■003――初めてのダンジョン
■
俺は朝会うなりジョイスに謝った。
彼は俺の話を聞き驚いてライブラリを確認した。
「なんと……まぁ……」
「本当にすみません、まさかこんなことになるとは……キャッシュはお返しします」
「ああ、それはいいんだ……そうじゃなくてな……このクエストの記録はすでに公文書として公開されていて誰でも見れるものなんだ。だからこの文書自体はいいんだ。ただ、実際に体験した風に書かれているのに驚いたんだ」
ジョイスはライブラリの文書を読み更け、目を細めた。
「あいつらのこと……仲間たちのことを、絶対に忘れてはならないとは思っていたが……こうしてみるといかに多くを忘れているかということを思い出したよ……」
彼は大きくため息をつき俺を見ていった。
「それにしても……まるで本当にその場にいて、さも見てきたことみたいに書くものだな……」
そりゃあ、まぁ、それが仕事だからな!と、内心思ったが、ここはしおらしく振舞っておく。
「真面目な話、相応のキャッシュは支払います……」
「いや、本当にいいんだ。気持ちだけ受け取る。これからどういう身の振り方をするにもまとまったキャッシュがあるかないかの差は大きい。どうしてもっていうなら落ち着いてから出世払いってことでいい」
ジョイスの言う事にも一理あると思った俺はその言葉に甘える事にした。
「それと、今日からギルド登録してダンジョンに入るんだろ。基本、店の手伝いはしなくていいぞ。だいたいお前がホールに出ると客が増えて逆に忙しくなるから意味ないしな」
アーアーアー必死にすっとぼけてきたけどダメか。こっちとしては身体動かしてた方が気が楽なんだけどな。
「だいたいレベル一で村の中ウロウロされる方が気が気でなくて落ち着かない。さっさとレベリング済ましてこい」
□
なんでジョイスは俺がレベル一って知ってんだろうな?
やっぱり隠し事はできないようになってるのかな?
俺は朝飯を作りながらぼんやり考えてた。
ミルクと卵とパンがあるならフレンチトーストが作れそうだと思ったので厨房の使用許可をジョイスに求めたら興味を持った様で二人分作る事になった。
熱したフライパンにバターを溶かして卵液に浸したパンを両面焼く。皿に乗せ、シロップを垂らして出来上がり。
二人であーだこーだ言いながら食べていたら、サリシスとおばあちゃんも来て、また四人分作る事になった。
ジョイスはフライパンではなくオーブンで焼けばいいだろうと一度に四人分のパンを焼いた。俺に異世界のオーブンの温度調節は流石に無理だ。
厨房の中には興味深いものがたくさんあった。
ウスターソースやアンチョビのようなものはわかるが、見たことがない味覚もあった。
ソルフォンスと言う調味料がそれで、卵黄と旨み調味料を合わせたような味だった。この旨みが俺が今まで食べたものにはない味だった……魚介類の風味ではあるのだが……。ジョイスの話ではこれはメガロクォートで生産されているものでこの国では大量に流通しているらしい。炊きたての白いご飯が欲しいと切実に思う味だった。
後、何と醤油があった。これもメガロクォートで作られているらしいが、大変な高級品で特別なお祝い事でもない限り、保存ストレージの奥に大事にとっておくものらしい。
それとソイマイトと言うパンに塗るレバーパテのようなものがあった。どこかで食べたことがあるような味だったが俺は思い出せなかった。
□
朝食後、部屋に戻ると通知が来た。
開くと、俺が昨日システムに要望を出したエンチャント開発ツールの試作ができたとのこと。さしずめSDKならぬEDKだろうか。
提案者としてβテスト版が利用可能になっているとのこと。
あとで早速試してみよう。
それと、チュートリアルクエストがいくつか達成していてその報酬も届いていた。
[x]システムに寄付する――システム記念キャンデー
[x]社会貢献度を10あげる――ゴールドカード
