第12話 守護霊獣よ、来たれ!③

 馬を走らせること小一時間程。ようやく目的地に到着した。

 そこは森の少し奥深いところではあったが、特に何かあるというわけではなかった。

 俺が見た感じでは、そこに本当に魔力が溜まって、淀んでいるのかどうかは分からなかった。


「この辺りにしましょう」


 馬から降り周囲を確認すると、慎重にモニカを馬から下ろした。辺りは鬱蒼とした木々が生い茂り、少し不気味な感じがする。

 モニカが震える手で俺の腕を掴んだ。


「大丈夫ですよ、モニカ。必ず私が守りますから」


 ニッコリと笑いかけると、まだ緊張した様子ではあったが、頷いた。

 俺は早速、召喚用の魔方陣を書いた。

 この魔方陣もピーちゃんの力を借りてパワーアップしている。本当にピーちゃんは物知りで、とても助かっている。


「そうだ、モニカに私の守護霊獣を紹介しておかなければなりませんね。ピーちゃん」


 俺が名前を呼ぶと、目の前に紅蓮の炎が出現し、炎の中からフェニックスのピーちゃんが現れた。


「ひ、火の鳥? いえ、フェニックスですか!?」


 モニカが度肝を抜かれた顔をしている。まさかそんな大物が出てくるとは思わなかったのだろう。

 俺も召喚した時はそんな大物が出てくるとは思わなかったけどね。


【初めまして、我が主の婚約者殿。お会いできて本当に嬉しいわ】


 ピーちゃんは、いとおしい人を見るように目を細めながらモニカを見ていた。

 その様子に困惑したモニカは、どういう顔をすればいいのか分からない曖昧な顔をしていた。


「大丈夫ですよ。ピーちゃんはモニカのことを随分と気にかけていたみたいですからね。私達のお茶会の時もチラチラと様子を窺っていましたからね」


 フフフと笑うと、ピーちゃんは照れくさそうに頭をかいた。

 その仕草にモニカもウフフとつられて笑った。

 よしよし、なかなかいい邂逅になったぞ。これでモニカがピーちゃんの前で畏まることもないだろう。

 俺の守護霊獣とは言っても、伝説のフェニックスだからね。恐れ多く思われて、距離をとられるのはどうしても避けたかった。

 これで準備はOKだ。後はモニカが召喚の儀式を行うだけである。

 前回の俺の時とは違う。今回は頼れるピーちゃんの力も借りて、万全の体制で行うのだ。

 手抜かりはない。


「それではモニカ、始めましょう。準備はいいですね?」


 緊張した表情でモニカがコクリと頷いた。

 いよいよモニカの守護霊獣が呼び出される時がきた。


「我が声に応えよ。守護霊獣よ、来たれ!」


 モニカは両手を魔方陣の上にかざした。モニカの声に魔方陣はすぐに応えた。

 周囲の空気が魔方陣の中に引き込まれているような感覚がある。これがこの周辺にあった魔力なのだろうか? 普段は魔力を感知することができない俺でさえ感じるくらいの膨大な魔力が集まって来ていることに、少しばかりの焦りを感じた。

 これはちょっとやりすぎたかも知れない。一体何が呼び出されるのか、段々と怖くなってきた。冷静に考えると、フェニックスでもかなりのヤバいのに、それ以上が現れるとなると……。

 今さら思うのもアレだが、モニカの安全確保に意識を集中しすぎていたかも知れない。

 そんな俺の考えをよそに、集まった魔力は禍々しい光を放ち始めている。

 もしかしなくても嫌な予感がする。

 モニカもそれを感じ取ったのか、魔方陣から一歩下がってその光を見つめていた。

 段々と光が収束しその姿が見えてきた。

 それは人と同じ形態をとっているようで、二足歩行で立っているのが分かる。

 光が収まった後には、禍々しい赤いオーラを纏った女性が立っていた。服装はメイド服を着ていたが、その圧倒的で凶暴なオーラに、只者ではないことをすぐに理解した。

 もしかして、魔王……とか? これはヤバいモノを呼び出してしまったぞ、と内心舌を巻いていると、その何かにピーちゃんが語りかけた。

 さすがはフェニックス先生、頼りになる!


【呼び出しておいては何ですが、あなたは何者ですか?】

【私はゲームマスターです】

【は?】

「げ、ゲームマスター!?」

「ゲームマスター!?」


 誰だよGMコールした奴は! って、モニカか! GMってある意味、魔王よりも遥かにヤバい奴じゃないの!?


【あなたは何を……】

「ピーちゃんストップ! それ以上はいけない! 消されるぞ!」


 俺は慌ててピーちゃんを抱き抱えてその口を塞いだ。見た目に反してピーちゃんは熱くはなかった。どうなっているんだこの炎? ハリボテ?


【私を呼んだのはあなたですね。それで、どのような用件でしょうか?】


 ピーちゃんの物言いを気にも止めず、モニカの方を見た。モニカが不安そうにこちらを見ていた。


「モニカ、練習の通りに言うんだよ」

「わ、分かりましたわ」


 震える声ではあったが、モニカが答えた。そして、GMに向き合った。


「あなたには私の護衛をしていただきたいと思っています。お願いできますか?」

【もちろんです。快適な環境を提供するのが我々の務めですから】


 どうやらオーケーのようだ。垢バンとか、監獄送りとかにされなくて良かった。

 安堵のため息をつく俺を、不思議そうにピーちゃんが見上げていた。


「あの、お名前は何と言うのですか?」

【私に名称はありません。好きにつけていただいて結構です】

「そうですか……それではサラ、あなたの名前はサラですわ。私の名前はモニカ。今後ともよろしくお願い致しますわね」

【了承しました。今後ともよろしくお願いします。モニカお嬢様】


 サラが丁寧にお辞儀をしたところで、モニカの召喚の儀式は終わりを迎えた。先ほどまでサラが発していた禍々しい赤いオーラは、今ではすっかりと身を潜めていた。

 モニカにはGMのサラがモニカ専属のメイドとしてつくようになった。

 めでたしめでたし。

 今回の教訓。

 モニカのためとなると周りが見えなくなる癖は治した方がいい。

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