■020――メシアを待ちながら


――ともあれエルス族は滅びるべきである。


 俺はそう結論づけた。



 周囲はまるで地獄のお祭り騒ぎだった。

 荒廃したエルスの大地を魑魅魍魎たちは巻き込まれた犠牲者の魂をかき集めるために飛び回る。

 俺が召喚した上位存在の出現によってあちこちの空間に歪みが生じその修復には長い年月と多大なエネルギー、そして俺自身の魂が費やされるのだろう。

 俺の正面に鎮座するのは最も尊き方パレス・ビブリオン様。

 その一つしかない叡智の目で俺の一挙一動を見守ってくださっている。

 それに伴って永遠よりも長き時に退屈し娯楽に飢えている他のパレスの面々もこの世紀の一大ショーを、この世に現れた災厄の祭宴を見物に訪れている。

 無数の分体を生み出し好奇心丸出しであちこちブンブン飛び回っているのはパレス・パヴィリオン。不幸にも生き残った悪人を面白半分に追いかけ回しては弄んでいる。

 輝かしい教会のようなパレス・カテドラルからは犠牲者を悼むパイプオルガンの荘厳な音楽が鳴り響いているが、その門は固く閉ざされていた。

 蜘蛛と龍を合わせたような本体に優雅な仮面を被ったパレス・アカデミーは子供達の魂を呼び寄せ自らの保護下に置こうとする一方、弱者を虐げる者には怒りの雷を容赦なく落としている。

 全ての闘争と暴力を司るパレス・コロシアムはふがいなく死んだ戦士たちを口汚く罵り戯れに蘇らせてはまだ生きてる戦士にけしかけていた。


 この祭りのフィナーレが近づいている。

 目の前には磔にされた議長アブストラクトがいる。

 俺はその鼻先に魔剣ソウルモンガーを突きつける。

 奴はずっとブツブツと何かを一心につぶやいている。


 どうしても許せなかった。


 あの天使の微笑みと出会う前に俺から奪った者を。

 彼が作り上げたモノ全てをその土台から破壊しなければこの怒りは収まらなかった。

 たとえ自らを滅ぼしてでも。

 たとえ永遠に地獄の業火に焼かれることになっても。

 この復讐は成し遂げる。

 俺は強い覚悟を持ってソウルモンガーでアブストラクトの首を刎ねようとした。


「やめて!!こんなことをしてはダメ!!」


 いつのまにか、スピカは俺にしがみついて涙ながらに懇願していた。

「ここは限定シミュラクラ。揮発性の高い泡宇宙の一つ。本来ならここであったことはひとときの夢でしかない。でも上位存在を巻き込んで破滅を願ったら本当にあったこととして確定してしまうよ!」

「……いいよ別にもう……全部……全部滅んでしまえばいい」

「いや!そんなこと言わないで!」

「じゃあ、なんであんな夢を見せたんだ!あんな幸せな夢を……!俺を弄んだのか!」

「違う!あたしはただお願いしたかっただけ!モジュローくんをいじめないでって」


 スピカは何を言っているんだ?

 何でモジュローが出てくる?

 俺はハッとして顔を上げた。


 磔になっていたのはアブストラクトではなく傷つきボロボロになったモジュローだった。


「……ごめんなさい」


 彼は涙を絶え間なく流し、その口からはただ一つの言葉をずっと繰り返していた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 手から力が抜け魔剣ソウルモンガーは地面に滑り落ちた。

 俺の心から憎しみが消えていくのを察知した上位存在は祭りは終わりとばかりに遥か彼方に去っていった。



 静寂が戻った夢の中で俺は立ちすくむことしかできなかった。

「……どうして……いや、俺はどうすればいいんだ?」

「……モジュローくんに優しくしてあげて。あたしにはもう出来ないから」

 周囲は荒れ果てたエルスから、漆黒の宇宙を旅する宇宙船の中に変わっていた。

「あの夢は偽物だったけど嘘ではないよ」

 音のない虚空ボイドの中を滑る船。

 同胞が眠る中、スピカは幽霊のように船内を漂い、遠くに見える星明りを見つめる。

「生まれてからずっと宇宙を旅してきた。時折惑星に降り立ち現地の人たちと束の間の交流をして時が満ちたらまた何もない宇宙を漂う、星の民は気が遠くなるほど長い時間それを繰り返してきた」

