第56話 朝陽の太陽

 朝陽がガルドと激しい交戦を繰り広げている一方で、ポアロンはマーヤが囚われている檻の前まで辿り着いた。


「おい! 小娘!」


 ポアロンは可憐な声をマーヤに聞かせるが、マーヤは寝たままである。ポアロンはもしかしたら、マーヤは死んでいるのではと最悪の事態を想定したが、耳を澄ますとマーヤの寝息が聞こえてきた。一先ず安心したポアロンは鍵の開錠を試みるが、彼女には鍵開けの技能はない。


「ガルドめ。施錠されていて助けられないのを知っていたな。性格の悪いやつめ」


 ポアロンは途方に暮れてしまった。檻の目は細かすぎてポアロンでは通り抜けることができない。檻を破壊することも考えたが、マーヤとガルドを閉じ込めていた牢である。そう簡単に破壊できないと考えるのは当然のことだ。特にポアロンは直接的な戦闘は得意ではないサポートタイプだ。破壊力のある攻撃は得意ではない。


「こんな時、我が陣営で最も破壊力のある攻撃を放てるメス騎士がいてくれたなら」


 ミレイユは現在、軍を率いてエディと戦っている最中だ。ポアロンの願いは当然届かない。途方に暮れているポアロンの前に1人の美青年が姿を現した。


「もし、そこの白い鳥さん。失礼ですが、あなたは神の使いですか?」


「なんだ貴様は……! オトギリか!」


 ミレイユから伝え聞いていた人相通りの美青年はクククと笑っている。そして、懐からブーメランを取り出した。


「飛び道具か!」


 ポアロンは構えた。相手は、神ではない。ただの人間だ。だが、その人間が、神と同等の力を有する創造神の使いであるポアロンの前に堂々と姿を現した。これは、勝算がなければできないことだ。特に、ミレイユを出し抜いた思慮深いオトギリなら、猶更。


 オトギリはブーメランを投げた。ポアロンはそれを躱した。当然。ブーメランだから返ってくる挙動を返すはず。ポアロンはそれを読んで再び躱す。


「ふむ。やはり、それが神の力なのですか。私の攻撃が当たりませんな」


「貴様の勝算とは、狭い室内なら自由に飛べる私の動きを制限できるということか? 実にくだらない」


「ええ。もちろんそれもあります。ですが、そんな浅い作戦で、サシの勝負を挑むほど私は頭は悪くないつもりですがね!」



「でやぁ! ハイィ――ッ!」


 ガルドが破壊の魔力を纏った打撃を次々と朝陽に浴びせていく。朝陽はその攻撃を最小限の動きでガードして、反撃の隙を伺っている。状況はハッキリ言えば朝陽が劣勢である。破壊神と創造神。基礎的な戦闘能力は破壊神の方にどうしても分があるのだ。創造神にはそれを補うほどに強力な神器がある。だが、破壊神にも神器を破壊や無効化する手立てはあるので、ハッキリ言えば戦いにおける相性は良くないのだ。


「オラァ!」


 ガルドの強烈な一撃が朝陽のガードを崩す。だが、ガルドも大ぶりな一撃を放ったことで次の一手がコンマ数秒遅れる。その隙を朝陽は見逃さなかった。あえて、ガードを崩したまま。構えを変える。そして、ガルドの次の攻撃を誘い込み、躱して、カウンターの蹴りを決めた。


 蹴りをガードできなかったガルドは後方に引き飛ばされた。足を踏んばり、痛みに耐えるために歯を食いしばる。


「ハァ……ハァ……中々に創造しか能がない神かと思ったが、中々に格闘センスも高いようだね」


「悪いな。俺は強いんだ。ゲーム実況者が喧嘩が弱いって偏見はやめた方がいいぜ?」


「ゲーム……実況者?」


「こっちの話だ」


 カンフー映画を見た後に強くなった気になって同級生に喧嘩を売りまくるバカな男子。それのゲーム版が朝陽なのだ。格闘ゲームやRPGでの戦闘で死闘の末に勝利した時、自分の操作キャラのように強くなったかのように錯覚して、よく喧嘩が強いアウトローな同級生に喧嘩をしかけていたのだ。そうした戦闘経験が今になって活きてくるとは、当時の朝陽も思いもしなかっただろう。


