第55話 腐蝕の霧
ガルドが目を閉じると霧が立ち込めてきた。ガルドは霧の破壊神。前回、マーヤとポアロンが戦った時は、空間を自由に行き来する霧を使い彼女たちを翻弄した。
「凍れ!」
朝陽が右手から冷気を放った。霧は氷の粒に成り、そのまま地面にパラパラと落ちていく。その異音に気づいたガルドは目を開けてこのこの状況に驚く。
「な、これは……?」
「ポアロン! 今の内に行け! こいつは俺が倒す」
「はい!」
ガルドが動揺している内にポアロンはガルドの頭上を飛行移動して、マーヤの元へと向かおうとした。
「させるか!」
ガルドが手から衝撃波を出す。ポアロンは少し旋回してその攻撃を躱す。攻撃を躱されたガルドは舌打ちをして、これ以上の深追いは悪手だと判断。朝陽の方を向き直り、再び霧を出した。
「何度やっても同じだ!」
朝陽は再び冷気属性の魔法を放つ。ガルドの放った霧はまたしても氷の粒となって落ちる。朝陽はすかさずに神器クラフトハンマーを展開して、ガルドの氷の粒を砕いて魔力としてストックした。ガルドを倒した後も戦いは続く。本命はこの城の主、キリサメなのだ。魔力を温存させるためにクラフトハンマーの魔力を消費しない特性を十分活用しての判断だった。
その判断自体は悪くない。しかし、戦いというのは自分だけではなく相手にも戦略が存在するのだ。
「俺のハンマーを食らいやがれ! ハンマースロー!」
朝陽はクラフトハンマーを投擲して、ガルドにぶつけようとした。大きく振りかぶって投擲しようとする直前、クラフトハンマーが視界に入る。その時に異常事態に気づいたのだ。
「な……!」
朝陽の持っているクラフトハンマーが茶色くボロボロになっていた。
「残念だったな。創造神ライズ。僕の破壊の霧は神器を腐蝕させる。その神器ではまともに戦えない」
「なんだと!」
朝陽は構わずハンマーを投げた。ガルドはその攻撃を避けようとしない。ガルドは右手を上げて、投擲されたハンマーを軽々しく受け止めた。野球ボールでもグローブがなければ、捕捉するのは難しい。だが、ガルドはそこそこの速度のハンマーを素手で受け止めたのだ。
「全く痛くないな。僕の腐蝕の霧で神器の威力が大幅に下げられた。どれだけ速度で投げても破壊力は増さない硬度に落とされたのさ」
ガルドがお返しと言わんばかりに朝陽にハンマーを投げ返した。朝陽もそのハンマーを軽々しく受け取れたから、ガルドの言っていることが嘘ではないと悟った。
「こうなったら……!」
朝陽はクラフトハンマーでストックした素材を元に創造魔法を使おうとした。しかし、朝陽がどれだけイメージしてもストックしている素材のイメージが沸かなかった。
「っ……!」
朝陽の焦った表情が思わず出てしまう。それを見て、ガルドは喉を鳴らして笑うのだった。
「くっくっく。残念だったな。僕の腐蝕の霧を受けた神器は特殊能力を封じられる。これが僕の破壊の特性だ。神器そのものを破壊するのではなく、神器の“性能”を破壊する!」
「なら……!」
朝陽はクラフトハンマーを収納しようとした。収納した神器は、生成するのに使用した魔力分より少し低減された分を収納した者に還元することができる。クラフトハンマーを収納して、生成しなおすことで朝陽は腐蝕を直そうとしたのだ。
自身の神器を魔力の塊としてイメージし、それが体内に取り込まれるイメージ。収納と吸収を同時に行うイメージをすれば、神器を引っ込めることが可能のはず。しかし――
「バカな! 収納すらできないだと!」
朝陽はこの能力の恐ろしさを知ってしまった。腐蝕した神器は魔力として再変換することができなくなる。つまり、使い物にならなくなった神器の収納もできずに、邪魔にしかならない重荷が増えるだけである。
朝陽は腐蝕したクラフトハンマーを地面に叩きつけた。重量がある物体を叩きつけたが、威力が損なわれているので地面に傷はつかない。
