第4話 間章 人形と人間の伝説

人形は孤独だった。人間達は孤独ではなかった。

人形はいつだって一人だった。

人間達はいつだって仲間がいた。

人形はどこに行っても独りだった。

人間達はどこにいてもどこに行っても友人が、恋人が、家族がいた。

人形はいつしか夢を持った。独りの自分と目の前で笑い合い言葉と心を交わす人間達。

自分と彼らは何が違うのだろうか?

現在を過ごすいきる彼らと、永遠に存在するいきる僕。

生命としての格が違う。今までで染み付いている常識が違う、価値観も違う。

自分と彼らは今まででが全て違う。

それでもと僕は思う。

知らないことがあるのは嫌だと思うのは傲慢だろうか?

僕は愛を知らない。愛されたことはないし、愛を与えたことはもちろんない。そんな僕が愛を知りたいと思うのは強欲だろうか?

人間達が心を交わし、言葉を交わし、愛情を交わしていくなか。僕だけが一人で何故僕だけが愛情を知らないのだと憤ることはただの醜い嫉妬なのだろうか?

もしかしたら、何もかも違う自分が人間に憧れるのは、許されざる罪なのかもしれない。

それでも僕は

「人間になりたい」

それが人形として生まれた僕の願いだった。

それだけが、空っぽであった僕の中にある唯一つだけの存在するいきる理由なのだ。

だから僕はこの夢を叶える。誰がなんと言おうと僕は僕だけの夢を叶える。それこそ神だろうが口は出させない。

その為にはまず、人間を理解しなければと思った。

人間達が何を考え、どういった行動をするのかを理解しなければと。

それから毎日人間達のことを考えた。

人間達と仲良くなるプランを必死に考えて、笑顔を出せるように頑張って練習もした。

プレゼントだって用意したし、喜んでくれるように工夫を精一杯ほどこして。

満を持しての1回目。これからどうなるのだろうと思う不安と、それでもなお、あふれでる自分の夢に前進する期待とわくわくを胸に抱きながら挑んだ。








…結果は惨敗だった。




僕の笑顔は気持ち悪かったらしい。僕を見るなり、嫌な物を見た様な目でみられた。

頑張って用意したプレゼントは目の前で粉々にされた。

まだ1回目だ。これからまだチャンスはある。

また準備をして2回目に再チャレンジする。




2回目。

…結果は同じ。

ほぼほぼ1回目と同じだった。違うとすれば1回目と違い、その場で殴られたことくらいか。

まだまだチャンスはある。時間だけはあるのだから。



まだ5回目。5回位で泣き崩れていたら僕の夢は叶わない。まだまだ諦めない。また再チャレンジだ。

最初の世界から5回世界が変わった。



……これで50回目。まだ…まだまだいけるはずだ。

いつかは受け入れてくれる。僕はまだ…頑張れる。

最初の世界から50回世界が変わった。




これで100回目!やっと受け入れてくれる人に出会えた。彼女と僕は夫婦になった。

そして僕は愛を知った。

僕の夢に一つの夢が追加された。

「家族と平和に生きる」












奪われた。

人間に僕の妻を殺された。どうやら彼女は人間の間で相当人気があったようだ。

目の前であられもない姿にされて辱しめられていた。そのままゆっくりと殺された。

僕は見ているだけしかできなかった。

その後のことは覚えていない。

最初の世界から100回、また世界が滅んだ。






1058回目、

二人目に、僕を受け入れてくれる人に出会った。この人は守ろう。それが死なせてしまった彼女への報いになると信じて。




また、死なせてしまった。そしてまた、奪わせてしまった。

人間はいつも僕から奪っていく。少し位夢見たっていいじゃないか。そんなに僕が気に入らないって言うのかよ。

1058回目、世界が消えた。




1500回目、奪われた。

また守れなかった。



9612回目。

守りたいのに手が届かない。



100518092回目。

何故僕は守れないままなんだ。




4125087635089回目。

冷たくなった妻の手を握りながら、人形は心を閉ざした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強の人形 世界への挑戦 @asaluto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