第54話 リョウガの城
ミレイユとエディが対峙している一方で、朝陽とポアロンはリョウガの国に侵入していた。ポアロンの神器スカイ・ゾーン。その力はポアロンの体を肥大化させて、人が乗れるサイズに変貌するものだ。機械を模したそれはジェットを噴出することで推進力を得ることができる。朝陽はポアロンに乗り上空の経路からリョウガの城の真上まで到着した。
「さてと……ポアロン。宣戦布告でもかまそうか」
「はい」
朝陽は予め創造魔法で作っておいた爆弾の起爆装置を作動させて、それを上空より城に目掛けて放り投げた。ポアロンは朝陽の作戦通りに、城の上空を飛び回る。無数に放り投げられる爆弾。それは着弾と共に爆発する絨毯爆撃となって、リョウガの城を倒壊させていく。
その爆撃を受けて、城主のキリサメは驚いた。正に美女と戯れている最中であったが、その爆撃によってムードを台無しにされてしまった。
「な、なに奴! ええい!」
身に付けている衣服が乱れているキリサメは慌てて自身の服装を正した。そして、保管してあった石の槍を手に持ち、敵襲に備えた。
「オトギリ! オトギリはいないのか! どうなっている! ワシに現状を報告せんか!」
キリサメが頼りにしている黒装束の密偵オトギリ。だが、キリサメがいくら呼びかけてもオトギリは現れなかった。ただ、城内が爆音と共に揺れる。そんな恐怖を一方的に味わっているのだった。
「ひ、ひい。キリサメ様ぁ……」
先程までキリサメの相手をしていた娘がキリサメの足元を縋るように掴む。しかし、キリサメは片方の脚で娘の顔面を思いきり蹴飛ばした。無言の蹴り。それを受けた娘は悲鳴をあげて、吹き飛ばされてしまった。
「邪魔をするな娘が!」
オトギリが来ない苛立ちからか、先程まで慣れ親しんでいた相手に暴力を振るうキリサメ。
「ええい! 誰でもいい! とにかくワシに状況を説明せんかい!」
そう大声で叫ぶも、城内はキリサメ以上に混乱している。彼らも彼らで現状把握ができていないのだ。
◇
朝陽とポアロンによる爆撃が始まった刻、牢屋にいるガルドは窓から景色を見た
「え? なに? どういうことなの?」
急な爆撃に状況を把握できていないマーヤ。だが、ガルドはオトギリから密かに得ていた情報を元に朝陽が奇襲をかけてくることは予想していた。
「創造神サイドもバカではない。奴らなら情報を抜かれたことに気づいて、それを逆手に取る戦略をするはずだと踏んだ。まあ、上空から攻めて来るとは予想はしてなかったけど……」
次の瞬間、シュンと風が吹いた後にオトギリが牢屋の前に姿を現した。彼の手には鍵束が収められていた。
「ガルド様。この騒ぎに乗じて早くここから出ましょう」
「ああ。そうだな」
オトギリが牢の錠にカギを差し込みガチャガチャと音を立てて開錠を試みている。この錠の構造は囚人が脱獄しないように、開錠の際には大きな音を立てなければ開かないように設計されている。予定にない開錠が行われた時に、音で知らせる役割があるのだ。だが、今は非常事態。誰もそんな音を気にしない。
「残念だけどマーヤ。キミは連れていくことはできない」
ガルドはそれだけ言うと、赤い霧を発生させた。その霧をマーヤが吸い込んでしまう。
「う……」
マーヤはうめき声を上げて、その場に倒れこんだ。それと同時にオトギリは開錠に成功。ガルドは霧を引っ込めて牢屋から出た。
「ガルド様。あの小娘に止めを刺さなくていいのですか?」
「そんなことをしている余裕はない。今までは悪目立ちを嫌って牢屋内で戦うことはしなかったし、今は脱獄が先決だ」
「御意」
オトギリは牢屋の錠を施錠した。これにより、マーヤだけが閉じ込められる結果となった。
ガルドはオトギリを連れて昇り階段がある方向を目指した。
「さてと。とりあえずライズの奇襲の騒ぎに乗じて脱獄する計画には成功したけど……このまま城を攻め落とされてもまずいな。こんなに派手に攻撃しているのは、ライズ側がこの城に
