あなたは賛成? 反対? それとも・・・

ちびまるフォイ

禁じられし便利すぎる選択肢

「あなたは私に賛成なの!?」

「反対だ! 君は間違っている!」


私が生まれたころから両親はケンカが絶えませんでした。

他のところでも同じような感じだったので珍しいことではなかったです。


この国には「賛成」「反対」しかないのだから。

それは生まれてからずっとそうだった。


「いたぞ! 反対派だ!!」

「ぶっとばせ! ここは賛成派のエリアだぞ!」


「話を聞け! 賛成なんて間違っている!」


「ろくな知恵もない反対派に騙されるな!」


賛成反対の国ではいつもどこかで争いが起きていました。


「まて。このコンビニを利用する前に聞くことがある。

 貴様は賛成か? 反対か?」


「賛成です」

「よしならば我らの仲間だ。通れ」


ここでの暮らしで得た処世術は変に反対しないことでした。

どう賛成なのか、どう思ったから反対なのかは問題ではなくどっちに属しているかがポイントです。


私はあっちで賛成、こっちで賛成の八方美人で過ごしていました。

そうすれば敵を作らないと思っていたからです。


「貴様!! 我々の意見に賛成じゃなかったのか!?」


「どうしそっち側に賛成している!? こっち側だろ!!」


運悪く相対するグループがバッティングしてしまいました。

それは賛成反対どちらを選ぶよりも悪い選択肢でした。


「答えろ! 貴様は賛成だろう!?」

「いいや、こっち側に賛成のはずだ!!」


「あ……いや……わ、私が思うのは……」


「「 お前の考えなんていい! 賛成か反対かだけ答えろ!!! 」」


私はなかば逃げるようにして賛成反対の国を出ました。

手助けしてくれたのは「答えを出さない国」の人たちでした。


「僕らの国では賛成や反対をはじめ、答えを出さない優しい国だよ」


「本当ですか……!?」


まさに渡りに船でした。

どちらに属しているのかを常に求められ答えを急かされることに疲れていたのです。


答えを出さない国へ亡命してからは穏やかな生活でした。

この国では賛成反対の国であったような争いはありません。


「この髪色どうかな?」


「明るめの茶色が若い感じを出しているね」


「それって褒めてるの? いいの? 悪いの?」


「ここでは答えを出さないんだよ」


どこにいっても誰に聞いてもけして答えは出してもらえません。

それは心地よいようでもあり、煙に巻かれたようでもあり居心地はよくなかったです。


しだいに本当は悪いと思っているんじゃないか、嫌味なんじゃないかと疑心暗鬼になっていきました。


そんな頃です。

賛成反対の国に残している母の容態が悪化したのは。


私が賛成反対の国から脱出するのにも協力した母は、

反対グループの襲撃にあって意識不明となり入院していました。

すぐにでも駆けつけたい気持ちでしたがそうも行きません。


数多の苦労や協力を経て国を出たのに、その国へ同じ人間が戻るのは至難の業です。

そのうえ、今の答えを出さない国では協力者も得られません。


「お願いです! 賛成反対の国へ戻るのに協力してください!」


「賛成反対の国は経済も発展していてすごいですね」


「協力してくれるんですか、してくれないんですか!?」


「答えを出すなんてできませんよ」


協力する・しない、それを選ぶことができる人は誰もいません。


賛成反対の国を一度出た人間をもう一度同じ国へ戻すのは

国を出るよりもずっと大変で警戒されることなのに。


私は三日三晩考え続けました。なにかいい方法は無いものかと。


そして、答えのない国の人達の集団移住計画を思いつきました。


賛成反対の国はそのギスギスした競争意識や対抗心が経済を発展させてきました。

答えのない国と比べると圧倒的です。


そんな発展都市に移住できるのですから、答えのない国の人たちも結論こそ出さないですがその意志は移住行列という形で表されました。


元賛成反対の国出身ではないかられを賛成反対の国へ入れるのは簡単でした。

賛成反対の息がかかっていないまっさらな人間が入国することは、自分の賛成反対グループの母数を増やすことができると歓迎されるからです。


賛成反対の国へ多くの答えを持たない人たちを送り込むことで

しだいに賛成反対の国に狙い通り変化が起き始めました。


賛成でも反対でもない。

第三の選択肢が生まれ始めたのです。


その選択肢はすぐに使用禁止として封印されましたが、

新たに生まれた便利な第三の選択をそうそう封じられるわけもありません。


私はこれがチャンスだと思いました。

再入国は死罪相当となりますが、その第三の選択肢により捕まることはないと踏んだのです。



けれど、私の見込みは甘かったようですね。


捕まって今はこうして裁判所で判決を待つだけなのですから……。



「裁判長! 判決をお願いします!!」


「静粛に!!」


「この人の死罪に賛成だ! 我ら賛成反対の国に再入国など

 きっと反対派がなんらかの企みでスパイさせたにきまってる!」


「裁判長! この人の死罪には反対です!

 そんな簡単に人の命を奪っていいと思っているんですか!?」


「否定しないなら、スパイということに賛成なんだな!」

「自分の憂さ晴らしに人の命を奪うコイツら賛成派には反対だ!」


「賛成だ!」

「反対だ!」


「賛成!」

「反対!」


「さん!」

「はん!」


両陣営はお互いをじりじりと睨みつけあった。


「「 裁判長!! 判決は賛成ですか!? 反対ですか!? 」」


裁判長は大いに悩んでから結論を出した。



「なんでもいい」



禁じられし第三の選択肢の封印が解かれた瞬間だった。

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