第11話 火傷の記憶と彼の素性
事故物件の件等でお世話になっている知人の但馬氏は、右目付近の皮膚が火傷により変色している。
私はコンプレックスかもと考えて火傷について触れないようにしていたが、つい先日、金本氏との待ち合わせで来ていた喫茶店にて偶然出くわした但馬氏の口から火傷の話が出てきた。
「この火傷自体はしょうもない原因でできたんですけどね、それに関わる話が黒牟田さん的に面白いかなーと思うんですよ」
以下、但馬氏の話。
但馬氏が火傷を負ったのは約20年前。大学生だった但馬氏が住んでいた寮で起こった火事によるものだった。火事の原因は一人の寮生による煙草の不始末だ。
当初、但馬氏はいち早く火事に気づいた為、他の寮生と共に外へと脱出しきっていた。燃え盛る炎に包まれた寮を皆で眺めながら消防車の到着を待っていた但馬氏は、ふと寮の中から子供の声が聞こえることに気づいた。
但馬氏はそのことを他の寮生達に伝え、彼等が止めるのも聞かずに再び寮の中へと突っ込んでいった。
子供の声は食堂から聞こえており、但馬氏は煙を吸わないように気をつけながら燃え落ちる天井板や柱を避け、耐え難い程の熱気に満ちた食堂の中で子供を探した。しかし子供は見つからず、次第に火の手が激しくなったので但馬氏は胸糞悪さを覚えながら寮から脱出した。
「で、その時に天井板か何かの破片がここに当たっちゃって」
但馬氏が火傷を指しながらハハハと笑う。
「めちゃくちゃかっこいいですね…子供の声が意味わかんないけど」
但馬氏の正義感に胸を熱くしながら返すと、但馬氏がそれでね、と私を指した。
「鎮火した後に警察が火元を調べてたらですね、見つかったんですよ。子供」
私の身体から血の気がサーッと引いていった。いたんじゃないか、子供。
「でもこれがね、骨だけなんですよ」
「骨だけ」
「しかも全然焼けてなくて」
「や、やけてない」
「なんで焼けなかったかはともかくとして、つまりこれって寮が火事になる前からその骨が存在したってことでしょう?」
もう私の身体は血の気が引く等という可愛いものでは無くなった。全身から血を抜かれたように気が遠くなった。
「だから黒牟田さん的に面白いかなーと…大丈夫ですか?」
「いや大丈夫じゃないです…もしかして事故物件調べるようになったきっかけってそれですか?」
「いや関係ないですね」
「関係ないんかい…」
ちなみに警察が白骨遺体を行方不明の子供のデータと照合してみたそうだが、どの子供とも一致せず尚且つ年齢や性別すら判別できなかったらしい(又聞きなので信憑性は不明らしいが)。
ミステリー的にもホラー的にも恐ろしい話のせいで冷えきった身体にホットコーヒーを流し込んでいると、待ち合わせ相手である金本氏が現れた。金本氏は私の向かいに座る但馬氏を見るなり「おー!」と満面に笑みを浮かべた。
「へんしゅーちょー!」
え?編集長?聞き間違いか?
金本氏に軽く手を振りながら但馬氏に視線を戻すと、いつの間にか彼の手に名刺が携えられていた。名刺には金本氏の所属する出版社の名前と、"編集長"の文字。
「え、あの、但馬さん」
「執筆をお願いしたまま、なかなか納品してくれない記事がありますねぇ…」
笑みを浮かべる但馬氏の顔からドス黒いオーラが放たれていた。
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