 様々な形態のスピカが目の前を横切る。

 大きな翼で雲の合間を飛んだかと思うと、青い海を魚雷のように猛スピードで泳ぎ、草原を仲間たちと共に駆け抜けていった。

「疲れちゃったのかもね。あの時……逃げようと思えば逃げられたけど……でも、泣いているモジュローくんとポチを放って置けなかった」

「……泣いてた」

「ずっと泣いていたんだよ……あの子。今だって一人っきりになると泣いてるんだよ」

「……そうか……でも……あのさぁ、そういうことは早く言えよ」

「なづっちゃん……知ってるでしょ」

 彼女はため息をついて言った。

「あたし、バカなんだよ?」

「宇宙を旅する『星の民』なんだろ?」

「あんな何もないところを好き好んで旅したがるなんてバカと楽天家とお調子者しかいないよ?なづっちゃん宇宙に夢見すぎだよー」

「……開きなおんなよ」

「っていうことなんで、後はよろしく!」

「ちょっと待て、投げっぱなしか!おーい!」



 意識が戻ると、そこはモジュローの自室のままだった。

 モジュローは横でずっと泣いていた。

「ごめんなさい……」

「……泣くなよ」

 モジュローは泣き止まなかった。

「私は生まれてくるべきではなかった!」

「……お前は悪くないよ」

「何の役にも、誰の役にも立てない!」

「……もういいから」

「だから若様にも捨てられたのです!」

 ……どういうことだ?


「あの日……ディレイが謀反を起こした日、私の力が封印され逃げることしかできなかった、多勢に無勢で追い詰められつつも、身内の犠牲もあり、私と若様はなんとか古い転移門にたどり着いたのです。


 私が持っていた魔石を全て注ぎ込んで転移門を再起動して、いざ転移しようとした時、若様は転移門を結界で包み、私だけを脱出させたのです。


 転移する瞬間、最後に見た若様は笑っていました……。


 そして自分一人だけエルスに脱出したのです。深手を負った若様を置き去りにして!

 私は……私の存在は、若様にとって重荷でしかなかったのです……!」


 俺は両手で顔を覆って泣きじゃくるモジュローの背中をさすった。

「……いや、それは違うと思うぞ」

 この世界に来てから俺を狙う刺客の攻撃は決して穏やかではない。

 俺の回りにいた人たちも、いつ、どのタイミングで失ってもおかしくはなかった。

「お前を巻き込みたくなかったんだろ。お優しい若様はさ」

「……私は死出の門出にお供する覚悟はありましたが……」

「お前はきっと家族みたいなもんだから、死んで欲しくなかったのさ。拾った命なんだから素直に感謝しとけ。結果としてどっちも無事なんだし」

「……そうでしょうか」

 心に溜まっていたわだかまりを吐き出したことで少し落ち着いたようだ。

 やっと泣き止んでくれた。


「先日、ゲンブ様に言われました。『君はいつか自分の振る舞いを決めなければならない、一人で生きていくか、あなたのシモベになるか。エンダー・ル・フィンは多分戻ってこない』と……」

「あいつ……」

 そんなこと言ってたのかよ。どういうつもりだ。

「……そういうあなたはどうなんですか?元の世界に帰りたいのですか?」

「そう言われてもなぁ……」

 改めて言われても結構困るな。ぶっちゃげ帰る気はかなり、いやほとんど無いな。

「それは……若様は戻ってこないってことですよね?」

 いや、若様が俺の体でこっちに帰ってくる可能性も微妙にあるんじゃないか……ないかなー?