「と言うことは、マーヤがこの城にいることを彼らに伝えれば攻撃は止むということですか?」
オトギリの問いに対してガルドは静かに頷いた。
「エディがこの場にいない以上は、キリサメも貴重な戦力だ。あんなバカ当主でもいないよりマシだ。城ごと死んだら元も子もない」
◇
「創造神様。城内は混乱しているようです」
「既に積んでいた分の爆弾は消費しきってしまった。流石に俺を乗せた状態では、城を全壊させるほどの爆薬は積めなかったか」
ポアロンがいくらスカイゾーンで積載能力を強化しても、積載量には限界がある。予め積んでおいた爆弾のお陰で朝陽の魔力の消費は抑えられた。が、これから先は朝陽が魔力を消費して爆弾を創造しなければならない。
「よし、特大の爆弾をぶちこんでやる」
朝陽は積載量を気にして小型の爆弾を作っていたが、次の爆撃はそんなことを気にする必要はない。ポアロンの真下に爆弾を生成すれば重力で勝手に城に落ちてくれる。つまり、重量級の爆弾を作ることが可能だということだ。
その時だった。城の屋根を破壊して中からガルドが飛び出てきた。
「あれは……ガルドか!」
「どうしますか? 創造神様」
不意に飛び出てきたガルド。これまでと状況が変わったことでポアロンが朝陽に判断を促した。
「あいつも敵だ。関係ない。爆弾を打ち込むぞ」
朝陽は自身のイメージを膨らませた。この城が全開するほどの威力の特大な爆弾。無慈悲にも全てを破壊しつくす創造。
「待て! ライズ! 攻撃を止めろ! 中にお前の仲間がいる!」
ガルドは大声で朝陽に向かって叫んだ。その声を聞いた朝陽はイメージが乱れた。仲間と聞いて、これまではぐれていたマーヤの顔がよぎったのだ。
単なるハッタリかもしれない。しかし、もし、マーヤがこの中にいるのであれば城を消し去るほどの爆弾を創造するのはまずい。ここで爆撃を止めなければならないのだ。
「ハッタリに決まってます。創造神様。心を乱してはいけません。創造魔法はイメージに直結する魔法。想像力と集中力が乱れたら、魔法が使えなくなります」
「いや……相手は俺たちが仲間を見失っていることは知らないはずだ。ハッタリにしては、情報が的確すぎる。もし、マーヤが中にいる可能性が1パーセントでもあるとするならば、この城を攻撃することはできない」
朝陽はガルドを睨みつけた。彼の表情は真剣そのものでとても嘘を言っているようには見えない。朝陽はそう判断した。
「ガルド! 俺たちは今からお前のところに降りる。その際少しでも妙な真似をしたら、容赦なくこの城を爆破する。それでいいな?」
「ああ。それで構わない」
「ポアロン。城に降りるぞ」
朝陽の指示に従い、ポアロンは城の屋根の上に降り立った。朝陽を下に降ろしたことで変身の必要がなくなったポアロンは自身の神器スカイ・ゾーンを収納し元の手のリサイズの大きさに戻った。
「いくつか質問がある」
「ああ。どうぞ」
朝陽の言葉に対してガルドは全く動じる素振りを見せない。
「俺の仲間は今どこにいる」
「この城の中だ」
「城のどこだと訊いている」
「城にある牢屋の中だ」
「牢屋への道筋は?」
「僕が天井をぶち抜いてきた穴がある。そこから降りて真っすぐ行った先に階段がある。その階段を降りて道なりに進めば仲間がいるだろう」
「仲間の名前は?」
「マーヤ」
「いつからそこにいた?」
「さあ。僕は牢屋の中にずっといたから時間の間隔はよくわからない。ただ、彼女が連れてこられた日には、オトギリを派遣したのは覚えている」
「そうか……」
朝陽の質問に対して言い淀むことなく答えるガルド。それが余計に
「最後に1つ質問をいいか? 俺たちをこのまま城の中に侵入させる気はあるか?」
朝陽の質問で場の空気が一変した。戦闘前特有の張りつめた空気。ガルドの目つきが鋭くなる。
「ない」
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