第20話 それぞれの思い①
カタルーニャ公爵家の自室でお茶を飲む時間。このときが一番心が穏やかだわ。
キリエの森を調査して、初めてダンジョンを攻略してから数日が経った。
王立学園に入学するのはまだ先だが、ゲームがスタートする前にもう一度現状を確認しようと思い、改めて自分の今置かれている現状を確認してみた。
「攻略対象であとお会いしていないのは、異国からの留学生であるカイエン様と、見習い騎士のロラン君だけね……。ああ、どうして本来関わるはずのなかった方達とこんなに仲良くなっているのかしら?」
「どうされたのですか、モニカお嬢様。また、今さら考えてもどうしようもないことを考えているのですか?」
「うわあぁぁん! サラが冷たい!」
モニカは泣いた。もうどうしようもないのは事実だし、みんなと冒険に行くのは楽しかった。あんなにワクワクすることはもうないのではないか、そう思えるほどキリエの森での出来事はとても刺激的だった。
「ゲームの攻略対象のレオンハルト、アルフレッド、ギルバード、ブルックリンとはもう仲良しですからね。残りのカイエン、ロランと仲良くなる日も、そう遠くはないでしょう」
サラがさらっと言った。あまりの言い分に、私は口をとがらせた。
「またそんなこと言って。私は最後まで諦めないわ。諦めたらそこでゲームは終了だと、偉い方が言ってましたわ」
「モニカお嬢様、往生際が悪いですよ。諦めましょう」
「ヤダヤダ! まだ焦る時間じゃないわ」
「確かにまだ時間はありますが、レオンハルト殿下にモニカお嬢様の外堀を固める時間を余計に与えることになるだけだと思いますが……」
ありえる。とってもありえるわ。あの抜け目のない王子様が、のうのうと日々を過ごすはずがないわ。
何かまた、新たな戦略を考えているはずだわ。ああ、考えるだけでも恐ろしい。
「サラ、どうしてレオ様は私を悪役令嬢から遠ざけようとしているのでしょうか? ハッ! もしかして、レオ様も私と同じ転生者なのでは?」
同意を求めたつもりだったのだが、サラは「やれやれ」と言いたげに首を軽く振った。
「なによぅ」
「いいですか、モニカお嬢様。自分の愛しい人、しかも、将来は国母になるお方に、将来この国を支えることになる有力候補達を紹介し、その方々との縁を深くしておくことは当然のことです。モニカお嬢様を愛するが故に、孤立させないように、広い見識を持ってもらえるようにと、レオンハルト殿下は日夜、努力しておられるのですよ」
サラの言葉に言葉が詰まった。確かに、よくよく考えるとその通りなのである。
ああ、自分はなんて浅はかなんだ。何でレオ様に疑いの目を向けてしまったのか。
私は心からレオ様にお詫びした。
ごめんなさい、レオ様。腹黒なんて思ってしまって。
****
ちなみに、サラはレオンハルトが転生者であることに薄々気がついていた。
それでもサラはそのことを言わない。
サラの目的はただ一つ、モニカを守ること。
それを達成するためには手段を選ばない。
たとえ主を騙すことになっても。
サラとレオンハルト、それにピーちゃんは共犯であった。
****
思ったよりも順調に、モニカの破滅フラグを折ることができているような気がする。
俺の顔は自然とほころんだ。
【主様はずいぶんとご機嫌なご様子ですね】
「あ、分かるかい? モニカがみんなと打ち解けて、みんなに信頼されるようになって、とっても嬉しいんだよ」
俺はピーちゃんに笑顔を向けた。
部屋の窓からは、心地よい風が入ってきており、美しいレースのカーテンをそっと揺らした。
窓辺にいたピーちゃんは、俺の肩へと静かに飛んできた。
鳥のようだが鳥じゃない。本当にフェニックスは変わった生命体だな。
ちなみに今のピーちゃんは小鳥サイズになってもらっている。いつもの大きな姿で肩に乗られると、大変なことになるからね。
【主様は本当にモニカ様がお好きですね】
表情は分かり難いが、何となく優しく笑っているような気がする。ピーちゃんも本当にモニカのことが好きなようだ。
「もちろんだよ。早く一つ屋根の下で暮らしたいよ。そうすれば、あんなことやこんなこともできるのに」
【またそのようなことを言って。そんなことだからモニカ様が素直になれないのですよ】
「やっぱりそうかなぁ」
何となくモニカとの間に壁を感じるときがある。
それはきっと、ゲーム内の破滅フラグを、モニカが気にしているからだと思っていた。
それで俺は、モニカのその心配を無くそうと必死になっているのだが、まだまだモニカの不安は解消されないようだ。
悩み始めた俺に、ピーちゃんが訪ねてきた。
【あと二人の攻略対象については、何か思い出しましたか?】
「それが、全然……。確か残りの二人は隠しキャラだったと思うんだよね。だけど、色々と調べてはみたけど、今のところ攻略対象になれるほどの人物はいないんだよね」
う~ん、と唸る。
【それでは主様、サラに相談してみましょう】
おっと、GMに直接攻略情報を聞くだなんて考えてもみなかったな。ありなのか、それは?
いや、でも他に方法がないし、手遅れになるくらいなら使えるものは何でも使っておきたい。
「そうだね。次にモニカが城に来たときに、サラと話す機会を設けてもらうことにしよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。