「あなたのいた世界は人間領域より安全でその上システムの加護まであるというのなら……戻ってこない可能性の方が高いのですよね……」

「ま、どうなるかわからんよ、その辺は。とりあえずはこれから俺と俺の大事な人が安全に暮らせる拠点をどこかに作るつもりだ。そしてそれはエンダー君のためにもなるだろう。だから……」

 俺はモジュローの目を見た。

「だから、俺に協力してくれないか?」

「……いいのですか?私で……私は生まれながらの罪人なのですよ」

「いや、お前は別に悪く無いだろ。悪いのはアブストラクトなんだから……それにスピカに頼まれたしな」

「……え?……そういえば、どうしてスピカのことを知っているのですか?ゲンブ様から何か聞いたのですか?」

「い、いや、夢に出てきたんだよ。モジュローを大事にしろって」

 ここはあまり深く突っ込まないで欲しい。マジで気まずいから。特に子供には説明しづらい。

「そうなのですか……不思議なこともあるのですね……」

 良かった。この子が素直な子で良かった……でも、もう少し疑うことも覚えた方がいいぞ。

「でも、そうなるとますます申し訳が立ちません……私は他人に迷惑をかけてばかりではないですか……」

 やっぱりこの子はちょっと真面目すぎるな。

 このままだと自責の念で潰れてしまいそうだ。うーむ。


「よし、じゃあ、俺がお前にふさわしい罰を与えてやる。心して聞け」

 モジュローは不安そうな顔で俺を見る。

「俺はこれからお前を徹底的に甘やかしてやる」

「はぁ?」

「まずはお前をお菓子漬けにする。毎日俺の手作りのお菓子をたらふく食わせてやるんだ」

「……?」

「そうした事が当然になったある日、俺は唐突にお前にだけお菓子をあげるのをやめてやるんだ。そうなった時、きっとこの世の終わりみたいな顔をして絶望するんだ。どうだ、ひどい罰だろう?」

 モジュローはこれを聞いて微妙な表情で固まった後、呆れ気味に言った。

「カンナヅキ……あなたはやはりバカなのですか……?」

「え?」

「お菓子が貰えないくらいで絶望するなんて、そんな訳ないでしょう。幾ら何でも私のことをバカにしすぎです」

「いーや、あるね。絶対絶望するね!」

「私は子供ではないのですよ?カンナヅキ。お菓子ごときでがっかりなんてしませんって」

 いや、子供だろ。俺にはそうとしか見えん。

「まったく……あなたの認識はどうかしてますよ。でもいいでしょう。あなたのような危険人物を野放しには出来ません。私がしっかり監視する必要があります」

 んなこと言ってお菓子が食べたいんだろ。まぁ、元気が出たみたいだから良かった。

「でも、これだけは約束するよ、俺は黙って消えたりなんかしないって」

 俺はそう言いつつ、モジュローの頭を撫でた。

 彼の顔が一瞬輝いて赤くなったように見えた。

「あ、当たり前です!私は絶対目を離しませんからね!」



 ともかく色々あったが丸く収まって俺はホッとして安らかな眠りに就いた……筈だった。



 気がつくとそこは見覚えのある場所だった。

 グリッド模様の殺風景な白い小部屋。テルさんが作る閉鎖空間と同じ部屋だ。

 俺の隣にはテルさんが座っている。

 そして正面には、トンボの羽を背中に生やした小さな妖精を肩に乗せた三十代の男性――モジュローが大人になったらこうなってそうなエルス族のイケメンが座っていた。

「もしかして……アブストラクト議長?」

 男はゆっくり頷いた。

「その通り。君と話し合う必要がある」


「……話し合うって……何を?」

「君は限定シミュラクラ内とはいえ、エルスを滅ぼす可能性を示した。たとえ議長退任間際とはいえ私が在任中である以上、看過できる事態ではない」

「どうするつもりだ?」

「本来なら、破滅の要素は可能であるならば速やかに排除し、それが出来ないのなら交渉、話し合いをするしかない。君の持つ加護と祝福の力は強力すぎて退任直前の私には太刀打ちできない。要求があるなら聞こう」

