■033――謀略の帰結
フィン王国の中心に位置する首都フィナレント。
住人は戦乱を逃れてそのほとんどが疎開をし、かつては二十万の人口がいた都市も今では生きる住民は貧民街に少数残るのみで、動く住民のほとんどは屍人という有様だった。
実際現地に到着すると、都市の関門前は傭兵が守っているとの前情報だったが、帝国主導の包囲網再形成の動きを察知したのか、屍人兵の群れが徘徊しているだけだった。
「逃げ出しようだね。まぁ、どう見ても水や食料があるようには見えないし……じゃあ打ち合わせ通りサリシスちゃん、お願い」
ゲンマはインベントリから巻物を取り出し、彼女に渡した。
「カンナヅキ……」
「わかった《 アシマン 》!」
俺は彼女の肩に触れMP譲渡のマギアを使用した。彼女の体が青い光に包まれる。
「《 パレス・カテドラルの聖なる調律よ・彷徨う不浄を清め給え 》!!」
サリシスの澄んだ声が空虚な都市に響き渡り、屍人の群れは浄化されて、その場に崩れ去った。
「これで、中レベル以下の屍人兵は駆逐できた筈。あとは少数の高レベルの奴と召喚された魔物たち……それくらいかな。ボク達だけで十分でしょ」
「油断はするなよ、ゲンマ」
俺は楽観しているゲンマに釘を刺した。
「わかってるって」
「本当に大丈夫なのですか?ゲンマ様……我々だけでもお供に……」
帝国から派遣されてきた軍を率いるレイモンドは不安そうな表情だ。
今回のメンバーは、俺、ゲンマ、モジュロー、サリシス、モモちゃん、森川、テルさんの七人。
「大丈夫だよ。君達は包囲網の維持に専念して……それと、抜け駆けして略奪に走ろうとする“友軍”がいたら牽制してね」
ゲンマの返答の後半は小声で囁くように言った。
レイモンドはハッとした後、重々しく頷いた。
この都市は今後も国の中心として運営していく予定だ。
火事場泥棒など絶対に許してはならない。
□
関門から王城に向けて都市を駆け抜ける途中、何度か上級屍人兵である骨騎士の小集団が現れた。
「セラちゃん!」
モモちゃんの呼び出した熾天使が、三対の羽に包まれた身体から両手を広げると、天から聖なる輝きが降り立ち敵を貫いた。
「もうじき城門です!」
先導するモジュローが叫ぶ。
「それにしても本当に人の気配が無いね……おっと、門が見えてきた」
城門は激しい戦乱ですでに壊されたのか見る影もなく、その代わりに防衛戦の時に侵攻していた腐肉のゴレムがそこに鎮座していた。
「これは文字通りの門前払いだな……」
ここの住人は余程
「冗談抜きでどうする?“れーるがん”はここに無いし……?」
ゲンマは顎に手を当てて悩む。
「んー?よく分かりませんが、“物理”で殴ればよろしいのでは?」
テルさんはニコニコしながら指を鳴らしている。
「……お願いします」
――ドゴォォォォォオーーー
鬼耐久の腐肉のゴレムはテルさんの腰を落とした正拳突きで粉砕された。
□
門を潜った俺たちの前に立ちはだかったのは、以前、プリムム村を襲撃した三下魔術師と三体のベヒーモスだった。
「エンダー・ル・フィン!ここが貴様の墓場だ!!」
三体の魔獣は一斉にこっちに向かって襲いかかってきた。
「ワンパターンなんだよなぁ……」
俺は魔剣ソウルモンガーを抜いた。
魔剣の歌声が響き渡る。
ベヒーモス達より、俺のレベルが十分に上回ったのか、彼らは苦悶の唸り声をあげ、勢いは目に見えて衰えた。
サリシスは素早く前に飛び出し、聖剣を抜く。
手前の二体の魔獣は、クロード先輩直伝の居合術で真っ二つになった。
「はいっ――や!!」
残った一体もテルさんの一撃であっさり倒れて動かなくなった。
「はぁああーー???」
魔術師は自信満々で繰り出した手駒が瞬殺されたのを見て激しく狼狽する。
「まだやんのか?」
俺が魔剣を向けると魔術師は恥も外聞もなく逃走した。
□
俺たちは難なく城内に潜入した。
城内奥の四方から絶えず屍人の唸り声が聞こえてくる。
王城はエンダー君の実家の筈だったが、長い間死霊たちに支配されていたせいか、その空気感は廃墟のそれになっていて、安心感のかけらも残されていなかった。