[x]システムに1,000C寄付する――システム記念バッジ
[x]システムに20,000C寄付する――システム記念メダル
用途が不明だが、名称からも記念品っぽいのでインベントリに塩漬けで間違いないだろう。
□
「冒険者ギルド・プリムム支部にようこそいらっしゃいました。本日はどういうご用件でしょうか?」
ジョイスに聞いたところダンジョンは冒険者ギルドの管理下なので入るにはまず登録が必要とのこと。
俺はギルド支部の建物内のシステム端末を操作すると、仮想エージェントが現れた。
「登録に必要なものを確認したいのだが」
「はい、ギルドの登録に必要なのは以下の通りです。1.システムのアカウント 2.二名以上のギルド加入員の推薦 3.登録料1,000C です。」
俺は背後にいるサリシス、オルト、それと村長の孫のクインを見た。
「じゃあ、登録するので、よろしく……」
「いいよー」「わかった」「お任せあれ!」
俺がダンジョンに入ってレベリングする話を村長はどこから耳に入れたのか、孫娘のクインを送り込んできた。
クインは十二歳前後の少女で大きな棍棒を持ったサイドテールの軽装のRPGの女戦士といった感じだ。
見た目は幼いがジョイス曰く、戦闘技能は父親で村長の次男のデュオに匹敵するらしい。もっともダンジョンでしか戦闘経験がないので実戦でどれだけ通用するかは未知数とのこと。
「このダンジョンは拙者の庭のようなもの。ソロ二十分でクリアした記録も持っておりまする。カンナヅキ殿は拙者の背後で高みの見物と洒落込んでおられればよろしかろうもん!」
「今日は様子見で一階層までだって。そういうやり方だと経験にならないからダメだよ」
「むー。オルト殿は堅いですー!」
なんか効率厨対やり込み勢みたいなやりとりだな。俺は今の所オルトに賛成かな。
「……拙者のいいところイケメン殿にお見せしたかったもん……」
ははは、子供は守備範囲外だ。残念!
ギルド登録が終わりパーティ編成を行う。
とりあえず年長で経験者のオルトにリーダーをお願いしておく。
「リーダーの方が取得経験値は多いんだが、まぁ、初日だし仕方ないだろう」
オルトの指示で編成は完成する。ステータスにパーティ全員のステの一部が表示される。
クインLv14 HP:95 戦士
[L]オルトLv20 HP:82 商人
サリシスLv17 HP:65 準治療師
カンナヅキLv1 HP:224 小説家
「どういうことなの」
「なにかおかしい気がするんだが……」
「出番なさそうだねー」
「はい、気のせい気のせい」
俺はさっきクエスト報酬で受け取った木刀で素振りしつつごまかした。
「このダンジョンは閉鎖型シミュラクラで仮に死んでもドロップ品と取得経験値の半分を喪失して入り口に戻されるだけですむ。でもこのダンジョンの一階で死ぬことはまずないだろう」
コンピューターRPGにありがちな石レンガの壁の殺風景な通路を進みながらオルトがダンジョンの概要をざっくり解説してくれる。
「現在このダンジョンに入る冒険者の目的はコンプ勢か、下層でレアドロップする素材が目当てだ。つまり効率的にはあまり美味しくない」
「でも逆にいうと混雑してなくてよろしかろうもん」
「他のパーティに会うことがあるのか?」
「五階層が共有階になってる。このダンジョンでは冒険者殺しはシステムのペナルティ対象だがたまに頭がおかしいのがいるから気をつけた方がいい」
そんなんいるんかよ。だが思ってたより過保護なシステムで驚いた。
「人間の全体的な力の底上げは支配種族の命題だからね。育成途中で命を失ってたら本末転倒だよ」
通路を突き進んでいた先にある小部屋に入ると、中に数匹のスライムっぽい生物がいた。
「ここで最弱の敵だから多分木刀で殴っても死ぬんじゃないかな」
俺は試しに木刀を構えるとスライムが襲いかかってきたが、なぜか自然に体が動いた。
