第4章 神話の胎動

■a005――オルトの視点―恐るべき子供達〜ダンジョンの秘密

 長い事この変化に乏しいプリムム村に住んでいて、退屈にうんざりしていた日々を懐かしく思う日が来ると、少し前の自分に伝えたらとても驚くだろう。

 三ヶ月前、カンナヅキが転移してきてからの数々の事件も、それはそれで十分に驚異に満ちた体験だったが、それでも世界を構成する枠組みを変える程の変化ではなかった。

 しかし、ここ二週間の間に起きた出来事は、僕が今まで積み上げてきた常識や体系を破壊する程の大きな出来事だった。



 新たに転移してきた彼らは自らをMTP――狂茶会マッドティーパーティと名乗った。

 転移してから始まった十日間の忙殺期間が過ぎた後、状況が落ち着いた彼らは詳しい身上を語ってくれた。


「私たちは、神無月先生のファンの集まりなんです!」

 そういうのは最年長らしいピンクの髪の女の子で、彼女はモモと名乗った。

 ただ彼らは“クロウサ”さんとも呼んでいる。

 彼女がカンナヅキが言ってたモモなのだろうか。

 確かにとても愛らしい少女で、カンナヅキが想いを寄せるのも理解できる。

「えー、本当ですかー?もー先生ったらー」

 真っ赤になって両手を頰に当てて照れるさまは見ていても微笑ましい。

「あの野郎……何人の女の子に手を出してんだ……」

 ジョイスの殺気が若干高まったように感じるが気のせいだろう。

 彼女はジョイスの宿屋の仕事の手伝いをする合間にカンナヅキの住んでいた部屋を見学したり、彼の村での冒険話を目を輝かせながら聴き、その足取りを追いかけていた。

 村長曰く、彼女はテイマーという魔獣を使役する職業で、龍王国では珍しいと言っていた。

 気性が荒い事で有名なジョイスの飼っているニワトリをペットのように手懐け、彼を驚かせていた。


「あ、オレは違うぜ!なんせオレは字の本はラノベと“なろう”しか読まないからな!」

 と、言うのは最年少の少年で自らをトオルと名乗った。

 見たところ金髪の普通の少年のように見える。

「オレは自分を勇者だと信じてやまない一般少年だぜ!ねーちゃん達が異世界に行く相談してるのを聞きつけて無理やり着いてきたんだぜ!」

 言っている事はよく分からないがジョイス曰く素直で仕事もよく手伝い、地道な剣の稽古にも文句も言わず食らいついてきて中々見所があるとの事。

 恐らく、駆け出し冒険者の頃の自分に重ね合わせているのだろう。

 村長の孫のクインとはすぐ仲良くなり、よく一緒にダンジョンに潜っている。


「そんな事自慢げに言う事じゃないでしょうに……正に愚弟!」

 氷のように冷たい目でトオルを見下すのは、その姉のジュンだ。

 彼女は黄緑がかった豊かな金髪のスタイルのいい美少女だ。

「ねーちゃんみたいな完璧超人と比べたら誰だって愚弟だろ!オレは“普通”なの!普通で何が悪い!」

「まったく、普通なら普通なりに努力しなさい、向上心がない事を開き直るなんて最低!」

「オレはオレなりに努力してるんだよ!この世界で冒険者として自立して自由に生きるんだ!」

 村長は姉弟だという二人を見てトオルに「今まで苦労して来られたのでしょうね……」と労った所をみるに、二人の実力差には埋めがたい差があるようだ。

 彼女の職業はヴァルキリーという見たことがないものらしい。

 ジョイスは一、二度彼女と手合わせをしたが、

「戦闘センスが人間離れしている。レベルが上がったら最強クラスも十分狙えるだろう」

 彼女は普段はリーダーのデンの助手をしている。


 一行をここに連れてきたのは彼らしい。

「システムの修復を手伝う代償にこちらに転移してきたんです」

 銀髪の思慮深い性格が伺える外見で、少年から青年に移り変わる年頃だろう。

 村長が見るにかなり高貴な生まれであるらしく、職業はジーニアス。何をする職業か見当もつかないとのこと。

 彼はシステムの加護の元に、その能力を持って今現在列強諸国で起こっているトラブルによるシステムの損傷を修復する目的で来たらしい。

 冬の間の今、結界により外界から隔絶されたこの村は秘密の作業をするには丁度いい環境らしい。

 村長の元にシステムから直接通知が来て、この事は口外厳禁で彼らの要望は出来る限り聞きとげるべしと厳命された。

 この村に護衛任務に来ているゲンマ様の眷属は龍王ガーラ様に報告しなくていいのかと、聞いてきたが、村長は王族にはシステムから連絡が行くと伝えこの件に関しては通知は送らないようにと重ねてお願いしていた。