「玉座の間に人間の反応があるよ。急ごう」
ゲンマは事前に作成した城の間取り図を広げて言った。
「では、私が引き続き先導します……玉座の間へは大広間を通るしか道はないです」
モジュローは俺たちを大広間へ続く扉の前まで案内した。
「この先に何があるか分かりません。気を引き締めてください」
彼はその豪華で重い扉を開けた。
□
扉を開けると、華やかな舞踏会の光景が飛び込んできた。
楽団の奏でる音楽にあわせ、着飾った男女が円を描くように優雅に踊っていた。
一瞬、なにかの幻術にかかったのか訝しんだが、踊っている者達の表情に生気が無いのに気がついた。
全員屍人なのか……ここにいるもの、全てが……。
「きぃぃぃぃぃ――おのれぇぇぇ――エンダー・ル・フィン!!」
おぞましい死霊の舞踏会に困惑していると、正面から空間を切り裂くような金切り声で叫ぶ女が現れた。
「招かれざる者!庶子の分際で王位を!寵愛を!妾からかすめ取ろうとする盗人風情が!四股を引き裂き臓腑をばらまき、細切れにして犬の餌にしてくれようぞ!」
白粉を塗りたくって着飾った女はヒステリックに喚いている。
「あれは正妃のドレインです、お気をつけてください!」
モジュローはそういうが、ヒス女がどうみてもマトモじゃないのは目に見えて明らかだ。
「彼女も死人だね……魔力は相当高いから、結界をお願い」
この騒動の諸悪の根源といってもいい存在なんだが、死んでるのかよ……。
《 マサ・パルマ 》《 マジックシールド 》《 バリアシールド 》
俺は慌てて仲間達に結界を展開し、魔剣を抜いた。
魔剣の歌声はドレインの金切り声とは対照的に穏やかに大広間に広がった。
「むきぃぃぃぃぃ!!!あの女ぁああぁぁ!死に追いやってなお、妾の邪魔をするのか!!」
ドレインは髪をかきむしり、幽鬼のような顔で空に浮かび術式を展開し始めた。
「――殺す!!」
ドレインは強力な魔術の使い手だったが、俺の展開した結界を打ち破るほどではなく、多数に無勢で劣勢にまわった。
周囲の屍人たちもモモちゃんの天使たちに次々に浄化されて、天に召されていった。
「あああぁぁぁあああぁぁぁ――忌々しい!この呪われし子め!!」
ドレインは魔力が底をつき、悪態をついて玉座の間に続く通路に消え去る。
「下品な女でしたね……死んでも愚かさが治らないとは救われない話です」
森川は侮蔑に満ちた目で去りゆくドレインを見る。
一息ついて後を追おうとする俺たちの前に、王妃と入れ替わるように誰かが大広間に足を踏み入れる。
一人の騎士のような男だった。
モジュローは息を飲んだ。
「騎士団長のジェラルド殿……若様の武術指南を勤めておられた方です」
年の頃二十代後半のまだ若い青年だが、その顔は青ざめていて目には一切の輝きがなく淀んでいた。
どう見ても死人だ。
その口が重々しく開いた。
「なぜ戻ってこられたのですか……ここには死しか……無様な死しか残されてないというのに」
多分、この男はエンダー君の、数少ない理解者だったのだろう。
「仕方ないだろう、生きるためには必要なんだ」
俺の返答に彼は悲しげな表情を浮かべる。
「精霊を身に宿しシステムの奴隷となり、龍族の庇護下で慰み物として生かされる、そんな屈辱的で無様な生のために、この無様な死を終わらせに来たというのですか?」
「それは価値観の相違だ。それとも、今のこの国の状態がマトモな人間の世界だと本気で思ってるのか?」
「思いませんよ……私が言いたいのは、今の私とあなたで何が違うのですか?ということです。無理やり動かされているという点ではまったく同じじゃないですか」
俺は違う、とは言い返せなかった。
少なくとも、俺に関しては。
自分の意志だけで全てを決断したとは、とてもじゃないが、自信を持って言えなかった――それでも……
「だからなんなんだ」
俺は、ジェラルドの死んだ目を見据えた。
「そんな口先三寸で終わりから逃れられると考えているのか?俺はやると言ったらやるんだよ」
