイチだった。


「ジュンイチ! お前……」


「さあ、行くぞ。タカカズ。転生者の心いきを見せてやろうぜ」


 ケツにダイナマイトを食らったドラゴンだったが、まだ生きている。ドラゴンは生命力も高い最強の生き物だ。ケツにダイナマイトを突っ込まれたくらいでは死なないだろう。


「ジュンイチ。もう一度ケツダイナマイトだ」


「いや、それはできない。さっきの俺の攻撃でドラゴンのケツは破壊された。俺のスキルはケツの形状をしているものでないと効果がない。さっきの爆発でドラゴンのケツはもうケツと呼べるものではなくなった。俺のスキルの対象外だ」


 ケツダイナマイトはとてつもない威力を誇っている。だが、それは一発限りの技である。通常、ケツにダイナマイトを爆発させられると、それはもうケツと呼べるものではなくなる。ケツダイナマイトを食らって生きている相手にはどうすることもできない。


「いや……方法は一つだけある」


 タカカズは息を呑んでそう言った。タカカズからは男の覚悟というものが感じられた。


「いいこと思いついた。お前俺のケツにダイナマイトを入れろ」


「な! なに言ってるんだタカカズ! そんなことしたらお前の命が……」


「だが、もうそれしか方法がない。俺のケツにダイナマイトを仕込む。俺がドラゴンに密着する。そして爆発する。その爆発に巻き込むしかドラゴンを倒す方法はない」


「で、でも……それで上手くいくとは……」


「男は度胸なんでも試してみるのさ」


 タカカズはじっとジュンイチを見据えた。ジュンイチはその瞳を見てタカカズの覚悟を受け取ったのだ。


「わかった……タカカズ。お前の覚悟を受け取った」


 ジュンイチの声は震えていた。自分の仲間のケツにダイナマイトを刺す。そんな恐ろしいことをしなければならない。だが、それしか勝つ道はなかった。


「ああ、やれ!」


 タカカズの合図とともに、ジュンイチはケツダイナマイトを発動させた。タカカズのケツにダイナマイトを仕込む。それが引火する。


「ジュンイチ。それでいい。これで街は救われる」


 ジュンイチはその場で泣き崩れた。自分が初撃のケツダイナマイトでドラゴンを仕留められなかったせいで、タカカズは死んでしまうのだ。


 誰もがタカカズの死を確信していたその時だった。奇跡は起こった。いや、起こす者が現れた。


「なに一人で格好つけてんだ」


 この場に現れたのは球団を解雇されたカズヒトだった。カズヒトはタカカズのケツに自身の手をつっこんでダイナマイトを取り出した。


「お前! なにしてんだ! そのダイナマイトは、ドラゴンを倒すためのものなんだ。それを取り出すなんてとんでもない!」


 タカカズはカズヒトを怒った。しかし、カズヒトは余裕の笑みを浮かべる。


「お前、俺のスキルが投擲だって忘れたのか。これで終わらせるぞ!」


 カズヒトは茶色い物体くそみそがついているダイナマイトをドラゴンに向かって放り投げた。投擲スキルの補正を受けたそのダイナマイトはとんでもない速度でドラゴンに命中し、その衝撃で爆発した。


 投擲の破壊力に爆風が加わり、ドラゴンは木っ端みじんになり死亡した。ファンタジー世界において絶対的強者であるドラゴン。それをたった二発で葬り去れるほどの威力をもつケツダイナマイト。この最強伝説が今。誕生したのだった。


 ケツダイナマイトをファンタジーの世界に入れるとファンタジー世界を崩壊させるレベルでのチート級の技。それだけは後世へと語り継がなければならない。

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