第14話 邪魔者

例によって飲み会に出掛けた秋沢氏を、私が迎えに行くまでの話。


ある週末、例によって繁華街で開催された飲み会でしこたま飲まされた秋沢氏は、気づいたら繁華街の中心にある公園のベンチに座っていた。回らぬ頭で辺りを見回す秋沢氏。彼の隣には同僚の女性が座っており、秋沢氏が「部長は?」と尋ねると女性は「もうお開きになったでしょ」とやや呆れ気味に答えた。


「えぇ~もう?」


「もうって夜の10時だよ今」


「そうなの?」


僅かに回る視界の中にスマホの画面を映し出そうと懐をまさぐる秋沢氏の頬に、女性が徐に手を添え、そっと自分の方を向かせた。


「あの、もう夜遅いしさ…」


女性の声音が何か誘いかけるように色気を帯び始め、視線が秋沢氏の右後方へと注がれ出した。女性の視線の先にあるのは、白熱灯のような色の電灯に照らされ、運営会社の名前がデカデカと浮かび上がったピンク色の建物。特定の層向けに建てられたホテルである。女性は以前から秋沢氏とそういう関係になることを望んでいたらしい。女性の熱を帯びた目線が秋沢氏へと移る。

しかし当の秋沢氏の目は女性の後ろ側、十数m先に注がれていた。そこには骨と皮だけしか無いような細く色白の足を引きずり、同じく細く色白の腕を乱雑に振り回しながら迫ってくる、黒いワンピース姿の女の姿があった。

秋沢氏は泥酔した人が自分達の方に向かっているのかと思ったが、その顔は生気を感じられない程青白く、しかしその目は何らかの熱を帯びて秋沢氏達を睨みつけていた。

あ、これやばい奴だ。秋沢氏の酔いは一気に覚めたが、恐れからか声を出すことはままならなかった。


「どうしたの?」


同僚の女性は背後に迫る脅威に気づいておらず、あらぬ方向を見つめる秋沢氏を訝しむ。

そうしてとうとうすぐそこまで迫ってきた者の細い腕が女性の背中に触れかけたその時


「おう景気良かやねェ兄ちゃん」


私が現れたのである。

迎えの約束を忘れてレディとよろしくやっている親友の姿に何だか出し抜かれた気分になった私は、下手な九州弁で秋沢氏に圧をかけてみた。秋沢氏は私の顔を認めるなり目を丸くし、辺りを見回し始めた。そうして黒いワンピースの人物がいなくなっていることに気づき「あぁぁ~」と安堵の声を漏らした。

ただし直前に秋沢氏の身に起きたことなど知らない私の目には、逢瀬を阻害された彼が悲鳴を上げているようにしか見えなかった。


この後、突然現れた眉なし男に戸惑う同僚の女性を一人で帰すのも何だか癪だと思った私は彼女の為にタクシーを呼び、秋沢氏を深夜営業のパン屋に連れ込んだ。

名物のクリームパンから少しお高いパンまで財布を軽く圧迫する程奢らせたハズだが、彼は見ていて引く程嬉しそうにしていた。

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