俺はわざと笑顔を作ってやった。相当悪い顔になってると思う。
彼は驚いたようだ。
「……変わりましたね……若様」
彼は剣を抜いて構えた。
「残念ですが、ここを通すわけにはいきません」
「俺も残念だ……あと、悪いな。先に謝っとく」
「は……?なにを……?」
「俺は終わらせに来ただけなんだ」
真面目なエンダー君だったら、無理を言ってでも一騎打ちで戦う場面なんだろうな……でも俺はエンダー・ル・フィンではない。
負ける戦いはしない主義だ。
「聖波浄霊拳!!!」
縮地でジェラルドの背後に移動したテルさんはアンデッドに致命的な大ダメージを与える一撃を放ち、彼はこれをマトモに食らった。
「ぐっ!!!背後からとは卑怯な!!」
「あら、ごめんあそばせ、隙だらけですよ?」
エンダー君の剣の師匠で王の懐刀として名高い彼でも、レベル三百でシステム権限を持つマスターモンク相手ではどうにもならないようだ。
テルさんが繰り出す数撃で見る間にボロボロになる。
「今です!モモ様、サリシス様!」
「はい!セラちゃん、お願い!あの人を解放してあげて!」
モモちゃんの願いを聞いて天使は翼を広げ、光る羽根をジェラルドに放つ。
「ああぁぁぁ、ぐぅううぅぅぅ!」
光る羽根が死霊化した体に触れた途端に苦悶の表情で硬直した。
サリシスは聖剣を突きつけ宣言する。
「慈悲の管理者パレス・カテドラルの名の元に命ずる。不浄なる者を繋ぐ鎖を断ち切り、その魂をあるべき場所に返さん。死者よ還れ!!」
彼女は聖剣を地面に突き刺すと、光る波動は彼の元に向かって走った。
「がぁああぁぁぁぁぁぁ!!!」
波動が触れた瞬間、ジェラルドを拘束していた見えない枷が砕け散るのが見えた、ような気がした。
彼を包んでいた瘴気が塵となって崩壊していくにつれて、その表情は柔んでいった。
「わ……かさ……ま……」
彼は何かを言おうとしたが、唐突に操り人形の糸が切れたように体は前のめりに倒れ、その頭は転げおちた。
□
大広間から玉座の前と続く通路は薄暗い陰鬱な雰囲気が漂っていた。
その奥から獣の唸り声が聞こえ、俺たちは身構えた。
現れたのは、想像したより小柄な……子供のような獣人だった。
四つん這いでにじり寄るその姿は、どことなくモジュローに似ていた。
「リメンダ……!」
モジュローは微かに狼狽えた。
「知り合いか?」
「私の……試作体です……ディレイの従者だったのですが……どうやら神獣に魂を飲み込まれた模様です」
リメンダはこちらに突進するが結界に弾き飛ばされ、床に転げた。
素早く体勢を整えた彼女は術式を展開して電撃を身に纏い襲いかかった。
「させません!!」
モジュローはテラブランチを掲げ、結界を強化して突進を遮った。
リメンダは獣性を剥き出し結界に爪を立てて掻き毟るが、通路の奥から響く口笛を聞くや否や、身を翻して去っていった。
「どうやら、あちらの歓待の準備が整ったようだね。お呼ばれしようか」
ゲンマは相変わらずの軽い口調で歩みを進めた。
□
玉座の間に入ると、薄暗かった部屋に明かりが灯される。
左右に屍人の側仕えが侍り、奥の玉座に若い男が座っている。その傍らには生きた老人が一人。
こいつらがディレイとオズリックなのだろう。
ここに来るまで、長かったな……。
「わざわざ死に戻ってくるとはご苦労なことだ、探す手間が省けたとも言うがな」
「はぁ……」
何余裕ぶっこいてんだこいつら。
完全に詰んでると言うのに……。
「それにしても、自分の手を汚せぬからと他人の、女の力に頼るとはな、つくづく女々しい男だ、我が弟ながら情けないぞ」
お、挑発か?流石に無策とは思えないから何らかの仕掛けはしているのだろう。
「そっちだってロクに城から出ない引きこもりだろ?ぼっち乙」
俺が軽いカウンターを返すと、明らかにムッとした表情になった。
思いの外、煽り耐性は低いようだ。
「……産まれながらの王は玉座から動く必要などない。言葉で人を動かすのが王の役目。自ら世界を渡り歩くなど、人足の仕事である!」