木刀の先が敵の内部のコアのようなものを突き、俺は手応えのようなものを感じた瞬間、敵はドットが崩れるように消えていった。
『ジェリバグ 1 を倒しました。経験値を5取得しました』
システムメッセージが流れた。
「お、やるね。一撃とは幸先がいい」
「カンナヅキ殿は剣術の心得もあるん?拙者てっきり魔法使い系かと」
「おめでとー」
スライムのドロップ品はジェリ。俺の怪我の治療でも使ったゲル状の物質だ。様々なアイテムの素材となるが治療関係の需要が多いとサリシスが説明してくれた。
「この調子でどんどん行こう」
その後も仲間に見守られながら二、三匹のスライムを倒した。
俺はエンチャントの方も試してみることにした。
「ステータスからエンチャントにアクセスできるはずだ。前もって魔法式を登録しておけば音声で発動させることもできる」
俺は一番威力の弱そうな“ブレ”をスライムに撃ってみる。発動するとスリングの玉のような魔法弾が飛んで行った。威力はイマイチのようで一撃では倒せなかった。倒すまで打ち込んでみたが数発撃ち込んでやっと倒せた。
「うーん速度が足りないな……連射できればいいのに」
「敵との相性が良くないね。森で小動物を狩る時は便利な魔法だけど……まぁ、レベル一ならそんな物だよ」
いくつかの小部屋の敵を倒しているとレベルが上がった。
――――――――――――――――――――――――――――――
名前:神無月 了 職業:小説家 レベル:2
AGE:18
STR:11(1)+2
CON:11(1)+2
DEX:13(1)+2
INT:22(2)+2
MND:18(2)+2
NOB:85
COM:15
HP:226(26+200)
MP:240(40+200)
――――――――――――――――――――――――――――――
特に何の感慨もないな。というか上がり幅低っ。レベル一だからこんなもんかもしれないが、特典補正なかったらザコじゃん。
しかし小説家が何でダンジョンでレベル上げてるんだって感じがすごい。新刊出せよ新刊。
「上がったねー」
「まどろっこしいもん」
「じゃあ、今日はフロアボス倒して帰ろうか」
「よっしゃ、瞬殺するもん」
「ダメダメ、トドメはカンナヅキに譲るんだ」
「加減が微妙すぎるもん……」
クインの血の気の多さがすごい。何でそんなに好戦的なんだ。
反面サリシスはずっとのんびりしてるし、その割にレベルが高いのも謎。というか治療師なんだ。そういえばモナ先生の助手みたいなことをしていたな。
一階層のボスはアルボラ。見た目は大きめの切り株に触手のような蔦や根をつけたような禍々しいモンスターだ。
「このフロアのボスは結構HP高めだから気をつけて。」
木刀だと厳しそうだな、と思ったので、もう一つのエンチャント“フラ”を試してみる。
指先から青い炎が現れボスの足元に着火した瞬間全身に燃え広がっていた。
ボスは苦悶の声を上げ、火が消える頃にはよろめいていた。
「……効果強すぎない?青いフラって初めて見たんだけど……」
「レベル一の火炎魔法に見えないもん……」
「うわー綺麗だなー……でも流石に一撃では無理だったか……この状態なら木刀でもトドメさせるんじゃないか?」
オルトはすでに思考放棄してるようだ。
俺は木刀を構え直し、おおきく振りかぶって袈裟斬りにした。
ボスは断末魔の残響音を残し崩れ去っていった。
俺のレベルは二つ上がった。
俺は付いてきてくれた三人にお礼を言い、ドロップ品を全て譲った。
結果、アイテムはオルトに、ジェリはサリシスに、フロアボスのドロップ品の聖樹の雫はクインに渡した。
「何もしなかったのに悪いもん」
「いや、一人だと不安だったし。何かあったら頼れるかどうかの差は大きいよ。本当に今日はありがとう」
「なんか想定したより全然余裕だったな。明日以降は普通にがっつり進行してもよさそうだな」
俺はオルトのつぶやきにギョッとした。
「ええー、大丈夫かなー」
ガチでキツイのはちょっとな。痛いの嫌だし。
