第42.5話 青い髪

青い髪というのは金髪以上に目立つ。

特に我が地元のようなド田舎は、令和という新時代を迎えてもまだ金髪がすれ違う人の注目を集める程珍しい髪型として扱われているので、青髪なんてしようものなら二度見、いや三度見はされてしまう。


そんな青髪に、私はされてしまった。

今までも黒髪とはいえ刈り上げアシメというなかなか目立つ髪型である為そこそこ人の視線を感じていたが、毛の色を青くすることで尚更視線を感じるようになった。

あまりに見られまくると頭の中でこんな考えが過り出す。「自分めちゃめちゃ変なのかな」と。実際のところ周りの人は珍しいなーぐらいにしか思ってないのだろうが、それでも見られ過ぎると不安になって肩が丸まってしまう。しばらく家で大人しくしていたくなる。

なのに、何を血迷ったのか私は仕事帰りの同居人を迎えに行こうと美容院からそのまま駅に向けて歩き出してしまった。案の定、道中ではすれ違う人が僅かに目を見開いて私を見てくる。ついでにすぐさま目を逸らしてしまうのが意味ありげでつらい。

つらくなればなる程私の背中は団子虫の如く丸まっていき、このままコロコロ転がっていくんじゃないかなどと考えているうちに青髪おじさんは駅に辿り着いてしまった。改札口には秋沢氏のこじんまりとした姿。なんてタイミングが良い。このままさっさと連れて帰ろうと声をかける。すると。


「髪染めたの?かっこいいじゃんブフッ」


その言葉と共に腹を抱えて笑い出す秋沢氏。団子虫の心はバキンバキンに破壊されてしまった。帰りに髪色戻しを買おうと思った。

というわけでドラッグストアに寄りたいと秋沢氏に伝えると、彼はハッとしたような顔で「ごめん!」と言った。


「ごめんごめんごめん!そうじゃないから!大胆にいったなって!」


「ええ大胆に失敗しましたとも」


「そうじゃないってー!似合ってるから!かっこいいから!」


"かっこいい"。本気なのか取り繕っているのかわからないが、この言葉でバキンバキンに壊れた団子虫の心は少しだけ修復された。


「かっこいい?」


「かっこいい!」


「横歩ける?」


「余裕!」


「無理してない?」


「してない!」


「職質されたら助けてくれる?」


「職質…!?も、もちろん!」


「良かった!」


ようやく私の背筋が伸び団子虫から人間へと戻った。

そしてこのやり取りで疲れてしまったので、ファミレスで夕飯を摂って帰ることにした。この1~2ヶ月後、髪の黒い部分が出てきてちょっとカッコ悪くなる等と知る由も無く。

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