第38話 男達のくだらない戦い
モニカ誘拐騒動はヒロイン候補であるソフィアの追放という形で幕を閉じた。
しかし、自分のせいで一人のクラスメイトがいなくなってしまったとモニカは深く悲しんだ。
「モニカのせいじゃないよ。それはここにいる全員が証明してくれるよ」
「そうですわ。モニカお姉様が悪いことなんて、何一つありませんわ」
「ミーアお姉様の言う通りですわ」
いつの間にか、サクヤはミーアのことをお姉様呼びしているようである。何だろう、モニカの配下についた順なのかな? そしてミーアはいつの間にモニカの義妹になったのか。
「そうよ、モニカ様。アナタが責任を感じることは何一つないわ。ほら、アナタの立派な胸を張りなさい」
シャーロットの言葉にオリビアも頷いた。俺が言うとセクハラ発言になりそうなセリフを事もなげに言ってのける。さすがだな、シャーロット。
モニカのことが好きなのは俺だけじゃない。モニカの周りに集まっているみんなが、モニカのことを好きなのだ。
ちょっと嫉妬してしまうが、それだけモニカが魅力的なのだ。ここは素直に矛を収めるとしよう。
「しかし、モニカ様を狙う者がまた現れないとも限りません。警備を見直した方が良いかも知れませんね」
アルフレッドが真面目な顔をして言った。ギルバードもそれに賛同した。そして、モニカに女性の護衛が必要であると付け加えた。
「モニカの護衛か。うん、やはりここはサラに護衛になってもらうしかないね。これまではメイド扱いだったけど、これからは専属護衛として、四六時中そばにいるようにしてもらってもいいかな?」
俺はモニカの顔を見た。これまで、サラはメイドとして取り扱っていたため、学園内にはいるものの、授業中にそばにいることはできなかった。
しかし、これが護衛となれば、授業中でも、どこにでもついていくことができるのだ。
王立学園では基本的に王族以外は護衛をつけることはできない。しかし、今回のようなことがあったので、モニカには特別に護衛をつけることが可能になると判断した。
モニカは軽く頷いて、後ろに控えているサラに声をかけた。
「サラ、お願いできるかしら?」
「お任せ下さい、モニカお嬢様。何人たりとも、お嬢様には指一本触れさせません」
サラが頼もしく請け負ってくれた。これでモニカの守りは完璧だろう。あとはサラの言う「指一本触れさせない」相手に、俺が含まれていないことを願うばかりだ。
サラを護衛につけたこともあってか、その後、モニカが何かしらの危険な目に遭うことはなかった。
何度か、一人残ったヒロインのエマがモニカに接触しようとしていたようだが、サラがそれを完全に阻止していた。どうやら何かのイベントを発生させようと企んでいたようだ。
ちなみにこの話はサラからの秘密の報告で上がってきたものだ。
サラがモニカの護衛になってから、俺とサラは情報を共有するために、度々手紙のやり取りをしていた。
サラと二人だけで会うのは、モニカに変な誤解をされそうなのでダメ。それならモニカも含めて三人と一匹で会えばいいじゃないかと思うかも知れないが、モニカに余計な気苦労をさせたくなかったので、それはできなかった。
サラの報告により、エマが動いていることが分かった。そうなると、他の攻略対象とエマの関係が気になってくる。誰かと懇ろな関係になっているのであろうか? もしそうならば、こちらにちょっかいをかけてくることはないと思うのだが。
だがしかし、誰ともフラグが立っていないとなると、最後に一発逆転があると思われているであろう俺に、接近してくるのかも知れない。考えるだけでも億劫だ。いっそのこと、俺達が正式に婚約したと公表してくれれば良かったのだが、国王陛下はそれをよしとしなかった。
「というわけで、君達と恋人達との進捗状況を聞きたい」
攻略対象を集めた事情聴取が始まった。
「いきなりですね、殿下」
「俺は手段を選ばない。で、どこまで進んでるんだ? ん?」
互いに顔を見合わせる、アルフレッド、ギルバード、ブルックリン、カイエンそしてロラン。
「他国の事情に口を出されるのはちょっと……」
カイエンが言葉を濁した。何だカイエン。何かやましいことでもあるのか? まあ、カイエンにはサクヤがいるから大丈夫か。どのあたりまで進んでいるのかは気になるけどね。
Aまでか? それともCまで行っちゃったのか?
「そうか。それじゃカイエン、サクヤ以外の女の子とは仲良くなっていないんだな?」
「そりゃそうだけど、何でいきなり?」
「いや、ちょっと気になっただけだ。モニカの義妹を大事にしてくれればそれでいい」
お、おう、とカイエンは首を傾げながら微妙な顔をしていた。次。
「アルフレッドはどうだ? 誰か意中の子はいるのか? どこまで進んでいるんだ?」
何で、という顔で周囲を見渡すアルフレッド。男ども全員の目がアルフレッドに向いている。それを見て観念したアルフレッドはポツリポツリと話しだした。
「ご存じかと思いますが、私には婚約者のビーナス嬢がいます。それ以外の方とはお付き合いをしてませんよ。ビーナス嬢とはそれなりに……」
ほほう、それなりにね。続けたまえと言わんばかりに沈黙がその場を包んだ。しばらく目を彷徨わせたあと、付け加えた。
「それなりに、そうですね、キスまではしましたね。その先はちょっとまだですね」
何でこんなことまで言わなければいけないんだと、非難がましくこちらを見た。まあまあ、やることやっているならそれでよし。
「それじゃあ、別に他の生徒から言い寄られたりとかはしてないんだね?」
「え? そういえば入学してから何度か、同じクラスのエマ嬢から話しかけられたことがありますね。他の令嬢は私に婚約者がいることを知ると引き下がって行くのに、その方は諦めが悪いと言うか、何度も来ましたね」
「お、アルもそうなのか? 俺も婚約者がいるって言うのに何度も言い寄られて、本当に困ったよ。それを知ったマドンナが嫉妬して、あのときは本当に大変だった」
そのときを思い出したのだろう。ギルバードがもうウンザリだとばかりに首を振った。思い出したくもないらしい。どうやって彼女のご機嫌を取ったのか、今後のためにもあとでしっかりと個別で聞いておこう。ギルバードも問題なさそうだ。
「二人もそうなんですか? 実は私のところにも来てて……まあ、それを見つけたクイーン嬢にあとで詰め寄られて、誤解を晴らすのが大変でしたよ。ああ、思い出しただけでも胃が痛い」
なるほど、どうやらエマ嬢は全員にまんべんなく唾をつけているみたいだな。だが、どれも上手く言っていないようである。あとはロランだな。
「ロラン、君はどうなんだ? オリビア嬢と上手くやっているのか?」
その途端、ロランの顔が真っ赤になった。何これ可愛い。
ギョッとしたは俺だけではなかったらしく、ロランを除く他のメンバー全員が同じように目を大きくして、口をパクパクさせてロランを見ていた。まさか、お前。
「上手くやっています。それはもう上手く……」
そう言ってうつむくロラン。何このいやらしい間。みんなどことなくソワソワとしている。
「どこまで進んだのかね、ロラン君」
「あの、えっと、一緒に寝るところまで?」
何で疑問形なのかはさておくとして、オリビア、あいつやりやがったな! お互いに平民同士という何の枷もないという状況をいいことに。
転生者のオリビアは、当然、にゃんにゃんする方法を知っていたのだろう。だからといって、純情な少年に手をかけるだなんて! この国の法律的には問題ないからと言って、節操なさ過ぎだろ。
「これはロラン君に詳しい事情を聞かなければならないな」
ロラン以外の全員が頷いた。
こうしてロランの詳細な取り調べが行われたのであった。
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