「……何いってんだよ……自覚ないのか……というか何でLv1で被ダメージないんだよ……」
「まぁまぁ、オルト兄さん。明日もがんばろー」
□
帰りしな、オルトがギルド支部付属の大風呂に入って帰るといったので俺もついていった。
スーパー銭湯はよく行っていたな。風呂が大きいだけでテンションが上がる。
知らないジジイ他がこっちをガン見してくるけど、それは日本でもよくあることなので無視する。
インベントリからシャンプーを出して頭を洗っていると、オルトがすかさずシリアルコードをスキャンしていた。
「新商品持ってるなら言ってよ!」
「……悪い、新商品って知らなくて」
体を洗い終わった後、大風呂に浸かると緊張と疲労がほぐれていく。
ふと、何気なく横を見るとオルトが真顔でこちらを見ているのに気がついた。どうやら、左肩の刺青を見ているらしい。こちらが気がついたのを察知したのか、正面を向いた。
「今まで、ね……」
オルトは何かを言おうとして、頭の中でゆっくりと言葉を紡ぎながら話をつないだ。
「僕は思い上がってたのかもしれない……自分より頭のいい人間はいないって思っていた。ずっとこの村にいたから」
「わかるよ」
「本当に?君が?」
俺の出身地は西日本の小さな地方都市で、その中ではそこそこの勉強で1位か2位を取れるくらいの成績だった。別に思い上がっていたわけではないが、それでも大学に入って初めて本物の天才を間近に見て凹んだものだ。
「上には上がいるよ。いつだってそうだ」
「君でもそうなんだ……今だからわかるけど僕はずっと怖かったんだ。自分と同じ、いやそれ以上の知性に触れるのが……自分が役立たずになるのが……」
オルトは大きく息は吐き、言った。
「でも……それがこんなに楽しくてワクワクするなんて思いもよらなかったよ」
オルトは微笑んだ。
「にーちゃん、それ、マギアだろ?マギアの証だろ?」
唐突に声をかけられてそちらを見ると妙な男がヘラヘラしながら立っていた。
「めずらしーなー、ここら辺じゃ全然見ないもんな……ちょっと触ってもいいか?」
男の目が淀んでいてどう見てもまともではない様子に、俺は反射的に身を引いた。
オルトはすかさず間に入って睨みを利かせてくれた。
「なんだよーちょっとくらいいいだろ〜」
男がなおも歩み寄ろうとした時、背後から数人の男が現れ、変な男の肩を掴んだ。
「ちょっとこっちに来てもらおうか」
リーダーらしい男の指示で変な男はどこかに連行されていった。
「デュオさん、ありがとうございます」
オルトがリーダーに頭を下げたのを見て俺も礼を言った。
「気にするな、これも自警団の役目だ」
後で聞いたが彼は村長の次男で村の自警団の副団長でクインの父親らしい。
風呂上がりに休憩室で涼んでいると、オルトが売店で売ってたベリー果汁入りのミルクを奢ってくれた。
「うまいなー。絶対普通に飲むより風呂上がりの方がうまいよな」
「わかる」
俺はオルトに文書ツールの公開範囲の設定について聞いてみた。
「公開の設定?あー、あったなぁそういえば……でも公益文書の認定なんて普通は滅多にないよ。設定に関係なく文書の内容は検閲されてるし……そこを気にしてる人はいないよ」
「そうなのか?」
「そもそもシステムは人間に興味がないからね。もっとも上位存在から見たら僕らは蟻や蜂みたいな存在なんだろうな」
「前も言ってたな」
「システムが僕を認識してくれたら……どれほど嬉しいことか……まぁ、期待は全くできないけどね……」
「そうか……じゃあ、何なんだろうな」
「そういえば村長が君のことを高貴な人って言ってたらしいね」
「高貴?」
「ステータスに『NOB』って項目があるだろ?それのことだと思うけど」
「心当たりはないんだが……」
「何を表している数値かわかってないんだけどね。今のところ高いからって出世できるわけでもないし、何かが優遇されたり補正があるわけでもなし。それどころか滅多に増減しない固定値っぽいし」