 というより、彼らが来てから外部に通常の通知の送受信は出来なくなっていた。


 色々村内で相談した結果、僕の家の作業室を仕事場として使用することになり、彼はほとんどそこで寝泊まりした。

 僕はデンとジュンからの要望――メモに書かれたシリアルコードをスキャンしてアイテムを取り寄せる役目を受けた。

 彼らが発注したアイテムはどれも初めて見るものばかりで、“ノートパソコン”や“タブレット”というシステムにアクセスできる高機能のアイテムから、“コーヒー”や“コーラ”といった趣向品まで多岐にわたっていた。

 途中で人手が足りないとの事で、僕まで手伝う事になったが、一番単純な作業でも十分難しく、カンナヅキとのEDKでの作業経験がなかったらそれすら務まらなかっただろう。

 最初の十日間は寝食を忘れて作業に追われ、終わった後は丸一日眠り続けた。



 目が覚めると彼はシステムに要望を出し、アイテムのシリアルコードを得た。

 それは太陽光で使用済みの魔石を再生させるという、とんでもないアイテムだった。

「ただ、冬季だからか効率はあまりよくないですね。消費電力の少ない携帯機器に使うにはギリギリ実用範囲内ですが、ストレージの稼働等に使うにはさらなる改良が必要でしょう」

 魔石の再生は現在、龍族にしか出来ない御技で、それによって現在の龍王国の繁栄が支えられているといっても過言ではない状況で同じことをあっさりやってのけた彼に驚きしかなかった。



 僕はどういう経緯でここに来たのか彼に聞いてみるとこれもまた理解を超えた内容だった。

 彼らの世界には人間が自力で構築した“インターネット”というシステムがあり、そこでは“ケイジバン”なる文字や画像で世界中の人と議論や交流をする場が無数に存在して、カンナヅキのショウセツについて語る場所もそこにあり彼らはそこで出会ったらしい。

