第19話 ダンジョン④
ゴーレムだ。その辺りの石や岩を集めたのだろう。岩石でできた二メートルほどのゴーレムが、地面の中からその姿を現した。
うん、思ったよりも小さいな。やはりできたてホヤホヤのダンジョンだからだろう。早めに攻略に来て良かったと思う。
しかし、たとえ小さくてもダンジョンのボスである。みんながみんな、喜びに満ちた顔をしている。
伝説の勇者が活躍する本を読むのは、子供達の定番中の定番である。
そして、ボスと戦うのは、定番の憧れるシチュエーションである。
「いよいよボスのお出ましか!」
「ギル、油断しないで下さいよ。あなたの盾は飾りじゃないんですからね」
みんなをしっかり守れ、とアルの檄が飛ぶ。
「支援は任せて下さいませ! 防御力と身体能力を強化しますわ!」
モニカが魔法の詠唱を開始した。
ブルックもメモ帳を大事そうに懐に仕舞うと、杖を構えた。
それを待っていたかのようにゴーレムが動き出した。意外と優しい。
そんな下らないことを考えながら、俺も剣を構えた。
ゴーレムの重そうなパンチをギルが盾でいなしたところに、アルが矢を放った。
アルは弓矢が得意であり、放った矢は見事にゴーレムの目らしき光点につき刺さった。
ゴーレムが慌ててそれを抜こうと手を伸ばした隙をついて、俺とギルがゴーレムの片足を攻撃する。
足を攻撃されたゴーレムはバランスを崩し、その場で倒れた。そこにすかさずブルックの氷魔法が放たれる。
氷魔法はゴーレムを倒すことはできなかったが、氷漬けになったゴーレムは一時的にその動きをとめた。
「皆さん、今のうちにダンジョンの核を破壊しましょう! サラ、あれは壊しても大丈夫なのですか?」
モニカの声に従って、俺達は最奥にある台座に向かって走り出した。
「問題ありません。しかし、ダンジョンコアの破壊後、約一日でこのダンジョンは完全に消滅します。それまでにダンジョン内から退避して下さい」
サラが丁寧にダンジョンの仕様を説明してくれた。一日の時間の猶予があるのなら、破壊しても大丈夫だろう。
「それじゃあ、さっさと破壊することにしようか」
「え? 持って帰らないのですか?」
ブルックは持って帰ってダンジョンコアの研究をしたそうだったが、俺は否定した。
「ここで破壊するよ。ダンジョンコアなんて危ない代物は、新たな混乱を招くだけだよ。そんなものはない方がいいに決まっている」
間違いなく、キリエの森で起こる魔物の氾濫の原因はこれだろう。将来の不安材料を無くすためにも、破壊するしか選択肢はなかった。
「レオ様の言う通りですわ。ダンジョンコアのような人智を越えた魔物を産み出す兵器を、私達が扱えるとは到底思えませんわ」
俺達の言葉に、アルとギルが無言で頷く。
「申し訳ありません。私の考えが浅はかでした」
「いいのですのよ、ブルック様。国をより良くしたいというあなたの考えも分かりますわ。ですが今回だけは、私の我が儘を聞いていただけませんか?」
「我が儘などと! とんでもない! 未来の国母として、当然の考えです。ああ、なんて私は愚かなことを……」
モニカの言葉にブルックは反省しているようだ。ブルックの考え方も正しい。だがその考えはまた別の機会にとっておいてもらいたい。ついでにモニカの評価もあがったようだし、良かった良かった。
ダンジョンコアを破壊すると、先ほどのゴーレムも消滅していた。これでこのダンジョンも明日には完全に消えていることだろう。
俺達は急いで元の道を戻った。と言っても、魔物はもう出現しない上に、一本道だったので、三十分とかからずに外に出ることができた。
森の外縁で待っている馬車への道すがら、俺はみんなに言った。
「このダンジョンの件は報告しないでおくつもりだ。なくなった驚異を改めて話す必要はないだろう? それに、勝手にダンジョンに入ったとなれば、間違いなく怒られるだろうからね。下手すれば、二度と冒険に出られなくなるかも知れない」
「ええっ! それは困りますわ!」
一番にモニカが声をあげた。それに同調したように、残りの三人も頷いた。よし、ではこれで決まりだな。
「殿下、ダンジョンのことを秘密にする件は分かりました。ですが、サラは一体何者なのですか?」
さすがはアル。そのことに気がつくとは。将来の俺の右腕だけはあるなぁ。
秘密の共有は仲間意識を強くする。信頼をより強固なものにするためにも、ここで話しておいた方がいいだろう。
「このことは他言無用だよ。モニカの守護霊獣のサラはこの世界の理を知るものなんだよ」
「この世界の理を知る!? それってまさか……」
「そのまさか、だよ」
「おおお、なんということだ! モニカ様がそのような偉大な存在に護られているとは……!」
アル、ギルそしてブルックが同時にモニカの前に跪いて、頭を垂れた。
ギョッとしたモニカがこちらを向いて助けを求めたが、俺は素知らぬ顔をしておいた。
モニカ、君はみんなに崇められるべき存在なのだよ。諦めたまえ。
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