第100.5話 編集者達の会話
「ルームシェアってやっぱお金貯まるんですかね」
市内のシェアハウスで暮らす人々を取材した帰り道、助手席でデジカメに収めた写真の整理をしながら後輩の金本鉄雄が呟いた言葉に、雑誌編集者の雷門樹は「さあね」と素っ気無い声で返した。
「何だ、お前ルームシェアしたいの?」
「いやぁ別に。ただ僕等の周りって2組ぐらいルームシェアしてるのがいるじゃないですか。だから気になって」
2組というと、雷門達の勤める出版社に契約しているライターの黒牟田初郎と会社員の秋沢圭佑の1組と、金本の従兄弟である美容師の細木保則とアシスタントの木下純也の1組のことだろう。雷門は2組4人の顔を脳裏に浮かべていると、ふと疑問が思い浮かんだ。
「アイツらカノジョとかできたらどうすんだ?」
"カノジョ"という言葉を聞くなり金本の身体が1〜2秒フリーズし、それからハッと目を見開くと「あぁ〜カノジョねぇ」とオーバーに頷いた。
さては縁が無さすぎて"カノジョ"という概念ごと忘れてたなコイツ。呆れる雷門の隣で金本が「何か言ってたなぁ、アレ、アレ」と人指し指で虚空に円を描き始めた。
「まさに秋沢君からこないだ相談されたんですよ!」
「相談?何て」
「『ずっと初郎君と一緒にいたい。そう思うのってダメなのかな?』だって。仲良しですよねぇ〜!」
雷門はへぇと目を丸くした。
秋沢がそんなことを訊いたというのに驚いた。秋沢という男は普段こそあざとい言動をしているが、性格自体はかなりドライだろうと勝手に思っていたからだ。
それにしても何だか不吉な口ぶりだ。目の前に彼らの別れが迫っているような。雷門は妙な胸騒ぎを覚えつつ「本人達が望めば良いんじゃないかな」とだけ返すのだった。
「ところで同じ質問を細木君達にはしてないのか?」
「アイツらは大丈夫です」
「大丈夫なのか…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます