美しい歌声をもつ歌姫フィオンは、彗星カラスに声を奪われてしまう。カラスのしゃがれ声しか出せなくなった彼女の前に現れたのは、偏屈な作詞家のエイサだった。公演が間近に迫る中、果たして、フィオンは声を取り戻すことができるのかーー?
子供の頃に大好きだった物語を思い起こすような、優しくて心の踊る物語でした。エイサをはじめとする、一癖も二癖もあるキャラクターたちも愛おしいのですが、個人的には、彗星カラスやシリウス・ペンといった固有名詞のセンスの良さも推したいところ…美しく、とても想像力がかき立てられます。
フィオンの声を取り戻すための旅を通じて、少しずつ明らかになっていく縁にも目が離せません。みなさまぜひ、ご一読くださいませ!
個人的な感想ですが、児童小説とか童話的な物語を書くのは難しいと思っております。
それは子供から大人まで楽しめることが重要だからです。
子供が読めば楽しく読みやすく、大人が読めばノスタルジーだったり人の大事な部分の再認識だったり。
そういう幅広い層を相手に文章と物語をつづるのはいろいろ大変です。
そしてこの作品です。
古き良きSF世界を彷彿させる世界観。
声をカラスに奪われた歌姫が、仲間と一緒に声を取り戻すという童話的なストーリー。
この二つが見事に融合していた面白い作品でした。
なにより特筆すべきはすごく丁寧に物語がつづられているということです。
歌姫の苦悩と後悔、彼女を助ける仲間たちの献身ぶり、声を奪ったカラスの目的。
そう言ったものが絶妙にちりばめられ、物語に深みを増していきます。
途中に出てくる歌姫の歌詞の優しさは、音楽がなくとも心に響いてきます。
とにかくそういったいろんなものが、優しい語り口で語られていく様は読んでいてとても心地がいいものでした。
SF的な設定と、異形なキャラクター達がつむぐ世界は希望に満ちていて、これもまた読みどころの一つかと思います。
ストーリーも起伏に富んでいて読み応えがありました。
そしてなにより、童話がもたらす優しい読後感がしっかりと感じられました。
ぜひ読んで見てほしい作品です!