 要求とか言われてもな……。

 文句を言ってもスピカが帰ってくる訳じゃないし。

「あの当時、星の民は我が国と敵対関係にあった。その状況であの娘は厳重な管理下にあった研究所に無断で侵入したのだ。文句を言われる筋合いはない」

 俺の脳裏でスピカがテヘペロしてる映像が浮かんだ。お前なにやってんだよ……。


「じゃあ、おたくのプロークシーを何とかしてほしいんだけど……?」

 こっちはマジで迷惑してるんだが?

「こちらとしてはシステムと連携して出来る限りの事はした。だが、現状国内の混乱に対処する事を優先しているので今以上の援護は難しい。ただ、そちらが彼に対して如何なる攻撃をしても一切抗議はしないことは約束する」

 まぁ、言質取れただけでもいいのかな。奴は遠慮なくぶちのめす、と。


 テルさんはなんか言いたいことはある?エルスに対して思うこと結構あると思うし、いい機会だから言ったら?

「シングルトンに関してはお咎めなしですか?」

 テルさんは険しい顔で議長に問い詰めた。

「私に撃ち込まれたあの毒はガルム紛争で使われたもの。あれを保管管理していたのは当時総司令官だったシングルトンではないのですか?」

「庇いだてするつもりはないが、悪意を持って関わっていたと判断する確証がないのだ。限りなく黒に近い灰色だが、本人は毒は盗まれたと主張している」

 テルさんは悔しげに歯ぎしりをしている。

「もっとも……シングルトンがプロークシーの後を追うのは時間の問題だろう……同じメシア信仰派の私が議長の座から失脚すれば、彼の過去の悪行が明らかになる。国外で彼が暴れたら容赦の必要はない」

「エルス側でなんとかしてもらえませんか」

 こっちはもう手一杯なんだよ……。

「私が対処するにはもう時間がないのだ。龍族はこれ以上待てないようなので彼らに言ってくれ」

 まぁ、いいや。なにかあったら赤龍姉弟に丸投げしよう。


「これで全てか?」

 んんん……要求ってほどじゃないけど……。

「モジュローに何か言うことはないのか?」

「私がアレに何を言えと?」

「いや……あなたが親みたいなものじゃないのか?」

「親というのは少し違うな……血縁としては年の離れた双子の弟……私にとっては数ある作品の一つに過ぎない」

「でも、作り出して育てたんだろ?それは親も同然じゃないのか?それなのにどうして売り飛ばしたんだ?」

「エルダーエルスは生まれながらに叡智を持っている完成された存在だ。だから親に対して抱く感情は人間とは異なっている。アレは人を教え導く使命があるにも関わらず人を軽んじ見下すなど増長する傾向を見せて来たので、その対処に人のシモベとしての経験を積ませたかったのだ」

 言ってることの筋は通っているが、どうにも俺は納得できなかった。

 というのもモジュローの精神的な不安定さは心理的なものに起因しているように思えるからだ。

 それも幼少の頃、家庭環境が恵まれなかった人間特有の不安定さにしか見えなかった。

 そういう人物は成人した後でも子供じみた寂しさを抱えている節がある。

「解せぬ……私と同じ知識を与えたはずなのに……なぜいつまでたっても未熟なままなのだ」

 じゃあ、足りないのは知識じゃないって事だ。

「あなたにはないのですか?幼少の時の、直接役には立たないが今でも思い出して懐かしく感じる記憶が?モジュローにはそれが欠けているのではないのか?」

 彼は目を閉ざして思考の海を彷徨っていて、不意に目を開けた。

「ある」

 無表情だった議長の顔が微かに緩んだように見えた。

「まだ小さい時、乳母だった人が綺麗な花が咲く木があると言って森の奥の丘に連れて行ってくれたことがある。その時のことは今でもたまに思い出す」

 議長はしばし追憶に浸ったようだ。

「なるほど……あれは必要だったのか」


「これからどうするんだ?」

「議長の座を降りたと言っても国を支えるエルダーエルスには変わりない。エルダーエルスの頭数が欠けた分を補う必要がある。この国の霊的防衛の為に長期の瞑想期間に入る予定だ。私はメシアの降臨にどうしても立ち会いたい……」