「カンナヅキはそんなに有名な人だったの?」

 僕がこういうと彼らは一様に微妙な表情になり、

「先生はすごい方なんです!すごすぎて思考停止している凡人には理解できないんです!」

 と、モモが必死に語っているのを見て僕はなんとなく察した。


 ともかく、その世界で一番規模が大きいケイジバンに二年前のある日、“1024”なる人物が一枚の画像を謎と共に投稿した。

『我々は“本物”を求めている。これから出す謎が解けた者だけが最終問題にたどり着ける』

 後に“モス1024”と名付けられ記録に残ることになる事件の発端である。

 投稿されたそれはモノクロで描かれた蛾の画像だった。

 これを見た物好きな暇人たちは謎解きにこぞって参加したが、謎の難易度は投稿毎に上がっていき、最終問題の手前でついに数学上の未解決問題まで登場した。

 参加者の多くのは手の込んだ悪ふざけ、イタズラと結論づけて離脱していったが、諦めなかった者は少数ながらいた。

「でも最終問題までたどり着けたのは私だけでした」

「あら、私も協力したでしょう?」

「そうだね。ジュンのひらめきがなかったら解く事は出来なかったよ」

 二人は最終問題を解き、1024と対面する。

「それが、システムの使者、ウラニア・ムーサだったんです。システムの修復を手伝える人材を探し求めていて人間を試していたんです」

 システムは旧支配者が上位存在の力を借りて作った文字通り人知を超えた構築物だ。

 それを一部とはいえ、その構造に直接関わる仕事が人の身で出来るのは驚きを超えて畏怖すら覚える。


「あのー、これは私たちでもびっくりですから、エイトさん……いやデンさんが特別すごいんであって、決して普通じゃないですから!」

「そーそー、オレとモモねぇは普通だからな!普通!」

 モモとトオルは“普通”をひたすら強調する。

「それで……四人、いや、三人はカンナヅキを探す為にここに来たの?」

「そうですね……神無月先生を探す事は目標の一つです」

「一つ?他にもあるのかい?」

「先生と、もう一人、森川さんという人も私は探しています。元の世界で失踪したまま行方不明になっていて、こちらに来ている可能性が高いんです。九ヶ月前に会う約束をしたんですが、待ち合わせ場所に来なかった上に連絡が全くつかず、人を雇って調べても足取りが掴めないんです……何かの事件に巻き込まれたのは間違いないようで……」

「その人は友達なの?」

「私はそう思ってました……もっとも実際に会った事はありませんが」

「えっ?」

 僕は驚いた。一度も会った事がない人が友達だとか、ましてやその人を探しにこんな辺境にまで来るなんて意味がわからなかった。

「ネット上だけの付き合いだったんです。それで初めて会う事が出来ると思って楽しみだったんですが……黒ウサさんは面識が会ったんですよね?」

 彼はモモに問いかける。

「ええ、先生絡みのイベントには毎回参加してましたから」

「悩みを抱えていたのはわかっていたんですが、もっとこちらから親身になっていれば良かったって、ずっと悔やんでいます」

 この世界でも知的階級の間で文通での交流は密かに行われているが、それを発展させたものだろうか。

 少なくともこの世界のシステムより高い使用範囲の自由度は羨ましいの一言だった。


「厳密にいうと私の目的は別だけど……」

 ジュンはそういうと普段の冷たい印象とは打って変わって急に恋する乙女らしい表情に変わった。

「また始まった……」

 それを見たデンはなぜかうんざりした顔をする。

 ジュンは両手を胸の前で組んでうっとりした顔で言った。

「私はウサギお姉様にどこまでも着いて行きますわぁ!」

 部屋の空気が若干凍りついた。

「私の使命はウサギお姉様の身の安全を守り、その幸せを追求することをどこまでも手助けすることにありますの。あとついでにこの星の自然環境を悪の手から守り、ついでのついでに神無月先生の安全を守り、その上で余力があったら一応婚約者のデンの手伝いをすることですわぁ」

「あ、ありがとうね……ジュンちゃん」

 モモはこの告白にかなり戸惑っている。

「私が婚約者だってことを忘れてないのはありがたいね。本当に助かるよ」

 デンはかなり不機嫌な表情で嫌味を言った。

「あら、拗ねてるの?デン。でも、あなたの事はどっちかというと好きだから安心して?」

「でもさ、黒ウサさんは神無月先生が好きなんだよね?そこの所、どう折り合いをつけるの?」

 このデンの言葉にモモは顔を真っ赤にして俯いた。

「ふふふ、その点については熟慮に熟慮を重ね、その結果、私は驚くべき事実に気がつきました!」

「へぇー、それは何?」

 ジュンは胸を張って言った。

「私、ネトラレも結構イケる口なんだと判明しまし……」

「もう、いい。それ以上は聞きたくない」

 デンはずり落ちた黒縁のメガネを掛け直し、頭痛を抑えるように頭に手を当て、ため息をついた。



 その後、モモとトオルに頼まれ彼は“スマホ”なる小さな板状のアイテムをシステムに要望をだして取り寄せ、二人はそれを使って村の中でポーズを取りながら掲げる奇妙な仕草を何度もしていた。

 何をやっているのかモモに聞いたところ、そのスマホを操作してポーズを取る自分の姿を表示して、ついでにいつも見慣れたこの村の風景や日々の食事の画像を何枚も見せてくれた。