もっともなことを言ってるようだけど、気にはしてるんだろうな。
「井の中の蛙大海を知らず、だな……」
「……っ!」
露骨に頭に血が上った表情になるが、それでも玉座から動こうとはしない。
何か仕掛けがあるのは確定だな。
俺は横目でモモちゃんを見るとしっかり頷いた。
「……どうやら少しは減らず口を叩くことを憶えたようだが、味方が増えたくらいでいい気になるな、この妾腹が……」
「あー、調子上がってきた所悪いが……」
俺は手を振ってディレイの言葉を途中で遮った。
「俺はお前と長話をしに来たんじゃないんだ」
相手は自分が何を言われたのか分からないという顔をしたまま固まった。
「俺は全てを終わらせに来た。お前たちのくだらん謀略にケリをつけにな」
そういって俺は指を鳴らした。
それを合図に天井から黒い影が目にも留まらぬ速さで着地して二人に何かを突きつけた。
――パチッ
小さな明滅の後、二人は声もなく崩れ去り身動き出来ぬまま痙攣しだした。
今後の計画のために、どうしてもディレイ、オズリックの両名を死なないように無力化する必要があった。
オクルスの分体能力は非常に強力だが、諜報としての性質上、人目に触れさせられない――特に一箇所に複数人いる所を人に見られるのを避けなければならない――点が運用に制限をつける理由だった。
そこで、モモちゃんがテイムしたゴブリンからステータスの高い個体を抽出してシグレの指導で訓練させた所、何体かが忍者のクラスを取得できた。
今回は彼らにターゲットを無力化させるため、予めスタンガンを持たせて天井に潜ませておいたのだ。
「トラップは?」
「解除してあります。毒ガスを使う予定だったみたいです」
なるほど。
俺たちの内の誰か一人でも仕留められれば死霊術で逆転可能と考えていたようだ。
二人は既に拘束された状態で床に転がされていた。
「オズリックは後から来るオクルスに引き渡してくれ。それまで逃げ出さないように見張っていてくれ。絶対に自害させるな。後で使うからな」
「はい!」
モモちゃんとゴブリン忍者は敬礼した。
「それと……」
俺はディレイに目を向けた。
彼は見開いた目で俺を見ていた。
俺はコイツのことはよく知らないが、それでも言いたいことは山ほどある。
「あのなぁ……何で、わざわざ自分から逃げ出したような奴を追い込むようなことをしたんだ?俺はこの国のことなんてどうでもいいというのに、しつこく殺しに来るから、ここまで来ることになったんだぞ?分かってるのか?!」
ディレイは硬直したまま冷や汗をかいてる。
「お前がした事は確かに人としてどうかしているとは思うが、まぁ、気持ちは分からんでもない。この人間領域がクソだというのはまったく同感だからな。いっそのこと国ごと潰してやったらスッキリするだろーなーとは俺も思った。でもな……」
俺は奴の目を見据えた。
「俺の大事な安住の地に攻め入り、友達を殺そうとした事は絶対に許さん。その一点だけでも貴様は万死に値する」
ディレイは開いた口をピクピクさせながら言葉を絞り出した。
「お……お……お前は……誰だ……?」
彼の疑問は予想外に俺の心の深い所に刺さった。
「ふむ……それは興味深い質問だが……お前がそれを知っても最早どうにもならん」
「……なんだと」
「いと、尊き御方!叡智の管理者パレス・ビブリオン様!」
俺は両手を広げて高らかに叫んだ。
「生贄を照覧あれ!」
俺がそう宣言するとディレイの横たわった床に黒い円が広がり、彼は奈落――タルタロスへとゆっくりと堕ちていった。
「――でぃーしゃま!!」
どこかからか飛び出したリメンダはディレイに縋るようにしがみつき、二人は暗闇に満ちた空間に堕ちていった。
二人の姿が暗闇に溶け込み見えなくなった時、穴は消え去った。
ディレイが消えると同時に、左右の側仕えが身悶えして塵に還ってゆく。
「あああぁぁああぁぁぁ!!口惜しい!口惜しい!!」
空中に漂いながらドレインは髪を振り乱して襲いかかってきたが、モモちゃんの天使たちの攻撃であっけなく消え去った。
