第29話 覗き込む

私は同居人の秋沢氏と、1つの部屋に布団を並べて寝ている。お互いの寝相はあまり良くなく頻繁にお互いの領地を侵食しがちで、そのせいなのか秋沢氏と身体が入れ替わるという珍奇な事態に陥ったことがある。

しかし寝相と関係無しに、珍奇な事態に陥ったこともある。それは4日間に渡り続いた。



まず最初の夜、シリアルキラーに追われる夢で目を覚ました私の顔を、秋沢氏が自分の布団に腰かけてじっと見下ろしていた。思わずギャッと悲鳴を上げ「何してるの」と訊くと、秋沢氏は何も言わず布団に入り寝入ってしまった。



2日目、腕中に謎の水ぶくれができる夢で目を覚ますと、例によって秋沢氏が私の顔を見下ろしていた。ただ座っている場所が少し違い、前日は彼が寝る布団の真ん中に座っていたのが、今度は私の枕元に移動していた。「何してるの」と訊くと、彼は例によって無言のまま自分の布団に潜り込んだ。



3日目、もしや悪夢に魘される私の反応を楽しんでいたのでないかと思い、試しに寝たフリをしてみた。しばらく目を閉じ、頃合いを見て薄く目を開く。

秋沢氏は見ていた。しかも前日から更に移動し、今度は自分の布団と私の布団の境で四つん這いになり、グッと身を乗り出して私を見ていた。


「え、ねえ本当に何してんの」


薄目をカッと開き問い質すも、秋沢氏は例によって無言のまま布団に潜り込み、そのまま寝息を立ててしまった。



4日目、私は秋沢氏に背を向けて微睡んでいた。そして何となく寝返りを打つと、突如視界が秋沢氏の顔で埋まった。いつの間にやら秋沢氏は、寝返りを打った私の顔がちょうど自分の真ん前に来るように横たわっていたのだ。


「ね、ほんと大丈夫?」


問い質すも秋沢氏は無言で寝入るのみだった。



翌朝、私は秋沢氏の前に朝食のトーストを置きながら「なんで僕のこと見てたの?」と尋ねてみた。


「は?見てた?何?」


眉をしかめて問い返してくる秋沢氏の瞳は真っ直ぐと私を見つめており、夜中の奇行について全く自覚していないことを物語っていた。

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