「僕もこれを持っていたらカンナヅキの姿をいつでも見れたのになぁ……」

 と、思わず呟いたら、

「そうだ!この世界の先生ってどんな感じなんですか?教えてください!絵に描いてみますから」

 そういって彼女はインベントリから帳面と鉛筆を取り出した。

 僕は言われるままに彼の特徴を挙げていくと彼女は器用にスケッチを描いた。

「出来ましたよ!……わぁ、思ってたより面影があります!」

 彼女が描いたカンナヅキはとても良く描けていて、僕は遠く離れた所にいる友を思って少し涙ぐみそうになった。

 その後、彼女に同じものをもう一枚描いて欲しいと頼み、前の世界のカンナヅキのスケッチも見せて貰った。

 カンナヅキより一回り歳をとった、今より少し男らしい長身の男だったようだ。


「ところで、サリシスさんってどんな方なんですか?」

 どうやらジョイスはモモとトオルにまで娘のサリシスの事を愚痴っているらしい。

「うん。治療師の見習いで、普段は優しくて大人しいけど、結構頑固なところもある子かな」

「はぁー、そうかぁ……」

 カンナヅキとの通知では彼女とジョイスに対して“責任を取るつもり”的な内容も有ったし、彼女の立場も微妙なものとなった。

「実は……私分からないんです。自分の気持ちが」

 彼女は遠くを見つめながら呟いた。

「先生が参加するはずのイベントが立て続けに中止になって、動画の配信も止まって、メールの返信も全然なくて、私、いてもたってもいられなくなって、先生のマンションに行っちゃったんです、それで、色々有って、何とか面会が出来たけど……」

 彼女は暗い顔で息を吐いて続けた。

「一目で先生じゃないって、分かっちゃったんです。見た目は同じだけど、全然違う人なんだって……どうしてか自分でも分からないけど」

 僕だったら、ちゃんとわかるだろうか……それだけでも彼女の想いの強さが伺える。

「すごいね」

「私が、本当の先生はどうしたのか教えて欲しいってお願いしたら……話してくれたんです『あなたには知る権利がある。神無月先生にとって大事なひとだと思うから』と……」

 しばしの間沈黙が流れた。

「その後世界が急に色あせてしまって……自分にとって先生が思っていた以上に大事な存在なんだと思い知ったんです。その後、デンさんの呼びかけが有って、一緒にここに来ることにしたんです」

「本当に好きなんだね。カンナヅキのこと」

「はい!……でも、考えてるうちに分からなくなったんです。私が知っているのは先生の作品と、嬉しそうにイベントに出てる所とか楽しそうに料理を作ってるところばかりで……それ以外の事を何も知らないんです……だから、先生が一番大変だった時に一緒だったサリシスさんには敵わない気がするんです……そういう事をぐるぐる考えて結局……」

 僕は彼女の言葉の続きを待った。

「もう、考えないことにしました!先生に会った時、自分がどうしたいか、その時に全部決めようって、そう決めたんです!うじうじしているのって性に合わないし!」

 そういって微笑んだ彼女はとても輝いて見えた。

 それにしてもカンナヅキはどうするんだろうな。

 二人ともとっても良い娘だけど……。

「ま、まぁ、玉砕したらジュンちゃんに慰めてもらうかな……ははは」

「え……えええ?」



「やっぱりこの村のダンジョンはおかしいです」

 ジュンは夜間は宿屋でモモ達と一緒に過ごしているようで、今はデンと二人で作業室で夜食を食べている。

 ここ最近、デンとジュンの二人がこの村のダンジョンの調査をしているのは知っていた。村人たちは今更何を調べているのか怪訝に思っている。

「おかしいって?何が?」

「こんな不便な土地に作ったにしては内容が簡単過ぎるしドロップ品も大した事はないのは何か腑に落ちないです」

「それは現在だからじゃないかな?ダンジョンが出来たのは旧支配者の時代の事だろうし……」

「古代だとしてもここが不便だということには変わりないんです。転移システムがあるとはいっても、鉄道路線からは離れているし、外界から到達するには深い森や山を越える必要がある。なのにこんな初心者向けのダンジョンがここにあるというのがひっかかるんですよ」

「どういうこと?」

「私の世界の言葉で『木を隠すには森の中』という言葉があります」

「ほう、この村のダンジョンが何かを隠すための偽装であると?」

「そうです」

 彼は大きく頷いた。

「ダンジョンのマップを確認していて、大体の階層は正方形ですが、そうでない、不自然な空間がある階層が特に気になります。一階の西側、五階の中央部、十階の北側ですね。ちょっと念入りに調査がしたいです。そこで取り寄せて欲しい装置があるのですが……」