 しかし、朝陽が強いと言ってもそれは現代日本での話だった。生きるか死ぬかのサバイバル生活を盲目の状態で続けていたガルド。それに敵うほどの修羅場を潜り抜けていると言えば、答えはノーである。不意打ちで攻撃を当てられることはあっても、継続して有利に立ち回れるかと言われたら、それは厳しい。ガルドの方が基礎的な格闘センスは上なのだから。


 この状態を打破するためには、やはり神器しかない。しかし、ぶっつけ本番で新しい神器を作ることは難しい。朝陽は考えた。考えて考えて考え抜いた。ゲーマー生活の中でも、頭を使って数々の戦闘を潜り抜けてきた。だからこそ、朝陽は柔軟な思考と直感的に解法を見つけるのが得意なのである。


 朝陽に1つの考えが浮かんだ。成功するかどうかは未知数。か細い理ではあるが、イメージが沸かない新しい神器の作成に比べれば幾分かマシな方法。


「創造神ライズ! 死ねェ!」


 ガルドは破壊の力を全開して、朝陽に飛び掛かった。悩んでいる暇はない。今すぐにでも、神器を作り反撃しなければやられる。朝陽はある神器をイメージした。いや、神器ではない。今はいない仲間のこと。自分の力になるために修行をしてくれている仲間のことを……


「ヒルト! お前の神器を貸してくれ! いでよ! 太陽神の神器! インティワイラVer.Rバージョンライズ!」


「なに! その光は!」


 朝陽の手にあるのは太陽の如く光り輝く槍。インティワイラ。これはヒルトの神器であった。ヒルトのイメージで作り出し、創造されたもの。それを朝陽が創り出したのだ。


「あ、ありえない! 他者の神器を創り出しただと! インティワイラ。初めて目にするが、それはヒルトの神器のはず……!」


 飛び掛かったガルドは破壊の力を噴出させて、その勢いで方向転換をした。このまま朝陽に飛び掛かってはまずい。そう判断したからだ。


「ヒルトは俺が創り出した存在。そのヒルトが創り出した神器。それを俺が出せない道理はない!」


 ガルドは慌てて方向転換をしたが遅い。インティワイラの特性は――


 物凄い速さで伸びる槍。ガルドの胸部に刺さる槍の刃先。伸縮自在で蛇のように方向転換自在の槍インティワイラ。創造神ライズの立ち上げの初期の頃からずっと支えてくれていた戦力。弱いはずがない!


「がはっ」


 ダメージを受けて口から血を吐くガルド。ガルドは自身の傷口に手を当ててそこに霧を発生させようとする。ガルドの位置に気づいた朝陽は槍を引っ込めてガルドの体から離した。腐蝕の霧。ガルドはまたしてもそれを使おうとしていた。


「ぜーはー……」


「ガルド。お前は知らないかもしれないが、ヒルトの神器は伸縮自在だ」


 ヒルトと一緒に修行をした経験もあるガルドであるが、神界戦争には不参加だったし、その当時の彼は盲目であった。ヒルトの槍が伸びる事実を知らなかったのだ。


「伸縮自在だろうが、なんだろうが関係ない。周囲を腐蝕の霧全体で覆えば、その神器は使えなくなる! これで僕の勝ちだ!」


 ガルドは自身の体の底から魔力をひりだして練り上げた。破壊の力は創造の力より、コストパフォーマンスに優れるとはいえ、それでも大きな魔力を消耗する。ガルドとしてもこれは賭けだった。インティワイラを腐蝕させれば、朝陽は次に神器を出せなくなる可能性が高い。だから、多少魔力を大きく切ったとしても、無理してでも腐蝕させる価値はある。ガルドはそう判断したのだ。


 しかし、朝陽がそんなヘマをするはずがなかった。ガルドが腐蝕の霧を大量展開する前に、インティワイラを引っ込めて、自分の魔力として還元したのだ。


「なにぃ!」


「頭を使うんだな。神器は出ていなければ腐蝕することもない。創造神は神器の生成だけでなく、破棄して還元することも可能なんだ」


 虚しく発生する神器を腐蝕させる霧。それの効力はもう無いも同然。魔力を無駄に消耗したガルド。決着の刻は近い――

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建築ゲームを極めたら、創造神に認定されて異世界を創ることになった 下垣 @vasita

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