「もう1度クラフトハンマーを出せばいいだけだ」
収納による魔力の回復はできなくなったものの、単純に破壊されたと考えればそれでいい。もう1本同じ神器を出せば、魔力の消耗が激しくなるだけで戦闘自体は行える。朝陽は自身の想像力を掻き立てて、クラフトハンマーを再度出現させようとした。魔力を練り上げて、想像力と融合。これで神器は出せるはずだが――
「?」
朝陽は頭を捻った。どれだけ魔力を練り上げても神器が出せない。そんな疑問を覚えていたら、ガルドが急に距離を詰めてきた。そして、朝陽の腹部に蹴りを入れてきたのだ。
「がは……」
朝陽は後ずさりして、衝撃を緩和させた。しかし、それでも蹴りのダメージは残る。クリーンヒットは避けられたが、先制攻撃を許してしまったことには間違いない。ガルドは、その後も朝陽に格闘戦を仕掛ける。ガルドの殴り、蹴りを受け止めてガードする。ガルドは手数を優先しているためか一発一発はそこまで重くない。しかし、攻撃を受け続けていては不利になることは必至。朝陽は覚悟を決めて、防御行動に割いていた行動のリソースを削り、足を踏ん張った。そして、腰に力を入れて回転させて、一撃が重いパンチをガルドの肩にぶちこんだ。
その一撃を受けて、ガルドが一瞬怯んで攻撃の手が緩む。朝陽はここで追撃はせずに距離をとった。その際に、足元にあった神器のクラフトハンマーは蹴飛ばして、ガルドが触れない距離にまで飛ばした。
朝陽の判断は正しかった。ガルドは攻撃の手が緩んでいたとはいえ、朝陽も攻撃を受け続けていたし、重い一撃を放つことに集中したせいで態勢がいい状態とは言えなかった。あの状態であれば、ガルドの方が態勢が整うのが早かったので追撃していれば、朝陽はより不利な状況に追い込まれていたのだ。
距離を取り、落ち着いたところで朝陽は情報を整理した。
朝陽は腐蝕したハンマーの代わりのハンマーを出そうとした。しかし、それが全くできなかった。朝陽の魔力量が神器を作りだせるほどなかった。その説はない。きちんと必要分の魔力は練り上げられていたし、創造神の名を冠し、創造魔法が得意な朝陽が創造力不足で神器の生成に失敗することはありえない。
となると、結論は1つだ。腐蝕の霧の影響を受けた神器と同じ神器を作りだすことは不可能。今、腐蝕している神器だけではなく、それと同種の神器の生成も封じられる。非常に強力な破壊の効果だ。
ハッキリ言えば、単純に破壊の衝撃波で神器を壊す戦術をとるエディよりも厭らしい力と言える。エディは魔力の消耗さえ覚悟すれば、同種の神器を出すことは可能なのだから。
この仮説が正しいものだとすると、朝陽は別種の神器を出して戦わなければならない。相手は破壊神の眷属。戦闘能力が高いが故に神器なしで戦うのは分が悪すぎる。
しかし、朝陽がすぐに出せる神器は、神界戦争の時に作った【ジョイント・バリスタ】のみだった。この神器は設置型で遠距離攻撃の神器であるが故に接近戦だと弱い。魔法を砲台に込める必要があるので、その間に距離を詰められたら終わる。装填、照準合わせ、射出。その3工程を接近戦でやるのは現実的ではない。なにせ元々、一方的に撃つために作られた神器だ。防御能力もなければ、速攻もできない。
他の神器を創造しようにも、まずは神器の詳細な形、能力、威力を想像し、それを自身の魔力とうまい具合に融合させなければならない。理論上はすぐに新規の神器が作れるが、それが実戦で使い物になるのかどうかは未知数。もし、使えないものを作り出したら無駄に魔力を消耗するだけである。
どうしたものかと考える朝陽。それに対して、ガルドは敵意を剥き出しにしている。自身の魔力を練り上げて、いつでも魔法が放てる状態だ。
「創造神ライズ! 貴様をここで倒して、僕はジオ様の恩に報いる!」
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