「意味のないダミーのパラメータか?」
「どうだかね……噂では隠しパラメータに関係してるって噂はあるけど……」
隠しパラメータかー。確かにありそうだ。正気度とか幸運値とかありそうだもんな。
「まぁ、もしかしたらその辺が関係してるのかもね」
俺たちは明日のレベリングについて意見を出し合って話を詰めていった。
話題はエンチャントの魔法式に移り、EDKのβテスト版がきたことを言ったら、オルトは目の色を変えた。
「何でそういうことをすぐ言わないんだよ!早く試そう!!ゆっくりしてる場合じゃないだろ!!」
オルトは俺を引っ張るようにギルド支部をでて、そのままオルトの家にある作業室に駆け込んだ。
□
作業室はガレージのような雰囲気だった。
中央に大きなテーブルと使用意図のわからない道具が散乱していて文字通りおもちゃ箱をひっくり返したような部屋だった。
オルトはヘッドフォンのような道具を二つ出して、その一つを俺に差し出して装着するよう指示をした。
オルトもそれを装着して、コードをシーケンサーみたいな装置に接続した。
「これで作業中のツールの画面を共有できるんだ。早く起動してよ」
「ほーほー。ちょっと待て」
俺はEDKを起動した。初期画面が出てきて一分ほどかかって入力可能になった。
付属のリファレンスに目を通すと、よくある感じのオブジェクト指向のスクリプト言語だった。
大学時代にゲーム会社のテストプレイの短期バイトに行ったはずが、なぜか開発チームに回されデスマーチに巻き込まれ留年した記憶が蘇る。あの時は本当に危なかった。退学にならなかったのは奇跡だった。社長はウチに来れば?とか呑気に言ってたが冗談ではない。あんなデスマ、命がいくつあっても足りない。
俺は、適当にファイルを作って、簡単なコードを入力して、コンパイルしてみた。
「よし、じゃあ、早速テストだ!《 hoge 》」
俺が魔法式のショートカットを唱えると空中に光る文字が浮かんだ。
【HELLO WORLD】
やっぱり最初に触れる言語でまずやらなきゃいけないのはこれだよな。
「へー。でももうちょっと実用的なのを試したほうがいいんじゃないか?」
オルトはちょっと不満そうだが、これは大事な儀式なのだ。もはや掟なのだ。
「これは必要な通過儀礼なんだよ……じゃあ、ブレの改良をまず試したいかな」
俺たちは真夜中になるまで夢中になってEDKを使い倒した。
すげえ楽しかった。
心配になったサリシスが迎えに来て、後ろ髪を引かれる思いで作業を中断して宿に帰った。
「あー、早く一般公開してほしいな。待ちきれないよ」
「β版とはいえほとんどできてるようなものだし。もうすぐじゃないかな。じゃ、また明日」
「おやすみー、オルト兄さん」
オルトは本当に名残惜しい顔をして手を振った。
□
宿屋に戻った俺は玄関横のウッドデッキから夜空を見上げた。
あの日、初めてここに来た時に見たでかい月と光るガスをまとった美しい星団があった。
地球の星空とはまるで違う。この世界でも星座の物語はあるのだろうか。
「どうしたの?上に何かあるの?」
サリシスは不思議そうに話しかけた。
「いや、星を見てたんだけど……」
「星なんて見てどうするの?」
「えっ……ここじゃ天体観測とかしないのか?暦を調べたりとか測量したりとか……」
「?、システムを見れば済むことじゃない?」
言われて気がついたが、確かにそうだ。
なるほど、最初から高度な文明が当たり前にあるがために逆に発展しなくなるものがあるということか。
「そうか……誰も星を見ないのか」
俺は姉妹のように寄り添う青い星々を見つめながら呟いた。
「……こんなに綺麗なのになぁ」
そうして、俺とサリシスは小一時間星空を無言で眺め続けたのだった。
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