第21話 それぞれの思い②

 そして、その日はすぐにやってきた。

 シュークリーム事件以降、モニカは定期的にお母様による王妃教育を受けていた。

 モニカは公爵家のご令嬢であるため、マナーは完璧であり、転生者ブーストも相まって学力も非常に高い。

 そんな完璧超人のモニカでも、やはり王妃になるためには、また別の視点からの教育が必要なようである。

 大変そうだが、俺のためにも、モニカのことがお気に入りのお母様のためにも、ぜひ頑張ってもらいたい。

 

「モニカ、お母様とのお茶会の間、サラを借りたいんだけど、いいかな?」

 今日はその王妃教育のある日。サラから話を聞くには、またとないチャンスだった。


「え? それはもちろんよろしいですけど……」

 

 チラリとサラを見るモニカ。サラはこちらをジッと見つめていた。


 

「すまないね、サラ。モニカのことが心配だろうけど、そこはうちの王妃殿下の親衛隊を信頼して欲しいかな」

 

 王妃殿下には万が一のことがないように、強力な親衛隊がいつもついている。お母様と一緒にいれば、まずモニカは大丈夫だろう。

 

「どう言ったご用件でしょうか?」

 

 相変わらずの無表情でサラが言った。

 モニカの話ではサラの表情は豊かだということだが、とてもそうは思えないなぁ。

 

「まどろっこしいのは無しだ。サラ、残りの二人の攻略対象は誰だ?」

「東国からの留学生、カイエンと一歳年下の見習い騎士、ロランです」

 

 スッパリとサラは言い切った。

 

【主様、その名に聞き覚えは?】

「どちらも聞いたことないな。東国があるのは知っているが、今はそれほどの交流はないからね。そのロランという子は、おそらくまだこの城に来てないね」

 

 これは困った。どちらも今は手が出せないな。

 カイエンの情報はこれから集めるとして、ロランは城下、下手すればこの国のどこかにいるということになる。探し出すのは不可能に近いな。

 

「やはりレオンハルト殿下は、モニカお嬢様と同じく、転生者だったのですね」

「そうだよ。もしかして、気がついてなかった?」

「おそらくそうだと思ってましたが、確信に変わったのは今です」

 

 なるほど、GMでも相手が転生者なのかはハッキリとは分からないのか。これはちょっと気に留めておかないといけないな。

 

「そのことをモニカお嬢様には言わないのですか?」

 

 どうやらサラは、俺が転生者である可能性があることを、モニカには言わないでおいてくれたみたいだ。ありがたい。

 

「ゲームスタートの学園に入る前までには必ず言うつもりだよ。モニカの協力無しにはモニカの安全を確保できないだろうからね」

「それがいいと思います。その頃までにはモニカお嬢様も諦めがついているでしょうから」

「モニカはまだ諦めてないのかい?」

「はい。諦めたらそこでゲームは終了だと言ってました」

 

 その心意気は素晴らしいと思うが、今はその心意気はなくて良かったかな。

 

【まだまだ時間がかかりそうですね】

 

 ピーちゃんも複雑そうな顔をしている。俺は一つため息をついた。

 

「モニカはどうしてそこまでゲームのシナリオにこだわるんだい?」

「モニカお嬢様がレオンハルト殿下と結ばれれば、この国が滅ぶと考えているようです」

【まあ!】

「そんなバカな。むしろ、モニカと結ばれない方がこの国が滅ぶことになると思うんだけど?」

 

 二人はそうだと首を縦に振った。

 俺達の心は一つ。三つの心が一つになれば、敵対するものは滅びることになるだろう。それだけの強さを俺達は持っていた。


 

 ****


 

「サラ、レオ様とはなんの話をしたのですか?」

 

 私はギクリとした。

 まだ、モニカお嬢様に言うわけにはいかない。

 あの抜け目のないレオンハルト殿下が、最適なタイミングでモニカお嬢様に告白するはずだ。それを邪魔してはいけない。

 

「モニカお嬢様のスリーサイズの話を……」

「ちょっとサラ! まさか言わなかったでしょうね?」

「もちろんです。ご自身でお確かめ下さいと言っておきました」

「ご自身で確かめるって……サラのバカー!」

 

 何を想像したのか、モニカお嬢様が顔を赤くしてポコポコと叩いてきた。

 もしかして、レオンハルト殿下がモニカお嬢様を丸裸にして、隅から隅まで採寸されるところを想像したのだろうか?

 思ったよりもモニカお嬢様はムッツリのようである。

 これはレオンハルト殿下の評価が下がってしまったかもしれない。

 一応、謝っておこう。

 出汁に使ってごめんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る