 デンにいくつかの装置のシリアルコードが渡され言われるままに取り寄せたが、一見した所、何に使うものか見当もつかなかった。



 それから二人はダンジョンに潜り装置を使って、なにやら壁や地面を計測していた。

「調査の結果、いくつか判明した事があります」

 後日、僕とジョイスが調査結果と共に相談を受けることになった。

「まず、このダンジョンの最下層の下にかなり大きな空洞がありますね。現在のダンジョンの数倍以上の深さはありそうです」

 それを聞いたジョイスは「マジか」と呟いた。

「それと、一階の壁に一部、材質が違う箇所がありました。ただ、開くギミックはわかりませんでした。別の階から何か操作をする必要がありそうです」

「心当たりはないぞ……」

「恐らくまだ未踏の領域に何らかの仕掛けがあるんじゃないでしょうか?」

「仕掛けかぁ……」

「ダンジョンにまつわる噂か、都市伝説フォークロアの類はありませんか?そういうのが意外とヒントになったりするので」

「噂ねぇ……そういえば昔、オレがガキの頃『月夜にボスの階層で上を見るな』って与太話があったな」

 ジョイスが記憶を必死に手繰り寄せる。

「なんですか、それは?」

 その話は僕も初めて聞く。

 詳しく聞くと一時期酒場で流行った怪談話らしい。

 ボス戦の最中に、ふと上を見た冒険者が天井に張り付いている女の顔を見て驚き硬直した隙にボスの突進を食らって死んだという本当か嘘か怪しい話だ。

「へぇー……でも、天井というのは新しい要素ですね」

「調べてみる?脚立か何かあれば手が届きそうだし」



「発見しました」

 三日後、二人は僕とジョイスに報告した。

「コントロールルームを見つけました」

「なんだと!マジか!」

 僕とジョイスは心底驚いた。

「十階の天井に隠れた転移トラップがあるのをジュンが発見して、そこからその階の未踏領域に転移して通路を塞いでいた敵を二人で倒した後、その先にあるトラップから五階の中央部に転移したらそこがコントロールルームでした。その際、最初に到達した私達が“管理人”として自動登録されてしまいました」

「……マジかよ……どえらい発見だぞ」

「部屋を調べた所、現在のダンジョンはベーシックモードに設定されている事を確認しました。管理人の権限でこれをアドバンスモードに切り替えられるようですが、どうしましょうか?」

「どうしましょうかじゃねぇよ……」

 ジョイスはあまりの事の重大さに頭を抱えていた。

「このバカ、後先考えずにモードを切り替えて突入しようとしたのを無理やりひっぺがして引きずって帰って来たのよ、まずみんなに報告連絡相談でしょ、と」

「ちょっと様子を見に行くだけならいいじゃないか」

 ジュンが報告する隣で当事者のデンは微かに不満の残る表情だ。

「いい判断だジュン、助かった、うむむむむむ……」

 頭を抱えたままジョイスは唸っている。

「まず村長とダンジョンの所有者である冒険者ギルド、それと王であるガーラ様に連絡する必要がある。少なくともギルドが安全を確認するまでは勝手に入っちゃダメだ。中に何があるのか、変な場所に繋がってないか専門家が点検する必要がある」

「どうやってガーラ様に連絡するんだ?通知は使えないぞ?」

「村長なら何とかしてくれるさ……それにしてもこれは春になったら大変な騒ぎになるぞ……今までの報告が本当なら、前代未聞の巨大ダンジョンの可能性もある。場合によってはこの村を外部から守る必要がある」

「何の危険があるんだ?」

 僕はジョイスに聞いた。

「ダンジョンはただあるだけで富を生む。一部の例外を除けばデカければデカイ程莫大な利益を生む。こんな辺境でも新たな利権が生まれたら国中の飢えた獣みたいな連中が群がってくるぞ」


 このプリムム村は退屈な辺境の村……それを懐かしむ日が来ることになるとは……。

 願わくば春とともに訪れる戦乱の嵐と利に目ざとい連中との攻防から、僕の大事な人たちを守ってもらえる事をシステムに祈らずにはいられなかった。

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