第40.5話 愚者の持ち寄り
秋沢氏の強かな提案で社に置かれていたものと同じ銘柄の酒(180ml、540円也)を買わされたその日の夕方、私は秋沢氏と晩酌をしようと思いせっせと準備を進めていた。
冷蔵庫で例の酒を冷やしつつ、テーブルに硝子製のお猪口を2つ並べ、特売品の鶏むね肉で大量の水晶鶏を作る。水晶鶏はつい最近ネットで存在を知ったもので、ツルツルとして光沢のある見た目が涼しげで美味しそうなので一度作ってみたいと思っていた。
せっかく良さげな酒を買った(買わされたけど)のだから、美味しい料理と共に頂かないと。秋沢君帰ってきたら大歓喜するぞ。秋沢氏が真ん丸とした大きな目を輝かせる様を思い浮かべながら出来上がった水晶鶏にタレをかけていると、玄関の戸が開かれ「ただいま」と秋沢氏が入ってきた。その手には近所に新しくできたフライドチキン屋の箱が提げられており、思わず「へえっ」と声を滑らせてしまった。
「そ、それ、あの、1羽単位で売ってくるトコの…」
「うん、初郎君が食べたいって言ってたトコ。せっかくお酒買ってもらったし晩酌を…」
秋沢氏もこちらの水晶鶏に気づいたようで「へえっ」と声を滑らせた。
「作ってたの…」
「晩酌の肴にと思って…」
何だか"賢者の贈り物"みたいだね、と笑うと秋沢氏から「全然違うわ」と笑われた。確かにお互い何も失っていないから違うか。
しかしお互い一緒に晩酌をしようと思って肴になるものを用意したというのは、私達の仲の良さが可視化されたようで暖かな気持ちになる。
これからもずっと、この子と二人で仲良く楽しくやっていけたらいいな。照れ笑いをしつつ、秋沢氏からフライドチキンの箱を受け取った。
この後、晩酌をしているところへ金本氏が焼き鳥を持って乗り込んでくるのだがそれはまた別のお話。
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