「……エンダー様」
囁くような可憐な声が耳に入り思わず目を向けると、美しい少女が微笑んでいる。
「……ありがとうございます」
青白い肌の少女は側仕えと共に消え去ろうとしていた。
俺は反射的に駆け寄ろうとしたが、彼女は触れる前に完全に塵となって崩れ落ちていた。
「誰だ?」
「ディレイの婚約者のオフィーリア様です……若様を兄のように慕っておいででした……」
モジュローは俯いてそう呟いた。
「あいつ、自分の婚約者も手に掛けていたのか……」
「ディレイは予てより彼女の不義を疑っておりました……そして、あの日、若様の逃亡を助けるために彼女は身を呈して犠牲になったのです……」
そんなことがあったのか……。
「なぁ、モジュロー」
「はい」
「俺は誰なんだろうな……?」
「……急にどうしたのですか??」
振り返るとみんなが俺を見ていた。
その眼差しの暖かさに少し救われた気持ちがした。
特にゲンマは物凄くご機嫌だった。
ガーラは好きにしてもいいとは言ったが、流石に龍族が人間領域で大暴れするのは不味いだろうと、今回ゲンマはあくまで見届け人として同行することで作戦会議で意見統一したが、本人はその決定には不満そうだった。なのにどうした?
「お前、随分機嫌いいな……どうした?」
「カッコよかったー!」
「はぁ?」
「すっごくカッコよかったよー!ちょーイケてたー」
コイツ何言ってるんだ?と思ったが、モモちゃんも森川も激しく同意と言わんばかりに頷いている。
「ええ、特に一つの国を滅ぼすという大それた行為の行動原理が大文字の正義や社会規律ではなく個人的私情である点……やはり、先生の本質は“悪”だと再確認しました……いいものを見れました」
森川は陶酔した目で虚空を見ている。大丈夫か、おい。
「分かってませんね……森亭さん。先生の本質は“善”ですよ。先生の善性はあまりにも“本質”に迫りすぎているから、私情に基づいた行動でも最終的には“善”に寄るんです。先生が持っている現実湾曲フィールドによって、悪も偽善も全てを善に矯正するんです。つまり先生こそ究極の善ともいえる存在なんです!」
モモちゃんも目がキラキラしてるけど言ってることがマジで理解できん。
「ふっ……また、お得意のイデア論ですか?あなたの論理はこじ付けが過ぎるんですよ」
「そっちこそ、いい加減、厨二病は卒業してもいいんじゃないですか?悪が栄えたためしはないんです!」
「本当に最高に人をイラつかせるのがお上手ですよね。そこは評価しますよ。そ・こ・だ・け・は。まぁ、ファン
「むっかー、そこ、今、強調しますぅー?性格悪すぎですよ!!」
………………仲良いな……こいつら……なぁ、ゲンマ。
「カッコよかったー!」
まだ言ってるのかよ。語彙力どこに置いてきた?
「ところでさぁ、ゲンマ」
「何?」
「俺って誰なんだろうな」
「んん?」
「俺は善なんだろうか、悪なんだろうか?」
「んー、どっちでもいいんじゃない?」
「……なんだよそれ」
こっちは真面目に聞いてるのに。
「どっちだとしても、ボクの友達には変わりないよ!」
…………俺はゲンマの顔を凝視した。
「……お前っていい奴なんだな……」
「今更!?気がつくの、ちょっと遅くない??」
テルさんとサリシスはこのやり取りに破顔して笑った。
□
その後、合流したオクルスとみんなで城内をくまなく調査し、安全性を確認した後、ジェームズたちレジスタンス軍を招き入れた。
以前より打ち合わせた通り、ディレイは取り逃がして行方不明として処理する予定だ。
戦乱の多い人間領域内での無駄な戦争に対する潜在的脅威として抑止力の期待があるが、血の気の多い輩が多いこの地では束の間の平和は長く持たないだろう。
それでも数ヶ月でも平和な期間があった方が多少はマシだ。
こうしてフィン王国の死霊によって呪われた治世は終わりを迎えたのだ。
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