「アブストラクト様……」

 議長の肩に乗っていた妖精がその頬に寄り添う。

「クリオ・ムーサ……不甲斐ない主人で申し訳ない……」

「……何をおっしゃいますか!私は最後までお供いたします!」

 二人の悲しくも睦じい様子を見てテルさんが目を潤ませて呟く。

「……クリオ姉さん……」

 ああ、あっちがお姉さんなんだ……。


 アブストラクトはこちらに向き直り立ち上がっていった。

「では、これで手打ちとしよう。武運を祈るぞ人間領域の王よ」

 閉鎖空間は真っ白い光に包まれた。



 翌朝目が覚めて俺が言った第一声は、

「なんかいいこと言った風だけど結局こっちに全部丸投げじゃねーか!」

 大事なことはいつも後から気づく。そういうものだ。


 だが、その日、エルダーエルス達からいくつかの贈り物が届けられた。


 フェサードからは香水の詰め合わせだった。

「これはかなりの高級品だね。女性への贈り物では鉄板中の鉄板だよ」

 ほーほーほー。なんでゲンブにそんな知識があるのかはさておいて、サリシスはこういうの喜ぶかな?とりあえずテルさんに日頃の感謝も込めて一つ渡しておいた。

「あらあら、よろしいのですか?ふふふ」

 あと、なぜか面識のないオブザーバーとアダプターからも届いていて、それぞれ、魔石の詰め合わせと大量の希少鉱石のインゴットが贈られていた。

「俺たち、なんかしたっけ?お返しどうしようか」

「んー、別にいいでしょ。落ち着いたら龍王国経由でお礼状を出しとくよ」

 ゲンブは何か思い当たるところがあるようなので任せておく。俺は政治の話はよくわからないからな。

 そして、アブストラクト議長からは……

「これは、エルスの秘宝『テラブランチ』じゃないですか!」

 それは長さ1mほどの先端に翼の意匠と宝玉が付いた銀色のロッドで見るからにステータスが底上げされそうな気配が漂っているアイテムだ。

「いや、実際かなり上がってるね」

 ゲンブはボソっと呟いた。せっかくなのでモジュローに渡しておく。

「いいのですか?」

「だって他に使いこなせそうな奴いないだろ。議長もきっとお前が使う事を望んでるよ」

「そうでしょうか……でも、有り難く受け取っておきます」



「はぁーやっと関門だよ。ここまできたら後はひとっ飛びだね!」

 ここからゲンブが龍形態のゲンマになって俺たち三人を龍王国に運ぶわけだが……。

「……大丈夫なんですか?」

 モジュローは思いっきり露骨に不安な顔をしている。

 それは俺が聞きたい。

 俺はなんとなくテルさんを見る。

「……私も龍に運ばれるのは初めてなので激しく不安です」

 全員不安だった。まぁ、当然だろう。

「……なんで信用出来ないかなぁ……色々改良して快適な移動ができるように考慮しているから安心してよ」

 それは無理だ。

 胸に手を当てて日頃の行いを思い出せ。

「……やっぱり時間がかかっても船で行った方が……」

「あー、やっぱりモジュロー様もそう思いますか?急がば回れですよね」

「いや、ここで俺の列車の貨物に潜入案をもう一度考慮しては……」

 俺たちはヒソヒソ相談してみた。割とマジで。

「全部聞こえてるからね?普通に傷ついてるんだからね?他の乗り物だと安全を確保するのが大変なんだから多少は我慢してよ?」


 ともかく、不安は多々あるが、このようにして俺たちは動乱のエルスをなんとか出国出来たのだった。

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